九章 花蓮と蓮
更新しました。最後まで読んで頂けば幸いです。藤波真夏
八章 花蓮と蓮
黒龍を一時的に動けなくしてその場しのぎではあるが一安心。
小春が全員を桜屋に招き、豪華な食事を準備してくれた。しかし、壮は花街に行くのを嫌がったが、瑠姫も行くと言われて仕方なく同行することになった。
蓮たちの前には小春が準備させた食事が並んでいる。
「さあ、食べてくんなまし」
蓮と真聖は今まで以上に豪華な食事に恐縮してしまって、箸を持てない。その様子を見ていた小春はクスッと笑いながら言った。
「冬国からの可愛いお客さんは慣りんせんようね。目の前にあるお食事は春国の名物で作ったおもてなし料理。子供はたくさん食べないと大きくなりんせんよ」
小春に言われて蓮と真聖は箸に手をかけて料理を口の中に運んだ。
「おいしい!」
二人の顔は一瞬で明るくなった。冬国ではなかなか食べられない食材を使った料理に舌鼓をする。
「宮殿で食べている料理とは若干味付けが違うんですね、とてもおいしいです」
「まさか瑠姫さまにそうおっしゃられるとは思いんせんでした」
瑠姫も舌鼓をする。そして小春は仕事に従事する。蓮や真聖、瑠姫には春国伝統の花茶を注ぎ、壮には酒を注ぐ。
そして理久と真乃もせっせと働いている。料理を運び、酒を運んだ。壮は小春から目を逸らしている。
「まさか、あなたに助けられるとは思いませんでした」
「おや、青二才。わっちにこないな恥をかかせておいてその言い草でありんすか? 成長してないねえ」
壮はうるさい、と酒をグイッと一飲みにした。壮も小春を花街一の花魁と認めているものの、やはり女ということを武器にして男を夢の世界へ誘う花魁をあまり快くは思っていないようだった。
小春は壮の行動が可愛く見えて蓮同様意地悪をしてしまいたくなってしまう。すると蓮が真聖に聞いた。
「そういえばずっと気になってたんだけど真聖たちはどうやって牢屋から出られたの?」
「ああ、それは・・・」
真聖がそう言うと、説明してあげる! と理久と真乃が飛び出してくる。蓮が目を丸くしている。それを見て小春も説明してあげなさい、と理久と真乃に投げる。
二人は顔を見合わせて笑って話し始める。
「説明してあげる! まずはどうやって花街から出たかだけど・・・」
得意げに最初は理久が話だそうとしていると蓮がいきなり口を挟んだ。
「僕が捕まった瞬間、凍結は解除されたんじゃないの? そうでもしないと花街を抜けられないはず」
「それが凍結は解除されてなかったの。首領からの命令で凍結されたって言ったけど、花街の掟が変わる時は必ず使者がここにくるの。でも元に戻すっていう使者は来なかったの! だから今、私たちがここを出ても怒られることはないって小春姐さまが」
蓮はなるほど、と言葉を漏らす。しかし最大の謎が残っている。それを今度は聞いてみる。
「じゃあ出られたのは分かった。どうやって兵士に見つからず真聖たちを?」
「じゃあここからは真乃!」
「任せて、理久!」
理久と真乃はハイタッチをする。すると今度は真乃が蓮に話を始める。
「私たちは花街を出たときに、小春姐さまは私と理久と番傘持ちの龍さんも一緒に連れて行くって言ったんです」
龍さん? と首をかしげた。小春は番傘持ちの男の人や、と答えた。彼は花魁行列の際に傘を差す人物でそしてもう一つ用心棒としての役割を担っているという。
すると壮が真乃の説明に付け加えをするように言う。
「春国の死刑執行は大体宮殿内で行われる。だが、蓮の場合は公開処刑になるだろうと思ったんだろう?」
壮が言うと小春はええ、と頷いた。
