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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第三記:夏国編
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九章 無自覚の力

更新しました。最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏

九章 無自覚の力

『私が消えても、この子を・・・』

 僕は知っている・・・。命がこの世から消える瞬間と音を・・・。記憶は薄れてほとんど覚えていないけど、父上が泣いているのは覚えている。

 僕は何が起こったのか、何もわかっていない。

 その音がまさに今聞こえた気がした。


 瘴気にあてられ、涼羽は七夕によって担ぎ込まれ懸命の治療が行われていた。しかし涼羽の症状は悪い状況だった。すぐに治療をすれば済むものなのだが、涼羽は我慢したせいなのか悪化している。

「水無月め、無理しやがって!」

 海袮も辛辣な言葉を飛ばしながら涼羽の治療に当たる。運がいいことに他の患者の治療を他の医術師に任せ、現在海袮は涼羽にかかりきりになっていた。持参した薬草を煎じて飲ませているが回復の兆しが見られない。

「母さま・・・」

 織が泣きそうだ。江将軍が織を抱き上げて大丈夫だとなだめる。部屋の外から七夕と蓮、真聖は見守る。しかし嫌な予感しかしない。すると、

「風間!」

 海袮が大声で叫んだ。すると七夕の背後に控えていた風間が入ってきた。

「残った薬草持ってこい!」

 風間は急いで薬草を取りに走った。七夕は海袮に問いかけた。

「涼羽はどうだ?」

「症状が悪化してるね。薬湯を飲ましているが、このまま意識が戻らないと・・・下手したら・・・」

 それを聞いた七夕が目を見開いた。すると七夕は海袮の胸ぐらを掴んでふざけるな! と叫んだ。その声に近くにいた人物たちの視線を全て集める。

「お前! 医術師じゃないのか?! このままじゃ・・・涼羽は、涼羽は・・・」

 七夕もうなだれ始める。目には涙を浮かべている。何もすることができないことに歯がゆさを感じていた。

 蓮はその光景が椿を失った時に見せた蓮紀の姿に重なって見えた。

 絶命した椿の手を握り泣きながら名前を何度も読んでいる蓮紀。その光景は何にも代えがたいものだった。一通りの治療を終えて海袮が言った。

「手は尽くした。あとは、水無月が持ちこたえるかどうかだ。明日目覚めなければ絶望的だな・・・」

 涼羽は死んだように眠っている。先ほどよりは落ち着いている。しかし、安心はできない。真聖は織を連れて部屋へ戻った。不安がる織をなだめている。

「大丈夫だよ、きっと」

 すると海袮がやってきた。織が怖がって真聖の背後に隠れる。怖がらせてしまったみたいやな、と笑った。すると真聖の頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。

「海袮のお頭さん」

「真聖と言ったな。水無月の子の」

 真聖は思った。そういえば涼羽の子供で通していたな、と。しかし海袮は見抜いていた。蓮と真聖が涼羽の本当の子供ではないことを。あえて乗って楽しんでいたのだ。

「・・・バレてるんだったら言えばよかったじゃないですか」

「別に。言ったらヤバそうだな、って思っただけだ」

 海袮との沈黙の時間が続いたが、海袮はその口火を切った。

「お前、どこから来た?」

「冬国からです」

「冬国? またたいそう寒いところから・・・ご苦労なこった・・・。あの銀髪の奴も冬国からか?」

 真聖はムッとなって海袮に言う。

「銀髪の奴って言わないでください! 蓮は冬国首領である蓮紀さまの子供なんですよ」

 おやおや、と驚いている。まあ言われてみればそうか、と納得する。そして真聖になぜ夏国に来たのかと聞くと真聖は華札継承者を探して封印をするためだと話す。

 海袮も華札継承者だった。しかし、真聖の前では名乗ることはしなかった。しかし海袮は最初とは打って変わって話を静かに聞いていた。

 すると真聖は海袮にあることを質問した。

「海袮さんは涼羽さんと顔見知りなんですか?」

 まあね、と海袮は真聖の隣に座って話し始めた。


 お前たちが生まれるずーっと前の話だ。

 まだ俺がシグレ賊の頭になる前だ。俺は集落一の強さを持っていたと自分で思っていた。だけど、ある日水無月に打ちのめされたんだ。もうコテンパンにな。思い知ったよ、俺は井の中の蛙だってな。あの頃の水無月はもう破天荒で男勝りで、女の「お」の字さえ消えかけていた。

