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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第二記:春国編
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六章 瑠姫と菖蒲

更新します。最後まで読んでいただければ幸いです。藤波真夏

五章 瑠姫と菖蒲

 一方、春国宮殿では瑠姫が部屋にいた。

 本を読んでいるとあの壮の言葉が頭から離れなかった。


 春国がかつて冬国に何をしたのか、ということです。

 瑠姫さまともあろうお方が、正直がっかりでございます。


「お父さまが一体何をしたというの?」

 そう呟くと瑠姫は突然顔をしかめた。左足の甲が急に痛み出す。怪我などはしていないが靴を脱ぐと足の甲には見たこともない綺麗な形の痣がくっきりと残っていた。

「何これ・・・」

 痣の形は菖蒲アヤメの花の形になっていた。驚いて言葉を失う瑠姫。そこへ一人の女性がやってきた。

「お母さま」

 瑠姫の母親でこの春国首領の妻である彩女アヤメである。瑠姫に現れた痣の形菖蒲と同じ名前を持つ人物である。瑠姫の足の甲を見て彩女はため息をついた。

「やはり、この時がきてしまいましたか」

 彩女は息を吐く。一体どういうこと? と困惑する瑠姫に彩女は向かい合って座った。彩女の瞳も瑠姫と同じ紫色に染まっている。

「私は華札継承者の家に生まれた」

「華札継承者? でも、あれは伝説でしょ? そんな冗談・・・」

「冗談ではありません」

 彩女の真剣さに瑠姫は言い返せなかった。母親の言っていることはどうやら本当らしい、と納得せざるを得なかった。彩女は瑠姫の足の甲を指差す。その菖蒲の痣が動かぬ証拠だと。

「私にはわかっていました。あなたが、五月の華札「菖蒲に八ツ橋」の力を受け継いでいることを・・・。あなたの本名は、皐月瑠姫サツキルキ。れっきとした華札継承者なのです」


 私が・・・華札継承者・・・? お母さまの血を濃く受け継いだから?


 瑠姫の震えが止まらない。華札継承者という謎の重圧と不安が瑠姫を襲う。どうして教えてくれなかったの? と瑠姫が問うと、彩女は話し出した。

 今から十年前、春国は水不足で兵力が少ない冬国を攻めた。結果は春国の勝利で土地を奪った。冬国にも華札継承者がいたのに彼はそれに耳を貸さず攻め入れた。

 それ以降、華札の話は伏せられた。私は華札継承者の家に生まれはしたけど、痣はない。その時、あなたに他でもない不思議な力を感じた。なんとなくだけど何か力がある。もしかしたら、と思ったわ。


 彩女が話し終わると瑠姫は言葉を失った。自分の中に流れる特殊な血の存在を再認識している。

「嫌」

「え?」

「私が華札継承者? 絶対に信じない! どうして私なの?」

 瑠姫が彩女に対して大きな声で楯つく。そんな力私にはいらない、と言って部屋を出て行ってしまった。彩女が名前を呼ぶも振り返らず廊下を走った。

 部屋から逃げるように出て行った瑠姫の視線の先にあったのは、菖蒲の花。紫色の花を咲かせている。

 私の目と同じ色・・・。

 瑠姫の口から思わず出た言葉。風に乗ってどこからともなく花が舞ってくる。美しい光景だが今の瑠姫にしてみればここまで心を乱される花などない。

「ねえ、どうして私なの? どうしてお父さまは私になにも教えてくれなかったの?」

 瑠姫の瞳から涙が落ちた。



 瑠姫は誰にも知られないように宮殿を出た。姫だと悟られないよう格好を庶民に合わせて道を歩く。誰も瑠姫の姿に気づく人間は誰一人としていない。

 春国が戦をしたなど信じられない、と思っていた瑠姫はすぐに思い知らされる。春国の至る所で十年前の傷跡が見えた。冬国ほどではないが、春国にもそれ相応の代償が残っている。

