3話 戦う理由【後編】
「わたしは自分のことを何も知らない。何処で生まれたのかも、親の顔も、ほんとの…………名前も…………」
最後はほとんど言葉になっていなかった。
(玲愛も、あの事件の被害者……)
「だから…………だからわたしは、最強になる! 輝かしい未来があれば、どんな過去も気にならないからっ! だから、その未来を曇らせると言うのなら……今ここで打ち倒す!」
彼女は言うのだ、未来を見つめていなければ、自分を見失ってしまいそうだと。例え自分の過去がどれだけ悲惨でも、未来さえあれば大丈夫だと。
(なんも見えちゃいねぇ)
すでに自分を見失っていることに気付いていない。
(これはじっくりと話し合う必要がありそうだな)
それにはまず――――
「この戦いを終わらせる!」
「望むところよ!」
二人は次を、最後の攻防と定めた。
「【煉獄の紅炎】!」
彼の霊装が炎を纏う。景色が歪むほどの魔力を放つその剣を見て、玲愛は気づく。
「これを撃つために魔力を温存していたの?」
「お前を倒すにはこのくらい必要だと思ったからな。なにしろ世界一だ、防御に回られたら勝ち目無ぇからなぁ」
そして、勇輝が駆け出した。
「これが正真正銘、俺の全力だっ!」
一気に間合いを詰め、振り下ろしを放つ。全体重を乗せた渾身の一撃だ。
しかし、この攻撃は空を切る。玲愛がバックステップでかわしたのだ。
これは決定的な隙となり、玲愛の一撃が決まる。
しかし、そうはならなかった。
「――――ウソでしょっ!?」
勇輝の虚を突き、決定的なチャンスを作り出した玲愛。だがそれは、全てが幻想に過ぎなかった。
勇輝の攻撃は、最初から地面に突き立てられるべく放たれた一撃だったのだ。当然、隙など生まれるはずもなく……
代わりに生み出されたのは――――――彼女を呑み込む煉獄の炎だった。
地面から吹き上がる炎の柱が収まり、彼女が姿を表す。おそらく防御魔法を展開したのだろう、ほとんど傷付いていなかった。
しかし、意識は保てていなかった。
「勝者、火野!」
玲愛が起き上がらないことを確認した桐山が試合終了を宣言する中――
『入学初日でこのレベルかよ……』
『……俺、ついていけるかなぁ……』
『………………なんも言えねぇ』
一年同士の戦いとは思えない攻防に、完全に戦意を喪失してしまうクラスメイト逹であった。
「誰か七草を医務室まで運んでくれ」
「俺が行きます」
桐山の言葉に勇輝が応える。
「良いのか? お前も一応怪我人なんだし……」
「ケガなんてしてませんよ」
確かに勇輝は傷一つ付いていなかった。
「確かにな。それじゃぁ、任せたぞ」
「任されましたっ」
玲愛を抱き上げ運び出そうとしたとき、ふと、後ろから声がかかる。
「少し、いいかい?」
見覚えのない、黒髪の女性だった。
勇輝の魔法……ルビ振るのがしんどい……