六章 義賊登場
更新しました。最後まで読んでいただけたら幸いです。藤波真夏
六章 義賊登場
蓮は城で朝を迎えた。太陽の光が目を刺激して起きて、と急かす。目をこすり。あくびをして体を起こす。すると隣では織と真聖がまだ眠っている。しかし七夕と涼羽の姿はいない。起きだそうとすると眠っている織が蓮の着物の裾をつかんでいることに気づく。
「母さま・・・」
夢の中では涼羽と一緒に楽しいことをしているのだろう。蓮は結局布団を抜け出せずまた眠りについた。
蓮が夢の中にいたちょうどその時、城の中は非常に緊迫していた。翠徳は涼羽と七夕を読んで言った。
「シグレ賊が動き出した」
「まさか・・・!」
七夕が表情を変える。シグレ賊といえば以前、翠徳に報告した事案だ。義賊として名高い山賊だ。しかし、そのシグレ賊が人さらいをしている疑いがあるという報告を受け翠徳は目を光らせていた。
「奴らは何かを企んでいるのかもしれない。気をつけろ」
二人はその後、廊下を歩いていた。涼羽も緊急事態で織を産む以前のように背中に矢の入った袋を背中に下げ、手には愛用の弓を持っている。七夕も腰に剣を下げて厳戒態勢だ。
「でも涼羽にこの話をするとは相当だね」
「確かに。普通だったら江将軍たちが動くんだろうけど。武器が足りないとか?」
涼羽が聞くと、実はそうなんだと話す。涼羽はどういうこと? と聞き返す。
夏国が武力最強と言われる由縁は夏国の隣にある秋国が大きく関係している。秋国では武器を作るのに必要な鉄が豊富に採掘され、そして秋国は装飾品職人が多くおりその技術の高さは大陸一とも言われている。
夏国では首領の妻に秋国から迎えたその時から同盟を結んでいる。その同盟の内容はこの通りだ。
夏国は秋国から鉄と装飾品の提供を受ける代わりに、秋国は軍事を放棄し、秋国を外部侵略からいかなる時も守らねばならない。
それが百年以上も守られ続け、現在までその関係は良好である。
それを知らない夏国の人間はいない。翠徳に仕えている七夕や涼羽にとっては常識だ。しかしそれが十分に提供されていないということはもしかしたら、と涼羽にある考えが浮かぶ。
「・・・鉄を大量に横取りしてるってこと?」
「その可能性は・・・十分にある」
七夕は頷いた。その時、蓮たちのいる部屋から叫び声が聞こえてきた。二人は顔を見合わせて部屋へ走り出した。
「織! 蓮! 真聖!」
七夕が勢い良く扉を開けると、窓が開けられそこには見知らぬ男がいた。男は泣きじゃくる織を抱えていた。それを見た涼羽は血相を変える。
「織!」
涼羽はとっさに矢を引き抜き、弓で男を狙う。すると男は泣きじゃくる織を盾にする。このままでは大事な織に矢が当たってしまう、と涼羽は読んで矢を離すことができない。
「お前が、水無月涼羽か?」
「なぜ、私の名前を?」
「お前には多少の恨みがあってな。お前のかわいい娘はこちらで預からせてもらう!」
男が逃げようとした次の瞬間、蓮が飛びかかった。織を掴んでいる腕を噛んだ。男がひるんだ隙に織を逃がそうとするが、男の方が一枚上手だったようで蓮も身動きを取れなくなってしまう。
「蓮!」
また涼羽が狙うが、やはり織と蓮を盾にされて狙いが定められない。男は織と蓮を抱えた。
「お前の大事な娘と息子を返して欲しければ、シグレ賊の集落へ来るんだな!」
そう捨て台詞を吐くと、そのまま逃げてしまった。涼羽は窓から降りて男を追う。しかし女性の足ではなかなか追いつけない。結局見失ってしまった。
「一体・・・、なんで」
涼羽は立ち尽くした。
涼羽が戻ってくると七夕が奴は? と聞いてくる。涼羽は下を向いて首を横に振る。七夕も悔しそうな顔を見せる。すると、涼羽はあることに気づく。
「そういえば真聖は?」
「そうだ! 真聖はどこだ?」
涼羽と七夕が探していると、小さな声で七夕の声が聞こえてきた。タンスの影に真聖は身をかがめて隠れていたのだ。七夕が真聖の手を引いて涼羽の前に出す。すると涼羽はすぐに駆け寄り、真聖に聞く。
「怪我はしてない?」
「してないです」
涼羽は安堵した。真聖はことの一部始終を話し始めた。
起きたら知らない男の人がこちらを見ていたんです。そしたら、怖がる織を抱きかかえたんです。それで織がぎゃっ! って声を出したんでその直後に涼羽さんと七夕さんが来て・・・。僕は身を守ることに必死でずっと隠れていました。
そうだったの、と涼羽は頷いた。しかし真聖の表情は晴れなかった。七夕はすぐにこのことを翠徳に知らせる、と部屋を出て行き、真聖と涼羽が残された。するとごめんなさい、と真聖が呟いた。その訳を聞くと真聖は言った。
「僕は怖くて何もできなかった・・・。そのせいで、織も・・・蓮も・・・」
「あなたのせいではない。大丈夫よ。怖かったでしょ・・・。私もそばにいれなくてごめんなさいね」
涼羽は真聖を抱きしめてそう言った。泣きそうな真聖の背中をさするのと同時に男が逃げた窓をギリッと睨んでいた。
七夕の手により翠徳にこの話は伝えられた。翠徳はすぐさま、涼羽と真聖を呼びつけた。三人は翠徳の前に礼をとる。すると翠徳は早速ではあるが、と話を切り出す。
「涼羽。お前はこの城に残れ」
「翠徳さま! どういうことですか?! 奴は私を指定したんです。もし私が行かなければ・・・織と蓮が!」
涼羽は必死になって翠徳の考えを改めさせようとするが、翠徳の考えは変わらない。涼羽は一度退いた人間に任せられないのか、と訴える。すると翠徳はそういうことではない、と否定する。
「涼羽。私の部下である以前に一人娘をもつ母親でもある。母親が人を手にかける姿など・・・まだ四歳の娘に見せたくはないのだ。涼羽、そうは思わないか?」
それを聞いた涼羽は反論しなくなった。翠徳なりの涼羽を守る手段だったのだ。
「七夕。すぐにシグレ賊の集落へ向かい、織と蓮の救出をするのだ。真聖、お前は涼羽と共にこの城で待っているのだ」
しかし真聖は首を横に振った。僕も行きます、と意思を示す。しかしこれには七夕も反対する。しかし意思は固い。真聖は翠徳に言った。
「僕は蓮の側仕えです。本来は守らなければならないところを守れなかった。だけど、せめて助けたい。春国のときのように・・・」
真聖は思い出した。春国で投獄され、蓮が処刑台に連れ出されたとき蓮が大人しく連行されたおかげで助けられたようなものだった。その恩に報いるための真聖なりの誠意だった。
「わかった」
「翠徳さま?!」
真聖の誠意に打たれて翠徳は承諾した。それに七夕は驚いた。翠徳は真聖を指差して言う。
「今この者は夏国の意思に沿っている。人のために戦う、人のために動く。俺はその考えに乗ってみようと思う。ただし、七夕の邪魔をするのではないぞ? そして七夕。真聖を頼んだぞ」
「はっ!」
七夕は頭を下げた。すぐに出発するために部屋へ戻る。涼羽はその場から動けなくなった。それを見ていた翠徳は話しかける。
「涼羽。俺を恨んでいるか?」
「少しだけなら。でもご配慮あってのことなので、私はそれに従うまでです」
「涼羽。お前がすぐに助けに向かいたいという気持ちは痛いほど分かる。お前は昔こそ守るべき大切なものがいなかった。でも、今はいるではないか。お前の武術が昔と変わっていないことは十分承知しているつもりだ。しかし、俺は母親が血に汚れている姿を・・・、織には見せたくないのだ。お前を実の母親のように慕う、蓮や真聖も同じこと・・・」
翠徳の言葉は涼羽の心を刺す。唇を噛むとご配慮ありがとうございます、と礼をした。涼羽はその場を去ろうとしたとき、潜在意識が反応する。思わず空を見る。何かが起こる前触れのような気がした。
七夕と真聖は涼羽に見送られ、シグレ賊の拠点のある山の中へ入っていく。折角上がっていた太陽は顔を隠し空は曇っていた。
「真聖。大丈夫か?」
「はい」
七夕は真聖を気遣いながら前へ進んで行く。山道には人や荷馬車が通る道が整備されている。ここを通っていけば秋国へ通じる。しばらく歩いていると七夕が反応して二人で茂みに隠れる。
息を殺して身を隠していると、織と蓮をさらった山賊と同じ服装をしていることに気がつく。真聖は聞き耳をたてる。
「お頭は?」
「ああ。水無月の子供たちのところだ」
山賊たちの声が聞こえたかと思うと、だんだんと遠ざかっていく。ついに離れて行って声は聞こえなくなってしまった。
「お頭って誰だろう?」
「お頭? シグレ賊のおカシラといえば・・・、海袮だ」
あまね? と真聖は首をかしげる。七夕は真聖に歩きながら説明する。
シグレ賊は夏国に昔から存在する山賊だ。でも悪いことはしない。彼らも義を胸に生きている。最近、おカシラが交代したんだ。その名は海袮。シグレ賊に所属している若者衆の中で一番の信頼感と強さをもつ男。
彼がおカシラになって、さらにシグレ賊は良い方向へ向かっている、という噂を聞いているんだが・・・。
七夕は森を見る。先は暗くて何も見えない。
不安は募るばかりだが、織と蓮を助けるため真聖は七夕について行った。
「水無月の子供たちって織と蓮のことですよね。何かされてないといいけど」
真聖は先を急ぎながら呟いた。
「でもよくシグレ賊のお頭の名前がわかりますね」
「ん? 一応僕も調べてるんだよ。義賊と名高いシグレ賊だからね。でも涼羽との接点や何故このような手を使ったのか、わからない・・・」
七夕は歩きながら語る。緑色の瞳が鋭くなる。その瞬間、剣がカチャと音をたてる。七夕と真聖は周囲を警戒しながらもシグレ賊の集落を目指して歩き出した。
「怖い」
「大丈夫だよ、僕がいるから」
織と蓮はシグレ賊のおカシラの家に閉じ込められていた。部屋は暗く、誰かがやって来そうな雰囲気が常にあり眠ってなんかいられない。織は蓮にしがみついて外を見ないようにする。
蓮は目をつぶった。その瞬間、黒龍が出た時と同じ気配を感じる。これは?! と思わず入り口を見るが何も見えない。しかしその気配ののちに悪寒が走る。ただ事ではないと蓮は悟る。
「でも、なんで僕に黒龍の気配なんてわかるの? 僕、華札継承者じゃないのに・・・」
蓮は呟いた。春の華札によって封印はされたものの、まだ完全に動けないわけではない。不安が蓮を支配する。
すると入り口が開いて誰かが入ってくる。
蓮がそこへ視線を移すと茶色の髪を豪快に一つに結わき、野生的に着こなした着物、腰には短刀をこしらえた男だった。蓮は息を飲んだ。男の瞳は真っ赤に燃える炎のように赤い色をしていた。
「ほお・・・。こいつらが水無月の子供か・・・」
「誰?」
蓮がそう聞くと男はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。そして口が動いた。
「俺は、海袮。このシグレ賊の頭だ。悪いが、お前たちには水無月をおびき寄せる餌になってもらうぜ」
海袮の真っ赤な瞳に蓮は囚われ、動くことすらできなかった。
一方、蓮たちの知らないところで黒龍の影が静かに迫っていた。それは城で蓮たちの無事を願う涼羽も気がつかない小さなこと。涼羽は城から黒く流れる雲を眺めていた。
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