八章 桜色の逆襲
今日は調子が良かったのか、続きがすぐに完成しました。少しイレギュラーではありますが、最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏
七章 桜色の逆襲
「お、お父さま・・・」
地下牢にいる全員が凍りつく。
「史悠さま、どうして瑠姫さままでもが地下牢に入らねばならないんですか?」
壮が史悠に聞く。すると史悠は口を動かした。
「瑠姫。お前は知りすぎた。そして華札に選ばれた。我が復活を阻止するものは排除せねばならぬ」
史悠の声色を聞いて瑠姫が言い放つ。
「あなたは誰? お父さまはあなたみたいな人じゃない! あなたは誰?」
すると史悠の口元が歪むと、禍々しい瘴気が地下牢に溢れる。蓮と真聖はこの黒い瘴気を知ってる。
「蓮!」
「黒龍!」
瘴気はだんだんと形を作っていき、大きくて黒い龍に姿を変えた。目は鋭く血のように真っ赤な瞳をこちらにむけていた。こんな化け物が何千年も封印されていたと思うと強くなる。
「首領さまに取り憑いて何を?!」
蓮の言葉に黒龍は大きな激昂の後、低く暗い声で言った。
「華札継承者を滅ぼす・・・。それを手助けする者は、消す・・・」
「父上のあのような目に遭わせて、僕は許さないからな!」
「その銀髪・・・。なるほど、そういうことか。ただ、残念だな。お前はもう時期死ぬぞ」
黒龍はそう告げて姿を消した。目を開けると史悠の姿もなかった。お父さまは? と瑠姫が慌てている。死の宣告をされた蓮はその場に立ち尽くしていた。
しばらくすると大臣たちがゾロゾロとやってきた。戦を引き起こした黒幕である。すると蓮を呼び、言った。
「蓮。明後日、貴様を死刑にする」
蓮は頭が真っ白になり言葉を失った。黒龍の死の宣告が当たったのである。瑠姫が大臣たちにたてつく。
「お待ちなさい! なぜ、この者は無実! 罪状のないまま、死刑にするのはよくないです!」
「瑠姫さま。あなたは知りすぎた。そのまま世間知らずでいてくれたほうが、助かったものの、史悠さまを動かせて我々は嬉しゅう思いますよ」
大臣たちは不敵な笑みを浮かべ、高笑いをしながら地下牢を後にした。瑠姫はその場で泣き崩れてしまった。
冬国首領の息子、蓮が処刑---。
見世物にする要素が十分すぎるほど揃っている。しかしもう打つ手はない。蓮の生存は絶望的になった。
花街の掟が一時凍結になった影響で花街は小さな混乱の中にあった。小春は花街の頂点に立つ花魁として混乱を鎮めるために必死になって動いた。
仕事が終わって部屋に戻ると、蓮が買ってきた組糸と蓮が元々着ていた着物が置いてあった。
「蓮・・・。なぜわっちはこんなにもぬしのことが気になってしまうのでありんしょう・・・」
着物を抱きしめて小春は呟いた。すると小春の部屋に理久が慌てて部屋へ入ってきた。
「小春姐さま! 大変です!」
「何? 騒々しい」
「蓮が・・・! 蓮が、死刑に処されるという話が来たんです!」
それを聞いた瞬間、小春の頭の中が真っ白になった。しかしその反面、ある言葉が浮かんだ。
助けなくては・・・。
小春の中に流れる血が蓮を助けろ、と言っているように感じた。しかし小春は花魁であるために桜門の外に行くことは許されていない。
気持ちが溢れて堪らない。しかし手がない。
何ででありんしょう。わっちはこの呪われた血に抗い、逃げて逃げてここまで来んしたのに・・・。やはりこの古より伝わる血には逆らうことはできんせん・・・。
そう思った後、小春にある考えが浮かんだ。しかしそれを実行するには小春一人だけでは成功する確率はない。そこで小春は番傘持ちの龍を呼んだ。
「お前に最初で最期の頼みがありんす」
「?」
小春は余すところなく龍に詳細を伝えた。その内容は大胆不敵なものだった。しかし、今頼れる男はお前だけだ、ということを伝えると龍は承諾してくれた。その後、小春は理久と真乃を呼び、伝えた。
「お前たちに無理を強いてしまうことを許しておくれ」
「小春姐さま。大丈夫です。私たちは小春姐さまの味方です。ね、理久」
「うん、真乃」
小春はそうかい、と笑うと悪戯のように笑った。
「いいかい? 一世一代の機会。今からわっちは・・・花魁を捨てるでありんす」
