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華札のクニ  作者: 藤波真夏
第二記:春国編
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四章 偶然の重なり

更新を怠ってしまい、申し訳ありません。続きを投稿します。最後まで読んでいただければ幸いです。 藤波真夏

三章 偶然の重なり

 桜門が開門する少し前のことだった。桜屋の一室では小春が花魁行列に向けて準備をしていた。髪を結い上げ、紅を引いて。美しい真っ赤な着物を着る。

「小春姐さま。理久です。入ってもよろしいですか?」

「お入りなんし」

 部屋のなかから声がして理久が入る。そこには美しく着飾った小春の姿があった。お綺麗です、と言うと小春は笑った。

「そういいますれば、真乃はどこへ行ったの?」

「真乃は花魁行列の準備でリュウさんと一緒におります。番傘や提灯の準備に追われてます」

「そうか」

 小春は格子窓から外を見ると、もうそろそろ夕闇が迫ってきている。すると小春が左胸を抑える。なんだか熱い。しかしその正体がまだわからない。すると、今度は真乃が入ってきた。

「小春姐さま。準備が整いました。下へどうぞ」

「そうか」

 小春は理久と真乃を連れて部屋を後にした。

 高下駄を履き、赤を基調とした着物に帯、簪に髪飾りと豪華に着飾った小春。花街の中でも花びらは舞う。花びらたちが小春の美しさをさらに際立たせる。

「では参りんしょう」

 小春の合図でお付きの理久と真乃が歩き、そして小春、その後ろを番傘持ちの龍が続く。鈴の音が歩くたびに音を鳴らす。まさに百花繚乱、豪華絢爛という言葉が似合う。


 かーいもーん! かーいもーん! かーいもーん!


 花魁行列が始まると同時に花街唯一の出入り口である桜門が開門する。そこからたくさんの人たちがやってくる。大勢の視線が小春に集中する。花街一と謳われる花魁小春を知らないものなどいない。

 多くの男たちが彼女を我が物にしようと画策するが、小春がいつも振り続けているために男たちはいつも指をくわえて悔しがっている。

 小春がゆっくりと歩いていると、はあ、はあ・・・、と息の切れる声が聞こえて来る。なんや? と小春が視線を泳がせていると桜門から走ってくる影が見える。

「あれは・・・」

 銀色の髪をした少年、蓮だった。

 すると蓮は花魁行列の前で急ブレーキをかけた。目の前には驚いて見つめる人たちがいる。味方がいない蓮にとってこれほど恐怖なことはない。

「あなた! 今は花魁行列の真っ最中です! それを遮るとどうなるか分かってるんですか?!」

 理久が蓮に向かって言った。花街の掟など知らない蓮は言葉を失って立ち尽くしている。番傘持ちの龍もやってきて追い返そうとした次の瞬間、後ろから声がした。

「龍、すこぅし待っておくれ。坊や、ここがどこだか分かってありんすの?」

「そ、それは・・・」

 蓮は口を動かす。しかし恐怖でなかなか出てこない。小春は蓮の足が泥だらけであることに気づく。蓮は兵士から逃げている最中に靴が脱げてしまったらしい。息は上がっている。

 この坊やの銀髪・・・。きっとこなたの子、只者ではないわ。

 小春が遠くを見ると兵士たちが桜門をくぐってこちらへ近づいてくる。勘の鋭い小春は蓮に言った。小春は着物を翻して蓮を隠した。そして番傘持ちの龍に小さな声で耳打ちをした。

「龍。向こうに兵士が見える。きっと狙いはこなたの坊やよ。こなたの坊やを視界から遮る。わっちが応待するから、龍は番傘で見えないように隠しておやり」

 龍は承知致しました、と言うと蓮を番傘で隠す。そして理久と真乃には決して口外しないように口うるさく言い聞かせた。

 数秒後には何事もなかったかのように花魁行列が再開される。いつしか行列の周りには多くの見物客が訪れており、小春の美しさに心を奪われていた。口々に聞こえる賛美の声。自分自身に絶対的な自信を持っているように背筋は伸びている。

