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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第三記:夏国編
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五章 温もり

夜遅くに失礼します。更新しました。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

五章 温もり

 夜になった。豪華な夕食が準備されて大広間に通された真聖と織、そして七夕。まだ涼羽は蓮を見つけておらず不在だった。

「七夕。涼羽はどうしたのだ?」

「翠徳さま。申し訳ありません。蓮が迷子になりまして・・・、涼羽が探しに行っております」

 翠徳さまは涼羽がいれば大丈夫だろう、と言った。そして夕食の宴が始まった。翠徳を始め江将軍などの幹部たちが揃って酒を注いでいる。

「おいしい!」

「子供たちよ、たくさん食べよ」

 翠徳に進められて真聖たちは料理を口に中に運ぶ。おいしい、と舌鼓をする。料理を堪能しながらも真聖は隣の空席に目を向ける。本来なら蓮がここに座っているはずだった。しかし、蓮が触れられたくない場所に触れられたせいで心がはち切れてしまった。

 今現在、その恐怖と戦っている。

「父さま! 母さまは? 母さまどこ?」

「織。母さまは蓮のところに行ったんだ。もうすぐ我慢できる?」

「いやだ! 母さまに会いたい! 母さま!」

 涼羽が恋しくなったのか、織が駄々をこね始めた。そうなるのは仕方ない話だ。子供にとって母親というのは第一に頼るべき存在であるからだ。

「織。僕と一緒に待ってようよ」

 真聖が織に聞かせた。織は真聖のところへ移ったものの表情は不機嫌そのものだ。ムスッとして下を向いている。すると、真聖は織に言った。

「僕にはね、お父さんもお母さんもいないんだ」

 それを聞いて織が興味を持つ。それに七夕や翠徳も耳を立てた。真聖は織に記憶の中にあるだけの自分の家族の話をした。


 僕は生まれた時にはすでにお父さんもお母さんもいなかった。冬国一頭がいいと言われている人に助けられて育てられた。その時に蓮と出会って僕たちは育った。

 僕には本当の家族がいないけど、蓮紀さま・・・、蓮のお父さんは僕を実の息子のように大事にしてくれた。だから、僕は寂しくないんだ。


 織の表情は明らかに違った。母親がいることが当たり前になっていた織にとっては幼いながらに衝撃の事実を知ったのだ。すると織は真聖の頭をその小さな手で撫でた。

「真聖にぃに。・・・泣かないで」

「え?」

 真聖の目から涙が落ちていることに気がつく。口では寂しくないと思っても心のそこでは恋しいと思っているのだと。真聖は急いで涙を拭った。しかしその一部始終を七夕たちに見られていた。