牢屋では蓮と真聖、瑠姫はすでに夢の中。最初こそ眠れないと言っていたがやはり疲れと睡魔には叶わず眠りについてしまった。
「黒龍はきっと俺や真聖、瑠姫さまと言った華札継承者を生かしてはおくまい。蓮の処刑はその見せしめか? 一体どこにいるんだ、弥生の華札をその身に宿す人間は・・・!」
壮の苛立ちは増えていく。
何もできない自分が歯がゆい、そして悔しさと怒りが満ちていく。さらに大臣たちの身勝手な行動で瑠姫までもが牢屋に入れられてしまう。おそらく国民はそれを知らない。
それを知らしめることができれば、蓮の処刑は回避させられるが今どうすることもできない。
そして時間は過ぎて処刑当日になってしまった。
朝の光はとても眩しくて、蓮には人生で一番眩しく見えた。兵士に連れられて蓮は牢屋の外へ出る。他の三人は牢屋に閉じ込められたままだ。
「蓮・・・」
「ごめんね、真聖・・・。父上によろしく・・・」
そのまま兵士に蓮は連行された。真聖の悲痛な叫び声が地下牢に響いた。鉄格子を握って大声をあげて泣いた。これにはどうすることもできない。今全員がそれぞれの場所で絶望の淵に立っていた。
一方蓮は宮殿の外にある広場へやってきていた。なんとも卑しい公開処刑だ。
人々が蓮の銀髪を見て恐れおののく。冬国首領の息子ということを言えば人々の盛り上がりはピークに達する。
ついに蓮の首に縄がかけられる。
ああ、僕は死ぬんだ・・・。父上・・・、柊・・・、本当にごめんなさい。真聖・・・、最後までいられなくてごめん。壮さん・・・、せっかく親切にしてくれたのに恩返しができなくてごめんなさい・・・。小春お姐さん、助けてくれて、導いてくれて・・・守ってくれて・・・ありがとうございました・・・。
蓮は心の中で様々なことを思った。鐘が黒い空に響く。処刑の合図だ。蓮は目をギュッとつむった。そして黒龍が史悠の手を動かして処刑の合図を取る。
「やれ」
蓮の乗っている板が開こうとしたその瞬間、人々の背後から大きな声が響いた。
「その処刑、お待ちよ!」
人々が振り返ると、そこには理久と真乃、そして真っ赤な着物で着飾った小春が堂々と歩いていた。小春の桃色の瞳が史悠を睨みつけている。
その美しさに人々は言葉を失った。一言でも声をかければあの眼光に捕らえられて動けなくなりそうだからだ。
「小春・・・お姐さん・・・」
小春は蓮の前に立つと大きな声で言った。
「よく聞きなんし。ぬしたちは幻想を見ているにすぎん。この子は冬国首領の睦月蓮紀の息子、すなわち、華札の血を持つ者。殺した時、天罰が落ちるでありんしょう。そいで、首領さま、いや、黒龍! ぬしが首領さまを操って蓮処刑を企てたのでありんしょう? さあ、姿を見せたらどうだい?」
すると史悠は笑った。その証拠はどこにある、と聞く。しかし小春は笑ってこれを見てまだ言えるのかい? と言うと龍の名前を呼ぶ。
すると龍と共に真聖、壮、瑠姫がやってきた。
「え?! どうして?!」
蓮が驚いていると理久が小さな声で後で説明します、と耳打ちした。それを見て小春は再び人々の方を向いて話し始める。
「黒龍が長い時を経て復活した。王が命令を出さない限り、封印は実行さりんせん。それが暗黙の掟らしくてのぉ。さあ、黒龍、全てを白状しなんし!」
すると史悠は笑い始めて黒い瘴気を出す。黒くて不気味な瘴気は龍の形になって天空へ現れた。玉座には気を失った史悠の体がある。伝説上の黒龍が姿を現し人々は恐れた。
「完全な封印はできんせんが、力で押さえ込み石碑に縛りつけることは可能や! さ、早くやりんしょう!」
小春の発言に蓮が不思議に思う。
「お姐さん、どうして華札のことを?」
「蓮。わっちは今日まで隠してきたことがあるのよ」
そう言った小春は自分の着物に手をかけて出そうとする。蓮は驚いて目を瞑る。顔を赤くして照れていた。
「あ、すいません! 僕はなにも!」
「照れんでまあ見てくんなんし」
蓮が目をゆっくり開けると露わになった胸には桜の花の形をした痣が目に入った。蓮が驚いていると小春は声高らかに言い放つ。
「わっちは三月の華札『桜に幕』をこの身に宿す者。小春は源氏名、真実の名ではありんせん。わっちの真の名は弥生花蓮と言うんよ」
小春は真っ赤に紅を引いた唇でいたずらっぽく笑った。
小春お姐さんが華札継承者・・・?