「あの・・・、それは?」

 瑠姫が何度も庶民に聞くと、出てくる言葉は全て共通したものだった。


 十年前の戦のときの傷跡さ。しかし生活が豊かになったから、別に変わらないさ。


 瑠姫は結局なにもすることができず、宮殿へ戻っていった。

 部屋に戻って足の甲を見ても痣は消えていない。どうやら母親の言っていることは本当らしい。受け入れがたい気持ちが大きい。

 じっとできず瑠姫は静かに廊下を歩いていた。すると謁見の間から話し声が聞こえて来る。瑠姫は壁にへばりついて聞き耳をたてる。

「冬国の少年が現れてから、我々の計画が国民に知られてしまってはまずい」

「今閉じ込めている壮も口を割りません」

 春国古参の大臣たちが密談をしているようだった。瑠姫は息を殺して話を聞こうとする。話の内容的に地下牢に閉じ込められている壮と真聖のことらしい。そして現在捜索中で行方不明の冬国首領の息子・蓮。

 そして話はだんだんと瑠姫の知らない方向へと進んでいった。

「十年前の戦は冬国侵略を目的としたもの。水不足などただの建前に過ぎぬ」

 瑠姫の耳に入ったのは驚愕の事実。史悠のしていたことは国のためではなかったというのだ。

 話の内容はこの通りだった。

 国民を案じての最終手段としての行為ではなく。冬国侵略を目的をしていたということ。この戦で冬国の国民がほぼ亡くなったこと。そのおかげで冬国の領土の一部が春国の支配下に入ったこと。

 聞いていれば出るわ出るわ秘密の数々。瑠姫はその場を後にした。また逃げるように出て行く。再びあの菖蒲の花が目に入る。ずっと見つめていると、不思議な力が瑠姫に満ちてくる。

 どうしたんだろう? と慌てていると、声が聞こえてきた。


 瑠姫よ。


「誰?!」


 我は五月の華札「菖蒲に八ツ橋」である・・・。お前の心を少しばかり見させてもらった。


「へ?」


 お前は華札継承者になる自覚がないと見える。その心に残るわだかまり、その真実、我がその瞳に見せてやろう。あの時、一体何が起こったのかを・・・。

 突如として眩しい光に覆われ、目を瞑る瑠姫。目をゆっくり開けるといつの間にか、謁見の間に居た。そこには先ほど密談していた大臣たちと父親の史悠がいた。

「お父さま!」

 瑠姫が声をかけるが、史悠は反応しない。近くへ寄ってもすり抜けてしまう。どうやらこれは過去の姿らしい、と瑠姫は理解する。

『史悠さま! どうかご決断を!』

『そうでございます! 国民たちを守るために、冬国を攻めましょう!』

 大臣たちが言う。しかし、瑠姫には彼らに国民を守りたい、という感情は一切伝わってこない。私利私欲のために冬国を攻めるといったところであろうか。

『何を言うのです! 冬国にも華札継承者がいます。彼らに刃を突き立てるようなことがあれば、他の国の継承者たちが黙っていません!』

 瑠姫の母親・彩女の声も聞こえてくる。彩女は攻めることに反対していたようだ。

 華札継承者の家に生まれた彩女は分裂してしまった国を平和に導いたのは華札継承者だと聞かされている。決して相手側を攻めては長年保ってきた平和という名の均衡が一気に崩れてしまう。

 彩女は必死に説得を続ける。

『攻めてはいけません! また二の舞になるおつもりですか?!』

『お妃さま! お言葉ですが、あの話は伝説でございます。しかも、あなた様は華札継承者の家ご出身でございますでしょうが、あなたは華札継承者ではない。このことに口を挟むべきではないかと思われます』

 大臣に言いくるめられ、彩女は反論できなくなってしまった。

 ついに史悠が立ち上がって言った。

『すぐに戦の準備をするのだ。冬国を叩く!』

 史悠の号令を共に大臣たちは動き出す。そして残った首謀者の大臣たちはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。