「真聖・・・。我が夏国では自らの欲を捨てて、人の為に生きて戦うことを信念としている。真聖よ、夏国にいる間だけは我々を父と思うがいい」

 翠徳は真聖にそう言った。真聖は頭を下げた。まずは蓮を驚かせたのは我々に非があるようなものだ、と翠徳はため息をついた。

「真聖にぃに。いい子いい子してあげる」

 織の手が真聖の頭で撫でられた。その光景を見ていた江将軍は盃を煽りながら翠徳を見た。どうしたのだ、と聞く翠徳に江将軍は酒を一杯飲み干すと翠徳に言った。

「翠徳さまがそうおっしゃられるところを久しぶりに見ましてな。最後に見たのは、涼羽の時でしたかな?」

「そうだな。あの頃が懐かしい。そんなこともあったな」

 それを聞いた七夕の瞳が緩んで、真聖の頭を撫でている織へ視線が向かう。涼羽に似た娘の織。七夕は突如として織の頭を撫でる。

「父さま?」

「いや、思い出しただけだよ。色々と」

「いろいろ?」

 織が首をかしげた。

「翠徳さま。涼羽さんって翠徳さまに仕える武将だったって言ってましたけど、いつからお仕えしてたんですか? なんか気になっちゃって・・・」

 真聖が翠徳に聞いた。そうだな、と呟くと七夕をチラッと見る。妙な視線を感じた七夕は恐る恐る翠徳を見た。翠徳は酒を飲むと七夕を見て言う。

「俺はまだ信じられないよ。あの涼羽がこのような男と結婚したとはな・・・」

「このようなとは・・・何ですか・・・」

 七夕は苦笑いをした。翠徳の言い分に江将軍も同意した。七夕を見ると口を尖らせた。お酒が入っているのか上機嫌で自慢するように言う。

「涼羽は俺が娘のように大切にそして厳しく育てた女だった。それなのに・・・、なんでこんな得体の知れない男を生涯の伴侶にしたのか、今でも信じられん」

「江将軍まで・・・。僕の味方は、今この場にいないんですか?」

 七夕はうなだれた。

「七夕さん。二人はどうして出会ったんですか? 教えてください」

 真聖に言われ、七夕は一瞬にして顔が赤く染まる。それは・・・と口ごもるとそれを待ってましたとばかりに江将軍が口を開く。

「それは丁度いい。俺も気になっていたんだ。七夕、正直に話せ」

 江将軍にも言われてしまい、逃げ場は完全に塞がってしまう。七夕はため息をついて仕方がありませんね、とつぶやいた。

 じゃあ話しますよ、と言いながら、七夕の赤い顔はなかなか元には戻ってくれなかった。



 涼羽は華札継承者の家である水無月の家に生まれた。でも当時の彼女はかなりのじゃじゃ馬で男勝りな女性だったんだ。今とは真逆でね。女性としての魅力は完全に薄れ、お義父上はさぞ心配したそうだ。嫁の貰い手がなくなる、と。

 その粗暴さから女子教育も受けられず、お義父上がこの城に涼羽を連れて行ったらしい。その時に彼女が放った矢が全部的の真ん中に命中したんだ。

 江将軍がその才能を見込んで、涼羽に戦いの全てを教え込んだ。弓矢の技術だけではなく、奇襲法や戦術に至るまで全てだ。そのおかげで涼羽は誰もが認める弓使いになって、正式に翠徳さまにお仕えすることになった。夏国唯一の女武将だよ。

 涼羽は数々の戦に出陣し、夏国のために戦った。

 一方の僕はといえば、文月の家は代々文系で武芸に秀でた家じゃない。もちろん僕も最初は勉学一つで生きていこうとも思ったさ。だけど森の中を歩いている時に土砂崩れに巻き込まれて大怪我をしてしまった。動けなくなったところに来たのは、戦の帰りだった涼羽だったんだ。

 その時だ。

 涼羽を見て心奪われたのは・・・。一目惚れというやつだ・・・。

 僕は涼羽に介抱されて、怪我も程なく治った。僕が気持ちを伝えられる勇気もない時に、涼羽の計らいで城へ召された。その時の涼羽は助けてもらったときの優しさじゃなく、敵を見るような表情で僕を見てきた。毎日、「シバく」って言われたものだよ。

 僕は少しでも涼羽に近づきたいと思って、江将軍に剣の指南をお願いして毎日稽古に励んだよ。難しかったけどだんだんとコツをつかんで今では、江将軍と並んで頂点さ。

 すると今度は涼羽からこんなお願いをされたよ。「勉強を教えてくれ」ってね。僕はすぐに教えたよ。あの真剣な顔、今でも忘れられないよ。

 それから一年くらいが経った頃に、涼羽が急に僕を呼び出して何だろうと思っていたら、涼羽が「私と結婚してくれ」って言うんだ。先を越された云々よりも、涼羽から切り出すのは心底驚いたよ。そしたら涼羽はなんて言ったと思う?

「ちゃんと料理も勉強する。家事も、裁縫も、全部。武芸も捨てる。だから・・・私と一緒になってくれないか?」だってさ。

 僕はすぐに承諾したよ。でも武芸を手放すなんて真似をしてほしくはないから、結婚した後も僕と涼羽は翠徳さまの元で仕え続けたよ。その間に必死になった結果が今の涼羽だ。乱暴な言い方はあまりしなくなった。

 その後に織を産んで、今では立派なお母さんだよ。



 真聖はそうだったんですか、と頷いた。それを聞いて江将軍はフンとそっぽを向いた。

「挨拶にきたときは驚いた。結婚しますって言われたときは反対したんだ。でも、涼羽が決めた相手だから文句も言えなかった」

「そうだな。俺も心配だったが、そうなったら武芸を捨てます・・・なんて言われたら賛成するしかないだろう。でも、涼羽は七夕と結婚して良かったと今になっては思う」

 翠徳も頷いて言う。

 でもたまにあのときの涼羽出てくるんですよね、と笑いながら七夕は言う。それを聞いて惚気か、と突っぱねた。そして大笑い。その光景に真聖も笑い出す。すると七夕は真聖に言った。

「僕たちをお父さんのように思ってくれ、の意味なんとなくわかったでしょ?」

「そうですね・・・」

 真聖は残っている夕食を頬張る。全てを話した今はその夕食がいつもよりも美味しく感じた。



 一方その頃。

 蓮を探して城内を走り回る涼羽は夜空の月を眺めて焦っていた。せっかく用意してくれた翠徳の懇意を無駄にしてしまうと。しかし肝心の蓮は見つからない。

 ついに城の庭まできた。緑色の草木が生い茂る広い庭。探すのに骨が折れる。そう思ったとき、樹木の根元に丸くなっている人影を発見する。近づいてみると、だんだんとそれが何なのかはっきりしてくる。