蓮は終始信じられないようだった。それを聞いた理久と真乃も驚いている。すると小春は天にうごめく黒龍を見つめて言った。
「桜に幕の華札よ、わっちに力を・・・」
小春の言葉の後に小春の周囲に気が満ちる。華札の力が小春に集まっている証拠だ。そして天空に向かって手を伸ばすと黒龍の動きが鈍くなる。どうやら華札の力が効いているらしい。
それを見ていた壮と瑠姫も立ち上がる。華札の力を使う言葉など知らない二人だが、体は自然と動きそして口も自然と動いた。
「藤にホトトギスの華札よ、俺に力を・・・」
「菖蒲に八ツ橋の華札よ、私に力をお与ください・・・」
三人の言葉と共に華札の力が解放される。華札の波動が壮、瑠姫から溢れ始める。その力が黒龍に鎖となって押さえにかかる。
「化け物が苦しんでるぞ!」
人々が天を指差して叫ぶ。春国の華札継承者だけでは完全に封印することはできないが、力を抑え込むことならできるという言葉を胸に三人は必死に押さえつけた。
黒龍は苦しむ雄叫びをあげて散り散りに消えた。三人は息切れを起こしたが、空には光がちらほらと見えるようになった。
「やったぞ!」
人々は手を叩いて喜び合う。そしてその隙に真聖が蓮を助け出す。
「大丈夫?!」
「うん。ありがとう」
真聖が聞くと蓮は答えた。空を見上げるともう黒龍の姿はなかった。蓮は空をずっと見つめている。すると真聖が蓮の方を向くと蓮の体からわずかな波動を感じる。水色の波動が見えた。しかしすぐになくなった。
「真聖? どうしたの?」
「え? なんでもないよ!」
黒龍の脅威は華札の鎖で一時的に去った。公開処刑が逆転し、華札継承者の儀式に変わってしまった。伝説の華札継承者の登場に人々は歓喜した。すると瑠姫は人々の前に立った。
「みなさん、聞いてください! 私たちはみなさんに伝えなければならないことがあります! 十年前の冬国との戦を覚えている方も多いでしょう。あれは豊富な水資源を求め、冬国に攻めました。しかし、あれは首領を誑かした大臣たちの仕業なのです」
それを聞いて人々に動揺が走る。
背後にいた大臣たちが驚きの表情を隠せない。蓮も状況が読めず驚いている。すると瑠姫は着物の懐から巻物を取り出して人々に見せた。
「この報告書はあの戦の詳細が書かれているものです。皆さんが知っていることはあの者たちによって書き換えられた嘘の歴史なのです! 大臣たちは真実を隠し、私服を肥やしていることを私は知っている!」
瑠姫の背後から壮と番傘持ちの龍によって黒幕である大臣たちが人々の前に引き出された。そこには瑠姫の言葉によって半信半疑な人もいれば、怒りで顔が歪んでいる人もいる。
瑠姫は手に持っている報告書を白日に曝す。瑠姫はそれを掲げた。
「私はこれを明日より掲示し、皆さんに分かってもらうつもりです。私はなにも知らず、知ろうとせずに過ごしてきた。しかし、私の中にある華札が闇に埋もれた真実を見せてくれました。大臣たちによって実行された戦、多くの人たちが亡くなった冬国の光景、立ち尽くしていた蓮紀さま・・・。今でも思い出すだけで胸が締め付けられます」
それを聞いた蓮は真聖にそれは本当? と聞いた。その戦が起こったのは十年前、ちょうど蓮と真聖が生まれた年に起こった戦である。
「父上や柊、母上も辛い思いをしたんだね・・・」
瑠姫は一呼吸を置いてまた話し出す。
「この失態は決して許されることではありません。私は過去の罪を背負って生きなければなりません。しかし、私はこの日を境に償い続けて全ての人々に真実をお伝えすることを約束します!」
瑠姫の演説が終わると人々は歓喜した。拍手が溢れ、鼓膜をつんざくような音が周囲に溢れた。今まで頼りなく罪の意識と華札継承者の重責に押しつぶされそうになっていた、一人の少女の背中が頼もしく見えたのだった。
蓮は見た。
一人の少女が春国の姫としての責任を全うしようとする強い姿を見たのだった。
瑠姫の歴史的演説の後、瑠姫は約束通りに報告書を掲示した。そこには国民の知っているものとは真逆な事柄が書かれていた。
主犯であった大臣たちは裁判にかけられ法によって裁かれた。瑠姫の父・史悠はしばらく昏睡状態であったがしばらくして回復し元に戻った。
事のあらましを聞いて納得し、春国首領としての責任を果たすと決めたという。
こうして春国を蝕んでいた闇は一人の姫によって白日の元に晒され、様々な誤解が解消されることになった---。
最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏




