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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第三記:夏国編
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七章 隠された秘密

夜遅くに失礼します。更新しました。最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏

七章 隠された秘密

「なんで僕たちを?」

「さっき言ったじゃないか。君たちは水無月をおびき寄せる餌だって。それにしても・・・」

 海袮は蓮の方をジロジロと見つめてくる。

「お前・・・本当に、水無月の子か?」

 蓮の背中に冷や汗が落ちる。蓮はその場を切り開くために打開策に出る。

「そうです。僕は水無月涼羽の息子です。僕の目は水色ですけど、それは父の瞳の色が影響していて薄い色をしてるんです」

 蓮は真意を掴まれまいと海袮を睨む。織は蓮の後ろに隠れる。すると海袮が織に視線を向ける。織について聞かれた蓮は織を自分の妹だと言い張る。蓮の説得は海袮を納得させられた。

「ま、ここでおとなしくしてな。俺たちシグレ賊は無用な殺生はしねえ。それが俺たちのケジメだ。でもここを逃げれば・・・命の保証はできねえ。いいな」

 脅しとも見える言葉を吐き捨てて、海袮は出て行った。蓮は安堵のため息を漏らした。その時、織が抱きついて泣いた。

「蓮にぃに・・・。おうちに帰りたいよぉ・・・」

「大丈夫だよ。きっと・・・誰かが助けてくれる・・・」

 蓮は妙に落ち着いている。春国の処刑未遂に比べたらまだかわいいものだ。蓮はそんな妙な落ち着きのまま織を守るように抱いていた。眠くなって目を瞑ったが、すぐに間髪入れずに蓮の目が見開かれた。

 なんとも言えない不思議な感覚が蓮に伝わる。脳裏に浮かんだのは二人の人影。一人は大人、もう一人は蓮と同じくらいの子供。二人には異なる気が流れていることを感じる。

 見えたのは鳳凰と猪。

 それを見て蓮はその人影が誰なのかすぐにわかった。

「来る・・・」

 蓮が呟いた。



 茂みから顔を出して七夕と真聖は集落を偵察していた。藁などで組み立てられた竪穴式住居から女子供を始め、シグレ賊の人間と思われる者たちがぞろぞろと姿を現し始める。

「蓮たちはどこにいるんでしょうか?」

「わからない。でも、あの会話からしたら、きっと頭の海袮のところだろう・・・。蓮たちをさらえという命令を出したのはきっと彼だから、逃げないように手元に置いておく可能性は高い」

 七夕に連れられて集落の入り口へやってくる。招かれざる客のごとく二人がそこに立つとシグレ賊の男たちが警戒を強める。

「お前、誰だ? 水無月じゃないな」

 七夕と真聖が上を向くと海袮が腕組みをして木の上からこちらを見下している。七夕は真聖を自分の背後に隠し海袮の視界から逃す。七夕は海袮を睨みながら腰の剣に手をかける。

「僕は、文月七夕。涼羽の夫だ。妻に代わり、僕が相手になろう。さあ、子供たちを返してもらおうか」

 すると海袮の視線は七夕の後ろの隠れている真聖を見つける。真聖は鋭い視線に気づいて恐る恐る顔をのぞかせる。やはり、海袮の視線は真聖に向いているものだった。

「・・・水無月は変わった。お前と結婚してからな。俺好みの女だったのに、お前に誑かされて弱くなっちまった・・・。まあ、いい。お前を降参させれば、水無月も本気を出すだろう」

 海袮は木の上からよっこらしょ、と降りると腰に下げていた短剣を抜く。説得のやむなし、と七夕も剣を抜く。小さな声で真聖に茂みに隠れるように促す。真聖は頷いてすぐに茂みに身を潜めた。

「へえ、子ども三人か・・・。水無月もご苦労なことだ。さあ、来いよ」

「言われなくても---!」

 七夕と海袮の刃が混じり合い、激しい音を立てた。二人の腕はどうやら互角だった。その迫力は少し遠くにいる真聖にも伝わって来る。息を飲む戦いが始まった。

 何度も刃が交わり、気迫は伝わって来る。

 七夕は少し息を荒げる。しかし、野生に生きるシグレ賊である海袮といえば息切れは一切見せなかった。汗を拭う七夕を見て海袮は言う。

「もうへばったのか? 水無月涼羽の夫が聞いてあきれるぜ」

「うるさい。涼羽に追いつけ追い越せで身につけた武術を・・・、舐めんな」

 涼羽のことを一番理解し、愛し、支えることを誓った七夕。人懐っこい犬のように明るく優しい男が本来の姿を垣間見せた。

 剣を振り回して、また構える。そして交わり、戦いは再開される。

 海袮の身軽さが功を奏し、七夕は一瞬の隙を作ってしまった。隙あり! と海袮は短刀を峰打ちで七夕の脇腹へ一撃を食らわす。七夕はあまりの衝撃に絞り出す声を出した。そのまま、痛みのあまり起き上がるのも一苦労。

「結構手ごたえあったよ。さあ、いい加減降参したらどうだ?」

 海袮が七夕に降参をほのめかす。しかし七夕は頑として降参はしない、と言い張る。しかし七夕の体は悲鳴を上げ始めていた。

 七夕の家である文月家は学問を修める家柄。武芸を修める水無月家とは違う。文月の血を受け継ぎながらも涼羽のため、ひいては自分のために武芸を習い始め誰もが認める男になった。しかしその自信も海袮の前では飛ぶフケと同じ感覚だろう、と絶望に浸る。

「待って」

 茂みから真聖が出てきて、七夕の前に立ちふさがる。

「黄色の瞳・・・。お前、水無月の子か?」

 真聖は睨みつける。恐怖の気持ちを無理やり押さえつけて海袮に立ちはだかる。すると真聖は口を開いた。

「シグレ賊は義賊じゃないんですか? どうして蓮たちをさらったんですか? す・・・、母さんはきっとがっかりすると思います。夏国の誇り高い義賊がついに堕ちたのかと」

 真聖はすらすらと言葉が次から次へと溢れて止まらない。恐怖というよりもなんで? どうして? と言った疑問が多く、次第に尋問のようになっていく。決意に揺れた黄色の瞳に海袮は口角を上げた。

「ガキ。名前はなんて言うんだ?」

「真聖・・・」

「そうか」

 すると海袮は短刀をしまい、七夕に可愛い息子に免じてここまでにしてやる、と言った。すると先ほどの好戦的な視線は消えて、入れ、と集落の中へ入るように促される。真聖は安堵の息を吐いた。

 七夕が真聖の肩に手を乗せた。

「助かったよ・・・。真聖、君は度胸がある。僕なんかよりはるかに・・・」

「七夕さん・・・」

 すると七夕は自分の口元に人差し指を立てる。そしてしーっ! と言うと真聖は口を手で押さえた。

「真聖。海袮は君のことを僕と涼羽の息子だと思っているはず。だからまあ、呼びたくはないだろうけど、僕のことも『父さん』って呼んで。蓮もそのようにしているはずだからね。辻褄合わせさ」

 七夕がそう言うと真聖は頷いて、「わかったよ、父さん」と笑顔で言った。

 真聖の中に七夕をお父さんと呼ぶことに抵抗などなかった。父親も母親も知らなかった真聖にとってお父さんと呼べる存在ができたことが何よりも嬉しかった。さらに七夕は出会ってから様々なところで助けてもらっている。蓮紀と同じくらいに真聖のことを実の息子のように振舞ってくれている。その思いが真聖を押し上げた。

「おーい! 早くしろー!」

 遠くから海袮の呼ぶ声が聞こえて来る。七夕は剣をしまうと真聖と一緒に集落の中へと入っていく。

 海袮の後をついていくとたどり着いたのは、洞窟だった。ロウソクの炎を頼りに進んでいくと、行き止まりの場所に大量に何かが積み上げてあった。

「あれは?」

「・・・間違いない、鉄だ」

 秋国から提供される鉄が大量に備蓄されていたのだ。これで七夕の考えは的中する。義賊と名高いシグレ賊が鉄を横取りしている疑惑に確証がついてしまった。

「海袮。これはどういうことだ・・・」

 七夕が聞くと海袮は先ほどのような好戦的な表情をせず、キリッと真面目な表情をして七夕を見る。

「文月姓を名乗るなら、お前だって感じているはずだろ? 古の魔物・黒龍を・・・」

 それを聞いて七夕と真聖が凍りついた。

 黒龍の話を信じているのか? と七夕が聞くと信じている、と返答した。黒龍は多くの人たちがお話の中に出てくる伝説の黒い龍と思っている。しかし真聖にはわからないことがある。