 花魁道中をしてしばらくすると桜門から兵士たちが数名駆け込んできた。人々のどよめきからついに来たか、と小春は表情を硬くした。

 兵士たちは小春と対峙する。

「おい、ここにガキが来なかったか?」

「さあ、わっちはしりんせん」

 小春は表情ひとつ変えず答えた。しかし、兵士たちは引き下がることができないと小春の周囲を物色し始める。兵士たちの声が近づくにつれ、蓮は着物の袖をキュッと掴んだ。

 小春には蓮が恐怖に怯えていることが鮮明に伝わってきた。

「本当に来ていないんだな?」

「うちはそうとしか言っておりんせん。どうぞ、お引取りを」

 兵士は小春の顔をマジマジと見つめる。

「ふん。花魁ってのは傲慢だな。さぞかし様々な男をはべらしている性根の曲がった女なんだろうな」

「そういうことをおっしゃられますか?」

 小春は一度として表情を変えず、ずっと兵士を睨みつけていた。少し花魁を罵倒されて嫌気がさしている様子だ。その形相に理久と真乃も恐怖に怯え、後ろに引いていた。

「お探しの坊やはどんな子なの?」

「銀髪で瞳の色が水色だ。あれは冬国の人間だということだ。即刻捕らえてこいとの命令だ」

 そして小春は一通り聞くと毅然とした態度で歩き出そうとする。すると兵士の一人が待て! と小春の肩を掴んだ。

「まさか、お前隠してるんじゃないだろうな? そのガキがこの門をくぐったところを見たって人がいるんだ!」

「それはただの見間違いでありんしょう。どうぞお引取りを」

 しかし兵士はまだ引かない。ついに小春は頭に来て兵士の頬に平手打ちをお見舞いした。何をするんだ、と食ってかかる兵士に小春は睨みつけた。

「あんさん。ここがどこだか理解していんす? ここは花街。たくさんの人間が一夜限りの夢を求めて集う場所。ここには厳しい掟がございんす。まさか、それを破るつもりではございんせんよね? こなたのお偉いさん方はここを作るだけ作っておいてその程度かぇ? こなたの花街一の花魁であるわっちにこないな恥かかせて・・・たとえお前たちであろうとも、容赦はしない!」

 兵士は一瞬怯んだ。花街の掟は絶対的な存在であり、たとえ首領の史悠がその掟を破っても処罰対象となってしまうのだ。小春の態度に兵士は折れて撤退した。

 兵士の影がなくなると行列の後ろから中年の女性が現れ、小春に耳打ちする。小春は頷いて龍を呼んで耳打ちをした。

「花魁行列は中止。急いで店に帰りんす」

 龍は頷くと方向転換をして店へ戻っていった。一方の人々は大混乱。あの兵士が来てから名物の花魁行列が見れなくなったと非難轟々だ。桜屋に戻った小春は急いで着替えて普段着に着替える。部屋でくつろいでいると部屋の外からある気配がして声をかけた。

「そんなところに隠れていないで出てきなんし」

 すると戸の影から蓮が姿を現した。やっぱりか、と言うとため息をついた。蓮は部屋へ招きいれられると額を床に擦り付けるくらいに下げた。

「助けてくれて、ありがとうございました」

 小春は礼なんていりんせん、と告げた。小春は蓮の顔を見る。

「坊や、名前は?」

「へ?」

「おや? 名前を知らないのかい?」

「れ、蓮・・・です」

 蓮の声はだんだんと小さくなっていく。兵士に追われたことが影響しているのかどんなことでも恐怖を感じてしまうらしい。

「わっちは小春。それにしても蓮、なぜ兵士に追われていた? 何か悪いことでもしたのかい?」

 蓮は口をつぐんだ。もしこの人が冬国の人間嫌いでまた酷い目に遭う可能性だってある。すると小春は扇子を持ち、蓮の顎に当てクッとあげた。無理やりに小春の視線とぶつかる。

「わっち、弱い男は嫌いよ。優柔不断な男はもっと嫌い。わっちはこう見えても気分屋なんだ、早く言いんせんと追い出してしまうよ?」

 小春の目に負けて蓮は涙を必死にこらえて話し出す。

「僕は・・・、親友の子と一緒に華札継承者を探して春国まで来ました。華札の封印が解けて黒龍が復活してしまった。このままでは大変なことになる。だからそれぞれの国に散らばっているであろう華札継承者の人を探しているんです」

 小春はハッとした。しかしすぐに表情を元に戻してしまう。蓮はそのまま続けた」

「その後、親切なお役人の壮さんの手助けで史悠さまに謁見することができましたが、僕の銀髪で怒りを買ってしまい、親友と壮さんは捕まってしまいました」

 小春は壮さん? と首をかしげた。すると小春は顔だけ知っていると言った。壮がまだ若かったときに花街の視察にやってきており、そこで小春を見て「美しさで隠したお飾り人形」と卑下した。

 それ以来、小春は壮と顔を合わせていないがその印象だけが強烈に残っていて小春は現在でも根に持っている。


 あの青二才!


 小春は心の中で叫んだ。

「それで壮と親友の子が捕まってありんすってわけか。ところで、蓮、お前は一体どこから来んしたの?」

 蓮は迷ったが、弱い男は嫌いだという小春の言葉を思い出し言った。

「僕は冬国から来ました。冬国首領の息子です」

 小春は目を見開いた。それを聞いて小春は静かに笑い出した。何か、おかしいことを言ったのだろうかと心配になる蓮は小春を見続けた。

「悪かったね、驚かせてしまいんしたわ。銀髪は冬国首領の家系だけにあるものだと聞いていたけんど、まさかこなたのような形で会うことになるとは・・・人生生きてて何があるのか分かりんせん。気に入った」

 小春は蓮にある提案を持ちかけた。それは当人である蓮を驚かすには十分すぎるものだった。



 そして場所は変わり、花街とは縁遠い薄暗い地下牢。今まで多くの大罪人が収容されていたために荒れている。雨漏りもあれば、無実の罪で投獄された人たちの無残な人骨が放置状態にされていた。

 その一室に足枷をはめられ拘束された真聖と壮がいた。真聖が激しく咳をすると心配して壮が気にかける。衛生面が非常に悪い地下牢は子供にとって病気の温床でしかない。

「壮さん。すいません」

「真聖。お前が謝ることじゃない。結果として蓮が生き延びたんだ。大丈夫だ」

 真聖はそうですね、とおもむろに痣のある首の後ろを掻く。それを偶然壮が見てしまった。驚いた壮は真聖に聞く。

「真聖! この首の痣・・・、まさか・・・!」

「えっと、これは・・・」

「大丈夫だ、今、ここには私しかいない。決して秘密は漏らさないと約束しよう。話してくれないかい?」

 壮に言われて真聖は渋々話し始めた。そして自分が師走の華札継承者であることを伝えた。そういうことだったのか、と壮は頷いた。真聖は足を抱え込むように座り俯く。

「それは僕も驚きましたよ。寝違えたと思ったら鳳凰の痣があるんですから。僕は本当の家族がいないから正直驚きです」

 それにしても壮さんは驚かないんですね、と付け加えた。どうして華札継承者を目の前にして驚かないんですか? と問いかける。壮はフッと笑うと真聖の頭を撫でた。

「私も・・・君と同じだからだよ」

 え? と真聖が言った瞬間、壮は自分の着物に手をかけ脱いでいく。真聖が見たのは、壮の脇腹にあるホトトギスの痣だった。まさかそんな、と驚きのあまり目を丸くし言葉を詰まらせる真聖に対し壮はこう言った。

「私は、四月の華札『藤にホトトギス』をその身に宿す者。私の真実の名を明かそう。卯月壮、これが真実の名だ」

 真聖は目をこする。痣はあるままだ。どうやら本当らしい。すると真聖は壮にすがりつく。

「じゃあ、感じるんですか?! 黒龍の気配が!」

「まあね。鮮明に感じるよ、この春国に嫌な気配を。何かことが起こらなければいいが・・・」

「蓮・・・。大丈夫かな」

「大丈夫に決まってる。さっきここに来た兵士たちの声色からすればまだ捕まっていない。大丈夫だ」

 真聖を優しくなだめる壮。隙間風が吹く地下牢。二人は身を寄せ合って温まる。不安から解消されたのか真聖は眠りについた。その寝顔を見ながら壮は思った。


 まだ大人とも言えない彼らの意思とはいえ、辛いことだ。もしこのような状況になっていると聞けば・・・、すっ飛んでくるだろうに・・・。心中お辛いはずだ・・・。可愛い子には旅をさせよ、とは成長を期待する分と同じくらいに不安があるのだな・・・。