「これが・・・戦の真相?」


 するとまた光が溢れてまた目を開けると、そこには荒野と化した場所。

「ここはどこ?」

 瑠姫がそう言うと、背後から馬の蹄の音がする。急いで避けると銀髪を持つ男性が馬に乗っていた。あの銀髪を瑠姫は見たことがある。

「あの人・・・」

 すると華札の声が聞こえてきた。

 あの男は冬国首領にして一月の華札継承者・睦月蓮紀。ここは冬国。お前の春国に攻められこの国の大半は死んだ。

 まだ一回り若い蓮紀は馬から降りた。周囲を見渡すと国民たちの遺体や焼き討ちされた家の廃材などが転がっており、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

『なんということだ・・・。何故攻められたのだ・・・。何故・・・』

 蓮紀の嘆きが聞こえてくる。瑠姫は胸が締め付けられた。自分がこれほどの大きな犠牲の上に何も知らずに立っていると思うと息ができない。

 蓮紀の激昂が聞こえたかと思うと瑠姫は元の場所に戻ってきていた。しかしあの光景が未だに忘れられない。

 また華札の声が聞こえてきた。


 よいか。お前はこれほど大きな重圧と責任に耐えられる心を持っているのか? そして罪を背負うことはできるか?


 罪を背負う。

 「罪」という言葉が重くのしかかる。しかも華札伝説では黒龍が復活すれば大変なことになることも書かれている。瑠姫はそれを理解はしているものの足が進まない。

 黒龍がいつ春国に現れるかわからない。

「大人は・・・酷いんだね」

 瑠姫の瞳から涙がこぼれた。脳裏に焼きついた光景を思い出すだけで身の毛がよだつ。

 瑠姫はその夜、一人書庫にいた。そこで報告書などを探っていると、報告書に矛盾点を発見した。大臣たちの言葉と報告書の内容が食い違っている。

「現にあの人たち、出世してるみたい」

 まさか、と瑠姫は書庫から出た。瑠姫は全て分かった。華札が見せた過去のこと、そしてあの大臣たちが仕組んだ戦、それに史悠はまんまと乗せられたということを。

「急いでお父さまのところへ行かなくては・・・」

 廊下を走るとそこで史悠に鉢合わせをした。どうしたのだ、夜遅くに、と聞く史悠に瑠姫は笑った。なんでもないです、と言ってその場を去ろうとする。

 しかし次の瞬間、強烈な睡魔に瑠姫は襲われた。

 そのまま廊下に倒れるように眠ってしまう。瑠姫に近づくと史悠は瑠姫の足の甲にある菖蒲の痣を見た。そして史悠はただ口を歪めて笑った。

「まさか、こいつの娘が華札継承者だとは・・・。春国の核心に迫ったからこのような目に遭うんだよ、お姫さま」

 口調からしてどう見ても史悠ではない。

 禍々しい黒いオーラが出ている。そのまま、史悠から出たオーラが集約し大きな龍になった。蓮たちが封印しようとしている黒龍は史悠の体を乗っ取っていたのだった。

 瑠姫は史悠に抱えられどこかへ運ばれた。

 それに瑠姫は気づくはずがなかった。

「師走の札、師走真聖。卯月の札、卯月壮。皐月の札、皐月瑠姫・・・。これほど多くの華札継承者たちが我の元に集まった。一気に消すなら今だ・・・」

 黒龍はそう言うとまたニヤリと笑った。



「?!」

 地下牢に幽閉されている壮が何かに気づく。黒く禍々しいオーラだ。

 これは・・・、異常すぎる力を感じる。まさか、黒龍が近くにいるというのか・・・?

 しかし周囲を見渡しても何の変わりもない。蓮もまだ捕まっていない。そしてまだ牢屋から出ることはできない。

「一体、何が起こっている?」

 壮は呟いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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