「黒龍と鉄、どういう関係が?」

 海袮は黒龍の伝説の中に厄災を生み出すという記述を口にした。黒龍の放つ瘴気には人間の体調を狂わせ、挙げ句の果てには原因不明の疫病が流行り大量の死亡者が出た。

「シグレ賊には昔から伝承があってな。鉄と瘴気が交じり合う時、大量の人間が命を落とすと」

「どういうことだ?」

「シグレ賊には少し変わった話があってよ。黒龍の瘴気と鉄が混じったその時、病気が生まれると。その病気の治療法はシグレ賊医術師しか知らない。シグレ賊秘伝の製法だ」

 七夕はじゃあその病を国に蔓延させないために、自分たちの考え方に反してまで鉄を横取りしたのか、と問う。しかし海袮はハイ、そうです、とは語らなかった。

 その時、ギャワッ! と何かの雄叫びを聞いた。三人が一気に雄叫びのする方向を見る。

「真聖。聞こえた?」

「うん!」

 七夕がそう聞くと真聖は頷いた。そのことに驚いている人物が一人。海袮だった。なぜ雄叫びが聞こえた?! と聞こうとした時また雄叫びが聞こえてくる。空を見上げると龍が塒を巻いて夏国を見下していた。

「・・・覚悟せよ」

 低く身の毛もよだつような声が聞こえたかと思うと黒い瘴気が夏国の街を包み込む。それを見た海袮はまずい! と言った。

「あの瘴気には人の体調を狂わせる。早くしないと死人がでる!」

 海袮の言葉にハッとして七夕は真聖を見て言う。

「真聖。お前はこのシグレ賊の集落にいろ。ここからなら瘴気から離れる。病気になる心配はない。だから、蓮と織を探して待っているんだ」

「そんな?!」

 七夕は真聖たちを危険から遠ざけるため言い放つ。海袮もシグレ賊に指示を出す。海袮も街へ向かい応急処置を行う、と言う。そのため、村にあるだけの薬草をかき集めて来い、と命令を下すと、シグレ賊の男たちはおう! と声を上げて薬草集めに向かった。

「七夕さん・・・」

「君たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。ここで大人しくしているんだ」

 七夕は真聖の目線に合わせてしゃがみ、肩を掴んだ。七夕は海袮に蓮と織のいる場所へ案内しろ、と言う。海袮は罰が悪そうに顎で自分の家を指す。

 七夕は真聖と一緒に海袮の家に向かった。

 入ると縄で自由を奪われている蓮と織がいた。七夕はすぐに駆け寄り、体を揺らす。

「織! 蓮! しっかりして!」

 すると織がゆっくりと目を開く。涼羽から受け継いだ青い瞳が大好きな父親の顔を認識して涙が溢れでる。

「父さま! 父さま!」

「織・・・。怖かっただろう・・・。もう大丈夫だ・・・」

 織を抱きしめる七夕。蓮もゆっくりと目を開けた。真聖の顔が目に入る。蓮も無事でよかった、と安堵の声を漏らす。しかし安心している場合じゃない。すぐに事の次第を蓮と織に伝える。織は理解ができず首を傾けていたが、蓮はなんとか理解し驚いていた。

「黒龍の瘴気で病気が?!」

「うん。今から七夕さんと海袮さんが向かうって」

「あの人は鉄を横取りした悪い奴じゃ!」

 蓮がそう言うと七夕はそれが誤解だった、と言う。わけは後で話すとして三人は絶対にシグレ賊の集落に残るように言った。蓮はわかりました、と言った。真聖はどうして?! と聞く。

 僕たちが行っても何もできないよ。

 蓮はそう言った。真聖には華札の力がある。しかしここで死んでしまっては意味がない。今、師走の札を持つ人間は彼しかいないのだから。蓮も何もできない歯がゆさを幼いながらに痛感していた。

 海袮はありったけの薬草を積み、馬にまたがる。七夕も馬にまたがった。

「お前たち! できるだけ薬草を探してくれ! 集まったら街へ持って来るんだ!」

 七夕は三人に言い聞かせた。

「いいかい? ここにいれば安全だ」

「でも母さまや王様は?」

「そうだよ。す、いや、お母さんが心配だよ。ね、蓮」

「え?! あ、うん! お母さんは大丈夫なの? お父さん!」

 蓮は咄嗟の辻褄合わせに対応し、七夕に聞く。七夕は確かに母さまの事が心配だがきっと大丈夫だ、と七夕は言った。むしろお前たちに何かあれば母さまが心配してしまうから、と言い聞かせる。

「・・・子どもたちを頼みます」

 七夕はそう言うと海袮と一緒に馬で駆け出していった。


 翠徳さま、涼羽、みんな! 無事でいてくれ---!