 なんとしてでもこの地下牢から出ることを考えようと壮は頭を働かせる。すると地下牢を歩く足音が聞こえる。壮は警戒して身を固めた。

 蝋燭に火を灯してやって来たのは、真聖と見た目が同じ年頃の少女だった。美しい着物に簪を髪にさしていることからよっぽど裕福な人物であることが分かる。その顔を見て壮は口を開いた。

「なぜ、あなたともあろう方がこちらへ来たのですか? 瑠姫さま」

 史悠を父に持つ春国の姫、瑠姫だった。それは・・・、と瑠姫は言葉を詰まらせた。普段は嫌がってこのような場所には来ないことを知っていた壮は瑠姫から目を離さない。

「見てたの。あなた方がお父さまに逆らっていたところ。でも、なんで逃げたのかな? お父さまはお優しいから死なせたりはしないと思う」

 壮は思った。これはまるで父親のやっていることは慈悲深く慈愛に満ちている、殺すような真似など決してしないと幼い頃から言い聞かせているかのようだった。今これを真聖が聞いたらかなり落ち込んでいただろう。

「瑠姫さま。あなた様はご存知ないのですか?」

「何を?」

「春国がかつて冬国に何をしたのか・・・ということです」

 壮の訴えに瑠姫は口を開いた。

「それって、冬国が悪いことをしてそれを止めるためにお父さまが軍隊を送ったんでしょ?」

 信じられらなかった。壮は絶句した。純粋な目で言われてしまった。情報操作が悪い方向に行ってしまっている。瑠姫の頭の中には優しくて名君として尊敬されている史悠だけが頭の中にあり、それに埋もれた負の歴史を知らないことになる。

「瑠姫さまともあろうお方が、正直がっかりでございます」

「よくわからないけど、そう思ってしまったのなら謝るわ。ごめんなさい」

 瑠姫は頭を下げた。蝋燭の炎が瑠姫の紫色の瞳を照らす。すると壮の隣で眠っている真聖に視線が移る。

「ねえ、壮。睦月蓮紀は本当に悪い人なの?」

「いきなり何を?」

「・・・いいえ、なんでもない。私はこれで」

 瑠姫は頭を下げて地下牢を出て行ったしまった。一体何をしに来たのだろう、壮は疑問に思った。

 瑠姫は蝋燭を置いて息をつくと声を史悠に声をかけられた。史悠はこんなところで何をしている? と尋ねる。瑠姫はなんともないですよ、と笑顔で返した。壮に見せた笑顔とはどこか違う。

「ねえ、お父さま。春国が冬国に軍隊を送った話なんだけど」

「それがどうした?」

「睦月蓮紀は本当に悪い人だったの?」

 史悠の表情が固まった。まさか自分の娘からそんなことを聞くとは思わなかったからだ。瑠姫は頭をまた下げて史悠の横を走り抜けて行った。

 一人取り残された史悠は拳を壁に殴りつけた。悔しそうな表情で俯く。

「まさか、瑠姫までも気づくのか・・・。ふふふっ」

 史悠の体から禍々しい瘴気のようなものが現れる。しかし兵士が史悠に声をかけるとすぐに消えた。

「まだあのガキは見つからないのか?」

「実は、花街に逃げたらしいんですが花街には特殊な掟があり、それは国とて破ることは許されない場所です」

「花街に逃げたか。いや、大丈夫だ。掟に引っかかって今頃あの世だろう。門を侵す者、死をもって償うべし、だったか」

 史悠は笑った。しかし兵士には捜索の手を止めるな、と忠告して下がらせた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想&評価等よろしくお願いします。藤波真夏

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