「僕が冬国首領の息子だからですか?」
「そう。冬国を恐る人々もいるからな。見せしめにするには丁度いい機会だからね」
壮がまた酒を飲む。小春は飲みすぎや、と言いながら壮の杯に酒を注ぐ。すっかり出番を奪われた真乃は私の話はまだ終わってないです! と言った。
じゃあ続きをどうぞ、と真聖が言うと真乃は気を取り直して話を続ける。
「小春姐さまと私と理久は公開処刑が行われる広場の真後ろにいたの。みんな前ばかり見てて後ろは意識してなかったみたい。そこを見たとき、かなり厳重に広場は守られていたから、もしかしたら今なら地下牢が手薄なんじゃないかって小春姐さまは読んだの」
小春はそうでありんす、と言った。
その後に関しては難しいのでと小春が説明を始める。
広場についてすぐに龍を地下牢へ向かわせる。龍なら用心棒の役割もあるため、体術は会得しているため、兵士一人二人など造作もない。
そしてそこで兵士を気絶させ鍵を奪い、真聖たちを牢屋の外へ出し救出したのだった。
「わっちがあそこでこないな行動をしたのは、牢屋から逃げた連中から目を逸らすため。花街にいるはずの花魁が歩いていれば、たくさんの人はわっちに目を奪われるからね。まあ、時間稼ぎと言ってもええ」
小春も酒が飲みたくなったのか、杯に酒を注いで飲み始めた。
花茶をすすっていた瑠姫も言う。
「私たちは牢屋を抜け出した後に、私は急いで書庫に行ってあの報告書を持ってきたのです。この機会を逃すわけにはいきませんから。でも花蓮さまのおかげで宮殿の中で終われずに済みました」
それを聞いた小春は顔をポッと赤くしてその呼び方はやめてくんなんし、と止めた。しかしお姫さまに褒められるのは案外嬉しいもんやなあ、とも言ってくれた。瑠姫も嬉しくなって笑顔をこぼす。
宴は続いた。
今日ばかりは無礼講とばかりに飲んで食べて騒いだ。蓮も冬国を出てから一番の笑顔を見せた。
そして時間は流れて空は暗闇になった。空には綺麗な三日月が見える。
「では俺は瑠姫さまをお送りしなくてはならないので失礼します」
壮は瑠姫を城まで送るため、花街を早々に後にした。そして真聖は蓮を誘って壮の屋敷へ帰ろうと言ったが、蓮はそれを断った。
ちゃんと小春お姐さんにお礼が言いたい、という小さな我儘。蓮が手を合わせてお願いしたため、真聖は言い返せない。しかしまだ花街は無法地帯で危ない、ということであの番傘持ちの龍が壮の屋敷まで送ってくれることになった。
残された蓮は静かになった座敷へ戻る。すると襖を開けてそこから月を眺める小春の姿があった。人の気配に気づいて振り返った小春はこちらへおいで、と手招きされた。
小春のそばに寄ると小春は蓮に言った。
「春国の料理はどうでありんした?」
「とてもおいしかったです。ありがとうございました」
「お礼なんていりんせんわ」
小春と一緒に三日月を見上げた。花街に逃げ込んで働いていたときは涙で月がゆがんで見えた。しかし今は違う。心の底から綺麗と呼べるほどの心持ちになっていた。
小春は蓮の横顔を見る。そして呟いた。
本当にあの男に、よく似てありんす・・・。
「小春お姐さん、僕が誰に似ているんですか?」
小春は聞かれてありんしたか、と薄く笑った。小春はこれは未熟な女の話だ、と言って蓮に語った。
わっちがまだ禿でありんしたとき、花街の掟を一度破ったことがありんした。わっちの実家では金がなくて家が傾いて・・・、わっちはこの身を売って花街に流れ着いた。でも苦しくて・・・逃げて逃げてたどり着いたのが冬国---、蓮、お前の住んでいる国よ。