「蓮」

 涼羽が声をかけると蓮がゆっくりと顔を上げる。目元が赤く腫れている。泣いていたのだろうか、と涼羽は予想する。

「みんな心配しているよ。さ、お腹も空いたでしょ。部屋に帰りましょ」

「・・・」

 蓮はただ黙っていた。涼羽は蓮が深くかぶっていたフードをめくった。月明かりに蓮の銀髪が輝いた。

「?!」

 蓮が今すぐフードをかぶり直そうとするのを涼羽が止めた。

「蓮。春国で何かあったの?」

「・・・春国で僕は、処刑されかけました」

 涼羽は言葉を失った。蓮はそのまま続ける。

「真聖や春国の華札継承者の人たちのおかげで助かったけど・・・、兵士から逃げて逃げて・・・、そのときのことを思い出すと怖くて・・・」

 蓮の体が震える。相当怖かったんだろう、と涼羽も察する。すると涼羽は蓮の頬に手を添えた。涼羽の手は暖かかった。

「蓮。この国にはそんな薄情な馬鹿はいないわ。翠徳さまは言っている。あなたたちに協力をする、と。それは私や七夕だって同じこと。夏国は兵士に追いかけられたりされることはまずない」

 涼羽に言われて蓮は落ち着きを取り戻していた。すると涼羽は蓮にこんな質問をした。

「蓮。お母さんは元気なの?」

「お母さんは・・・、僕が小さい時に死んじゃいました。もうほとんど記憶は薄れていて。ずっと父上たちと暮らしています」

 涼羽はそうなの、と一言。すると涼羽は蓮の手を握って笑った。

「蓮のお母さまはさぞご無念だっただろうね。可愛い息子や愛する夫を置いて逝ってしまうというのは・・・。でもね・・・この国にいる間は、私を本当のお母さんのように思ってくれて構わない。だって子供を助け、守る義務はお母さんにあるものだと私は思う。蓮、この国にいる間は私をお母さんだと思ってほしいの。蓮のお母さまとは程遠いかもしれないけど、私はあなたに母の温もりを教えてあげたい」

 蓮はそれを聞いたとき、あの夢の意味がようやくわかった気がした。

 あれは消えていく記憶のなかで残っている椿が恋しかっただけだったんだと。わかった瞬間、蓮は涼羽に抱きついていた。しばらくするとすすり泣く声が聞こえて涼羽はよしよし、と赤子を慈しむように背中を撫でてあげた。

 

 母が恋しくなるのは、誰だって同じ。「死」という形で無理やり我が子から引き剥がされたことを考えれば・・・無念だっただろうに。


 涼羽はそんなことを考えていた。



 蓮は泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。涼羽がふと振り返ると七夕が立っていた。

「七夕・・・」

「見つかってよかった。蓮は僕が運ぶよ」

 七夕は蓮をおぶると涼羽と並んで歩き出す。七夕は織と真聖が眠ったのを見計らって出てきてくれたらしい。蓮のことを七夕に伝えると、なるほどとつぶやいた。

「母親の愛を知らない・・・か」

「私・・・、少しだけでも蓮と真聖のお母さんの代わりになってあげなきゃいけないみたいね。悪いことじゃない。だって子供が二人増えたみたいだしね」

 涼羽は笑った。すると七夕が涼羽の顔を見てクスッと笑った。

「涼羽もそんな顔をするんだね。なんだか、惚れ直したかも」

「うるさい」

 涼羽が七夕の頭を小突く。七夕にとってはそれも心地いい。結婚する前と変わらない会話をすることが何よりも嬉しかった。

「ねえ涼羽。なんだか蓮や真聖と遊んでいる織を見ていたら、もう一人子供欲しいなって思っちゃったんだけど・・・」

 それを聞いたとき、涼羽は吹き出す。そして汚いものを見るような視線で七夕を見る。すると七夕の顔をつかんでグイッと自分の近くまで寄せる。

「・・・うるさい。七夕の馬鹿」

「いひゃい・・・! いひゃいよ、涼羽!」

 七夕は涼羽に必死の抵抗をする。涼羽は顔を赤くしてそそくさと行ってしまう。待って涼羽! と七夕はその後ろを追いかけた。



 月明かりに照らされた森の中。

 一人の男の影が映る。男は小高い丘の上から夏国の街を見下ろした。一体何を考えているのか、表情からは読み取れなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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