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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第三記:夏国編
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二章 嵐のあとに

更新しました。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

二章 嵐のあとに

 あの嵐の翌日。夏国はそれを忘れたかのように晴れた。幸い首領の対応の早さで死人を出さずに済んだ。

 その朝、城近くの屋敷では大量の洗濯を干していた。白地の下地を着てその上に水色の通気性のいい着物を着ている、女性だった。髪の毛は一つに言われ、白い布で覆っている。それを真っ赤な紐で結んでいる。

 彼女の目は海のように青い色をしている。

オリ。何をしてるの。お手伝いでもしてくれるの?」

「うん、する。母さまのお手伝い、する」

 屋敷の奥から出てきた織と呼ばれた幼女は黒髪に女性と同じ青い瞳の色をしていた。黄色い浴衣を着た四歳ぐらいの女の子だ。

 どうやたこの女性の娘らしい。

 織は母親の手伝いを慣れないながら手伝った。すると屋敷の入り口からごめんくださいーい! という声がした。女性は織を置いて急いで門へ急いだ。

 門を開けるとそこには老婆が立っていて、籠に入った野菜を差し出した。

「これは?」

涼羽スズハのところは娘がいるだろう? 食べさせておやりよ」

 女性は老婆から涼羽と呼ばれた。涼羽はそんなのいただけません、と断るも老婆は遠慮しないで、と続けた。

「うちは旦那と二人だからね。たくさんあってもいらないから、織ちゃんも七夕シユウさまもいるからたくさんあったほうがいいだろう?」

 確かにそうですけど・・・、と涼羽は言葉を濁す。すると涼羽の後ろから織が顔をだした。織の顔を見て老婆はしゃがんで挨拶をする。

「織ちゃん、元気かい?」

「うん、元気!」

 人見知りをしない織は老婆と仲良しだ。

「じゃあお言葉に甘えて、いただきますね」

「どうぞどうぞ!」

 涼羽はゆっくりして行ってください、と老婆を屋敷の中に入れた。洗濯物を一通り終えて涼羽と織、そして老婆は縁側に座った。

「そういえば、お父さんは?」

 老婆がそう聞くと涼羽はお茶を湯のみに注ぎながら苦笑いをした。涼羽の口が開く。

「七夕なら城に出てます。台風騒ぎで帰ってこれないらしくて・・・」

 織の父で涼羽の夫である七夕は夏国首領に仕えている武将で現在仕事のために城にいて屋敷には戻ってきていない。

 それを聞いた老婆は飽きれた、とため息をつく。

「織ちゃんを置いて何してんだろうね、あの男は・・・。涼羽も織ちゃんの世話で大変なのに・・・」

 まるで女の敵とばかりの言い方をされてしまう。しかし涼羽はまあまあとなだめた。お茶を一口飲むと言った。

「でもいいんです。私が今城へ行けない間、二人分の仕事をこなしているんですから・・・。感謝をしなきゃいけないですよね」

 涼羽は最後にあははは、と笑った。その様子を見て老婆は変わったね、とつぶやいた。涼羽は何か言いました? と聞いたが独り言で避けられてしまった。

 空に橙色の光が満ちてきた。その空を見て、涼羽が何かを思い出したように立ち上がって声を上げた。

「森の山菜摘み忘れてた! 行かないと! あ、でも織が!」

 涼羽が慌てていると老婆が涼羽に言った。

「大丈夫。織ちゃんは私が見ていよう。気をつけて行ってきなさいな」

「いいんですか?」

「遠慮はしないでってさっき言ったじゃないか」

 織も老婆とは顔なじみでよく遊び相手になってもらっている。じゃあお願いします、と涼羽は織を老婆に預けた。

 出かける前に涼羽は織に迷惑をかけないでいい子にすること、と言って屋敷を出て行った。森までそう遠くはない。歩いていると色々な人とすれ違う。

「おや涼羽さま! 昨日は大丈夫だったかい?」

「ええ。おかげさまで」

 涼羽はたくさんの人にすれ違う。多くの人が涼羽のことを敬っているように見えた。涼羽は急いで森へ向かう。嵐で山菜が流れていないといいが、と思いながら森へ急いだ。



 森には嵐の傷跡が生々しく残っていた。枝は折れ、葉っぱが大量に地面に落ちている。

「ひどい嵐だったんだ」

 涼羽が森へ足を踏み入れる。かなり風でかき回されたのか山菜はなかなか見つからない。涼羽はだんだんと奥へと入っていく。川へ近づいている。

 開けた場所へ出た。川べりだ。ここにも嵐の傷跡が残っている。昨日ほどの勢いはないものの水は濁って川底が見えない。歩いていると涼羽の視界に何かが入る。近づいてみるとそれは子供が二人気を失って倒れていたのだった。その子供は、嵐の日に川に落ち濁流に揉まれた蓮と真聖だった。

「大変!」

 涼羽は近寄ると、体を揺らす。

「大丈夫! しっかり!」

 蓮は気を失ったまま目が開かない。しかし、涼羽の声に反応して真聖が僅かながら目を開ける。黄色の瞳に映った涼羽をすぐに理解することができず意識は朦朧としている。

「うちまで運ばなきゃ」

 さすがに涼羽の力では二人を運ぶなど不可能な話だ。そこで偶然通りかかった兵士に声をかけた。最初は渋ったものの、涼羽の願いを聞き屋敷まで運ぶのを手伝ってくれた。

 涼羽は蓮を兵士は真聖をおぶって道を急いだ。

 歩きながら涼羽は思った。


 僅かだけど呼吸はある。きっと昨日の嵐で川に落ちちゃって水を飲んだってところか。急がないと大変。


 涼羽が蓮と真聖を連れて帰った時、老婆は腰を抜かさんばかりに驚いた。涼羽が事情を説明すると、急いで看病しなくちゃねと手伝ってくれた。

 兵士にも礼を述べて帰ってもらう。

 蓮と真聖は着物を乾いたほうに着替えさせ、布団に寝かされた。老婆が持ってきてくれた野菜を料理し、ご飯も炊いてお粥を作る。

 夕飯の支度もあるので老婆は帰って行った。

 ご飯を炊く香りに誘われて真聖が目を覚ます。上半身を起こして涼羽のほうをじっと見る。すると真聖にもやもやとした感覚が走る。一体それがなんなのか、体力を完全に奪われた真聖に分からない。

「気がついた?」

 涼羽が近寄ると、視界がはっきりしてくる。真聖は質問を返した。

「ここはどこ?」

「私の家よ。あなた、川べりで倒れていたのよ。川に落ちたのね」

 それを聞いて真聖の記憶がはっきりしてくる。

 そうだ、僕たちは川に落ちたんだ。そして蓮・・・、蓮は?! 

 真聖が周囲を見渡すと隣には蓮がスヤスヤと寝息を立てていた。それを見て涼羽は二人が知り合いであることを理解する。料理の手を止めて真聖に近づいて言う。

「大丈夫。命は無事。でもかなり濡れたから熱が出る可能性もあるから、しばらくは休ませたほうがいいわね」

 真聖は俯いた。涼羽は出来たばかりのお粥を持って真聖の元へ向かう。そして椀を差し出して食べるように言った。真聖は恐る恐る受け取ると口の中に入れた。

「・・・おいしい」

「よかった」

 一口食べて食欲が湧いたのか真聖はお粥を口の中にたくさん入れる。茹でた野菜も食べられるようになった。すると涼羽は真聖から椀を受け取ると聞いた。

「私は涼羽というの。あなたの名前は?」

「真聖といいます」

 涼羽は頭に叩き入れるように真聖の名前をつぶやいた。そして頭に手を置いた。暖かくて優しい手だ。

「怪我がなくてよかったわ。しばらくうちに泊まっていきなさい」

「あ、ありがとうございます」

 母親を知らない真聖にとって不思議な気持ちだった。そして夜中、涼羽の予想通り蓮は高熱を出した。額には濡らした手ぬぐいを乗せて熱を逃がす。

 息が荒い。

 その蓮の息遣いで真聖は目が覚めた。目の前には熱にうなされて苦しむ蓮の姿があった。声をかけようとしたら涼羽が止める。

「心配する気持ちはわかるけど、疲れているでしょう? 今はおやすみ、真聖」

「でも・・・!」

「大丈夫。あとは私に任せなさい」

 涼羽はそう言うと真聖を布団に寝かせる。真聖は疲れには勝てずそのまま眠ってしまった。涼羽は蓮と真聖が並んで寝ている隙間に足を伸ばし、壁に全体重を乗せた。

 涼羽は真聖の寝顔を見て眠りについたことを確認すると、蓮の額の手ぬぐいをまた濡らして変える。先ほど飲ませた薬草の効果があったのか、徐々に熱は下がってきているがまだ熱は高い。

 荒い息はしなくなったものの、蓮はまだ高熱にうなされている。

 涼羽は真聖と同じように蓮の頭を撫でた。

「それにしても綺麗な髪の毛・・・。銀髪・・・、まさかね」

 そう呟くと涼羽も眠ってしまった。

 嵐に遭い、川に流されたところを運良く涼羽に拾われた蓮と真聖。二人の寝息が聞こえる。屋敷の外には鈴虫の音が聞こえる。

 夜は、知らない間に過ぎていった。



 少し時間を遡って数時間前。

 夏国首領の城では報告会が行われていた。剣を腰に下げ、緑色の着物を野性的な着こなしをしている男性が中心となっている。

 この男、翠徳スイト。夏国を治める首領である。

「現在、嵐の被害により強奪などが後を絶ちません」

「城に備蓄された米を民に分け与えよ。そして苗を渡し、再び再興するようにするのだ」

 翠徳の指示は的確で全て夏国の人々のために行っている。

 夏国を治める首領は先祖代々「義と人情」を大事にしている。敵国に攻められていたらその国に援軍を送り、飢饉で困っていたら米を差し出す。そして四季の中で最強の軍事力を持つ武の国。

 人のために動いている国なのだ。

 翠徳は嵐の被害の案件にひと段落をして次の報告を待つ。そこへ、一人の男性がやってきた。二十代の男性で、青い着物に黒く一つに結わいた髪、月明かりに照らされて瞳の色は翠色をしていた。

「翠徳さま。ご報告があります」

 男性は敬意を表す体勢で言った。男性は翠徳に持ってきた報告を述べる。

「現在夏国東にシグレ賊と呼ばれる山賊がはびこっているようなのです。いかように?」

「シグレ賊は義賊として名高い。決して悪さはしないだろう・・・。それよりも・・・」

 翠徳は報告を聞くと話を転換する。

「お前はここのところ家に戻っていないだろう? そろそろ帰らないと、涼羽たちが心配するぞ、七夕」

 男性は七夕。涼羽の夫である。

 彼は根が真面目で優しい性格をしていて、涼羽より年下。翠徳は涼羽のことをよく知っているため七夕に急いで家へ帰るように言った。

 後のことは他の家臣に任せて帰りなさい、の一点張りだ。七夕も折れて、じゃあ失礼します、と言って七夕は頭を下げて城を後にする。

 その背中を見守った翠徳はつぶやいた。

「七夕。お前はいい妻を持って幸せだな。そして俺も、涼羽や七夕といったいい部下を持って幸せじゃ・・・」

 暗い夜道を歩きながら七夕は言った。

「涼羽・・・。怒ってるかな・・・。織も泣いていないか・・・」

 涼羽や織のことを考えていただけで足取りが速くなる。屋敷が間近に迫ったその時、突如として右の二の腕に熱が走る。手を当てると燃えるように熱い。

 七夕は夜空を見上げる。嵐が過ぎ去り雲一つなく星が瞬いている。

「何か・・・起こるのか?」

 七夕の間を生ぬるい風が吹いていった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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