 お前はまだ強くなれる、その言葉を残した。俺は悔しくてな、必死に稽古に励んで水無月とよく試合をしたものだ。

 よき好敵手というのはこういうことをいうって思ったよ。その後、俺は頭の跡を継いで頭になった。が、それと同時に水無月は文月と結婚しちまった。もうあの頃のような水無月はもういない、絶望したよ。なんだか、心に穴が空いたって感覚だったぜ。

 別に水無月や文月を恨んでいるわけじゃねえよ。


 真聖はそうだったんですね、と告げた。すると背後に隠れていた織が顔を出す

真聖に海袮は怖い人? と聞くと真聖は違うよ、と首を横に降った。

「母さまの知り合いだったんだって。怖い人じゃないよ」

 すると海袮は織を抱き上げた。そして織の瞳を覗き込む。涼羽と同じ青い瞳。それに対して海袮は真っ赤な瞳。それがぶつかり合う。

「ほんと、水無月にそっくりだ」

 海袮は突如として豪快に笑いだす。何がなんだか分からないまま織は真聖を見る。しかし真聖もどういう意味かは分からないままだ。


 大丈夫だ。こんな可愛い娘を残してくたばるはずがねえ。信じろ、水無月の力をな。


 海袮はそう思った。



 太陽が沈み、夜になった。月明かりが照らす時刻になる。涼羽が眠る部屋では蓮が一人で見守っていた。眠気と戦いながら涼羽を見守る。眠気というよりもあの光景が脳裏に焼き付いて涼羽の側から離れられない。

 優しい涼羽の言葉や表情が蓮から消えることはない。

「母さん・・・」

 蓮はおもむろに涼羽の隣に寝転ぶ。そして涼羽にくっつくような体勢になった。涼羽にまだ暖かい温もりがある。しかしそれは不完全で今にも消えてしまいそうだった。その暖かさを逃すまいと蓮はしがみついた。

 布団の柔らかさと涼羽の温もりに包まれ、蓮はそのまま眠ってしまった。

 蓮が眠りについてしばらくした時間に涼羽の様子を見るために七夕がやってきた。すると涼羽に寄り添っている蓮の姿が目に入る。

 やれやれ、と呆れの溜息をついた。しかし側から見れば本物の母と息子に見えるもの事実。少し複雑な気持ちを抱える七夕。

 すると急に蓮の着物が風で揺れた。風は一切吹いていない。なぜなのだろう、と七夕が首を傾げていると次の瞬間、水色の光が溢れた。

「なんだ?!」

 七夕が驚き、涼羽の元によると鎖骨にある蝶の字が光っている。蓮は一切起きない。すると七夕の痣にも変化が現れる。体の奥底から力が湧いてくる。それは無限だ。しかしその光はすぐに消えてしまった。七夕が目を開けたその時にはまた静寂な部屋に戻っていた。

「今のは一体・・・」

 七夕はその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 涼羽の顔を見てとりあえずはなんともないことを安心して織と真聖が寝ている部屋へ戻った。七夕が姿を消した後、涼羽がゆっくりと瞳を開けた。

 歪んでいた視界は徐々に回復し、はっきりしてくる。

「あれ・・・? ここは?」

 視線を移すと静かな寝息を立てている蓮が目に入る。涼羽にしがみついて離れない。

「ごめんなさい、蓮。心配してくれて」

 涼羽は小声でそう言うと蓮に布団をかぶせた。そして蓮を腕で包み込むようにくっついた。蓮は涼羽の温もりに包まれて眠った。



 朝になって驚いたのは蓮だった。

 蓮が目を覚ますと涼羽がこちらを見て微笑んでいる。これは夢だ、と自分のなかで言い続けているが蓮の頬がつねられた。

「いひゃい」

 視界がはっきりしてくる。涼羽が目覚めていることをようやく理解した。

「蓮」

「ほ、本当に・・・涼羽さん?! もう体は大丈夫なんですか?!」

「ええ。もう大丈夫。蓮、心配させてごめんなさいね」

 それを聞いた蓮は涼羽に抱きついた。涼羽の体には温もりがある。蓮はそれを離すまいとしがみつく。そして様子を見に来ていた七夕と真聖、織も驚いた。

「母さま!」

「織!」

 涼羽は織を目一杯抱きしめる。織は朝からまた泣き出した。涼羽が織の背中を優しくさすってあげる。すると真聖と目があった。涼羽はおいで、と手招きをする。真聖は考えなしに一歩を踏み出した。するともうその足は止められなかった。涼羽に一直線だ。