 馬に乗りながら七夕はその事だけを考えた。その様子を静かに見ていた海袮は笑いながら言う。

「お前、剣の腕はイマイチなのに、乗馬はなかなかやるじゃん。褒めてやるよ」

「僕の子どもたちを怖がらせたお前に、言われたくないよ!」

「お〜怖い怖い・・・」

 七夕の態度に若干ヘラッとして流した。瘴気はだんだんと黒くなっていく。急がなければと気持ちが焦る。すると海袮は七夕に言った。

「そういえば、お前、文月姓を名乗ってたな?」

「どうして今?! それが?!」

 急がなければ大事な街も、君主も、愛する妻も失うかもしれないという焦りと恐怖の中にいる七夕に無意味な質問をした。七夕が苛立ちを覚える。

「てことは、華札継承者だったりするか?」

「・・・なぜ、お前がそれを聞く?」

 心の真意を読み取られそうになる。七夕は少し冷静になって海袮に返す。馬に乗りながら海袮はバランスを取りはじめ口を動かし始める。しかしよく聞こえなかった。もう一回、言ってくれ、と七夕は言った。すると海袮は大きな声で言った。

「俺も、華札継承者だから!」

「は?!」

 七夕は驚き、次に出てくる言葉を出せずにいる。しかし、飄々で掴み所がなく、少し俺様気質な自信家の海袮のことだ。もしかしたらからかっているのではないか、と深く考えてしまう。

「証拠を見せてくれ!」

「ほらよ」

 海袮は馬の手綱を口にくわえ、上の着物を脱ぎ出し上半身をあらわにする。その体はシグレ賊の男であり、野生で育った証がしっかりと刻まれている。少し焼けた肌、鍛えられた肉体。

 七夕もそこそこ筋肉はあるが海袮には遠く及ばない。

 その海袮の腰を見ると、そこには雁の痣が残っている。海袮は嘘などついていなかった。驚く七夕をよそにやあやあ我こそは、と名乗り出す。

「俺は、シグレ賊の頭にして八月の札『ススキに月、雁』をこの身に宿す、葉月海袮ハヅキアマネじゃああ!」

 勢い良く名乗りながらスピードを上げて七夕との距離を離していく。七夕はそれに追いつくと七夕は信じがたい、と何度も口にする。華札継承者には封印の義務がある、と告げると海袮らしい言葉が返ってくる。

「俺はお前には従わない! 首領さまが俺に頭を下げてくれたら考えてやってもいい!」

「お前! 華札をなんだと・・・」

「シグレ賊は誰にも媚びねえ、従わねえ、群れねえ。義に生きることは首領さまと同じだがそう簡単に協力する、とは言えないね。俺たちには俺たちの誇りがある。首領さまの一家臣に過ぎないお前に言われる筋合いはない!」

 海袮は真剣そのものだった。

 七夕は言い返すことができない。海袮の言う通り、自分は翠徳に仕えている一人の家臣に過ぎない。シグレ賊の考えに反していたのだろう、と思う。

「見えてきた・・・」

 翠徳たちのいる城が見えてきた。七夕は揺れる気持ちを抑えて、街へ降りていった。



 一方、瘴気に覆われた街では海袮の言う通り、体調不良者が多発し城も解放して国中の医術師をかき集めて治療にあたらせていた。

「一人でも多くの命を救え! なんとしてでもだ!」

 翠徳の指示通り、兵士や家臣は動き出す。城で待機を余儀なくされていた涼羽も動き出す。医術師たちが必要とするものをひたすら運んだ。様々な怒号が飛び交う。

 その光景はまさに地獄絵図だった。お年寄り、若者、小さな子供に至るまで老若男女が城に次々と運ばれてくる。その列は途絶えない。

 治療を受けている母親のそばで泣き叫ぶ子供。その光景を見て涼羽は胸が苦しくなる。鎖骨に刻まれた蝶の痣に手を当てる。


 水無月の華札よ、どうか私の家族を・・・子供たちを・・・、この国をお助けください・・・。


 そう思って夏国の封印場所に目を向ける。しかしすぐに呼ばれ涼羽は仕事に戻っていった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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