そいで一人の男に出会いんした。その男はわっちよりも年が上でありんしたが、川には落るわ、家事はできないわで・・・鈍くさい男でありんした。
でも獣に襲われそうになりんしたとき、その男はさっきと違って獣を一発で仕留めてしまいんたわ。あの鈍くさい男が凛々しく見えた。
彼はわっちに言ったよ、
「俺は鈍くさいけど、いつかできるようになるんだ」と。
その後すぐにわっちは花街に戻されてお叱りと処罰を受けたよ。その時の言葉がありんしたから、わっちはここまで来れたえ。
・・・わっちは惚れてたかもしりんせんなあ、あの銀髪を持つ男に。
小春は蓮の髪の毛を撫でた。
「銀髪の男?」
「蓮。もう思い当たる節がありんしょう?」
蓮にはある人物が浮かんだ。冬国で蓮以外の銀髪の男といえば蓮の知る限り一人しかいない。
「睦月・・・蓮紀」
小春は小さく笑って指で蓮の鼻頭をチョンとつついた。甘い香りが蓮の鼻につく。僕の父上を知っているんですか? と前のめりになって聞いてくる。
「向こうが覚えているかは知りんせん。けれど、わっちは忘れてなんかありんせん。蓮の姿を見てすぐに分かった。この坊やは蓮紀と関係のある坊やだと」
月明かりが小春と蓮を照らす。そして小春の指が蓮の銀髪に入りスルっとすく。蓮の瞳を覗き込む。美しい小春の顔を蓮は直視できなかった。
「まことに綺麗な瞳ね。蓮、わっちを惚れさせる気でもあるのかい?」
「え? そんなこと・・・」
蓮は顔を赤くして顔を逸らす。恥ずかしくて心臓が激しく動いた。
「驚かせてすまんなあ。坊やにはまだ早かったようやね。ただこれだけは言える」
小春は蓮の頭を優しく撫でた。蓮が小春の顔を見上げるとそこには手の怪我を介抱してくれたあの優しい顔があった。
「蓮、わっちはお前に惚れとる。こな可愛い坊やに惚れるなんて花街一の花魁が聞いて呆れるけんどなあ。でも蓮に身請けされるなら、わっちは本望でありんす」
すると蓮は立ち上がって小春を見つめる。
「じゃあ僕が小春お姐さんを連れ出してあげるよ。絶対に! 頑張って頑張って、お姐さんを・・・」
蓮がそう言うと小春はそれはできんせんよ、と呟いた。なんで、と蓮が聞く。
「わっちはここで生きると決めてな。華札継承者として石碑の場所まで行かなきゃいけんから、それが終わったら掟が元に戻りわっちはまた花街に縛られる」
蓮は花街の過酷さも小さな闇もこの目で見てきたつもりではいる。蓮は小春を花街から出してこそ助けてもらったことへの恩返しだ、と主張するが小春はそれでも首を縦に振らない。
「わっちは嬉しかったんよ。またこうして蓮紀の面影を見れてな。蓮紀は大怪我をしたんでありんしょう? それを守らんといけん。それが、わっちへの恩返しにすればいい」
蓮の瞳には涙が溢れた。
春国と冬国の確執を知らずにやってきた春国だったが、そこは蓮にとっては地獄への入り口のような気がしていた。真聖は捕まり、兵士に追われ、挙げ句の果てには処刑未遂だ。
そして花街では冷たい目で見られ、怪我をたくさんした。
それを思い出して声をしゃくりあげて泣いた。それを見た小春は着物で蓮の涙を拭った。
「言ったでありんしょう? わっちは弱い男は嫌いやと。蓮、わっちは期待しているんよ。坊やが強くていい男になってまた会えることを・・・」
「小春お姐さん・・・!」
蓮は涙を拭って笑って見せた。
蓮は花街で隠れていたときの部屋に移り、そこで眠った。悲しい思い出とそして優しいぬくもりを抱いて蓮は静かに寝息を立てた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