「真聖・・・」

 真聖も涼羽にくっついて涙を浮かべた。七夕も安心というか何が起こったのか分からないままで呆然としていた。

 すると後ろから七夕の背中をどついた。振り返ると海袮がいた。何をするんだ、と言うと顎で涼羽のいるほうを見る。

「ほらよ。涼羽はそう簡単にくたばる女じゃねえだろ? それくらい、夫なんだから信頼してやれよ」

「ああ」

「でもあの調子なら大丈夫そうだな」

 七夕はあの光を言い出せなかった。しかしそんなことはどうでもいい。愛する妻の意識が回復し子供達とこうして触れ合いをしている光景を見るだけで安心できる。本当に蓮と真聖が本当の子供だと錯覚をしてしまう。

「七夕」

 名前を呼ばれて振り返る。するとそこには七夕を見つめる涼羽の姿があった。すっと立つと七夕のそばまでやってきた。

「心配かけて悪い」

「海袮。助けてくれてありがとう」

 海袮にも礼を述べた。すると別に! と海袮はそっぽを向く。すると海袮はそっぽを向きながら涼羽に聞いた。

「覚えてくれてたんだな」

「忘れるもんか。私にとってあの頃は一番輝いていてそして女に抗っていた時期だからな。まさか、頭になったお前に助けられるとは思わなかった」

 涼羽の口調が昔に戻っている。それに懐かしさを覚える海袮はまた笑った。元に戻ってるぞ、と笑い出した。それにうるさい! と突っ込んだ。

 その光景を見て蓮たちは思わず吹き出した。元の明るい家族に戻った瞬間だった。

「涼羽さん。病み上がりのところ申し訳ありませんが、封印をお願いできませんか?」

 真聖が言った。それを聞いた涼羽は確かにそうね、と言って布団から立ち上がる。

 急いで封印に行かなくてはいけない。そう蓮が急かすと涼羽もそうだな、とつぶやいた。しかし肝心の葉月の華札継承者がいない。話は結局振り出しに戻った。しかし、大人たちは顔を見合わせてニヤニヤと笑っている。

「どうしたんですか?」

 理由を聞くと七夕は「いるよ、葉月の華札継承者なら」と告げた。え? と首をかしげる。周囲を見渡すがそれらしい人物がいない。すると海袮は仕方ねえな、と言いながら腰にある痣を見せた。


「俺がお前たちお探しの葉月の華札継承者、葉月海袮さまじゃあ!」


 それを聞いた瞬間、驚愕の悲鳴が響いたのは数秒のちのことである。



 涼羽の回復に際し、午後になって三人は翠徳に謁見する。しかし重要事項を忘れてはおらぬ、と翠徳は言った。それは海袮のシグレ賊の起こした鉄の横取り騒動のことである。あれは夏国一大事ということで罪が凍結された。

「王様。俺はどんな罪でも償います。どうぞ、賢明な処罰を」

 海袮がそう言うと頭を下げた。その光景を蓮と真聖が隣で見ていた。二人は小さな声で話す。

「鉄を横領なんて許してくれないよ」

「どうなるんだろう・・・」

 不安に思うながら翠徳は処罰を下す。

「シグレ賊には以後、集落周辺の整備を命じる!」

 それを聞いて海袮は驚いた。それが鉄を横取りしたことに対する罪の重さではないからだ。それでいいんですか? と海袮が聞くと翠徳はきっぱりと言った。

「もし鉄が流入すれば、事態はさらに深刻化していたであろう。それを未然に防いだのはシグレ賊の持つ知識あってこそ。それは評価されるべきこと。しかし、何も言わずに横取りうるというのは我が心に反する。そのため、整備を命じる。よいな?」

 それを聞いた海袮はその処罰を心より受け止める、と誓った。

 鉄横取り騒動の後、本題に移る。涼羽の回復を確認し安心したのも束の間すぐに指示を出す。

「六月の札を宿す、水無月涼羽。七月の札を宿す、文月七夕。八月の札を宿す、葉月海袮。今すぐに石碑に向かい、封印を完成させよ。黒龍の脅威から守りぬくのだ!」

「はっ! 仰せのままに!」

 三人は礼を尽くす。最初はやーだね、などと言ってかわすと思われていた海袮だったが翠徳の心意気に乗って命令を受けることになった。

 命令を聞いてすぐに涼羽と七夕、海袮は馬に乗り石碑のある山へ登っていく。織は涼羽の馬に、蓮は七夕の馬に、真聖は海袮の馬に乗って進んで行く。

「母さま! たかあーい!」

「織! 暴れちゃダメ。馬がびっくりしちゃう」

「はーい」

 不満げに返事をした織の声が聞こえて来る。馬はだんだんと石碑の方へ向かっていく。蓮の表情は次第に真剣さを帯びていた。

 夏国での病気騒動は終結し、本来の目的を達成するところまでやってきた。

 蓮は心臓の高鳴りを感じた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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