1話 邂逅
桜の咲き誇る春の学校の中庭、その中心に在る巨木の陰で勇輝は目を覚ます。
(やべぇ、寝ちまってた)
懐かしい夢を見たな、と空を見上げる。
(しっかし入学式の前に居眠りしちまうとはな……)
ゆっくりと立ち上がり、木陰から出る。すると、一人の少女の姿が目に飛び込んでくる。
風になびく長い髪は暖かみを感じるような茶色。それと同じ色の目をもつ整った顔を忙しなく動かしている。
「綺麗だ……」
思わず声に出してしまった。それくらい綺麗なんだから仕方ない、と自分に言い聞かせる。
当の彼女は…………未だにキョロキョロと辺りを見回している。
(あの制服……一年生か)
彼女のスタイルの良い身体を包む制服には、勇輝の物と同じ赤いラインが入っていた。おそらく入学式の会場を探しているのだろう。
「あのぉ……どうかしましたか?」
近づいて声をかけるが、緊張して敬語になってしまった。
「あっ、ちょっと……道に迷ってしまって……」
一瞬驚いたものの事情を説明してくれた。透き通るような優しい声だ。
「入学式の会場だったら、――あっちだよ」
勇輝は会場となっている多目的ホールを指差した。
「ありがとうございます。あっ、わたしは七草玲愛。玲愛って呼んでください」
「俺は火野勇輝、勇輝って呼んで。あと、しゃべり方も普通でいいよ」
「うん。よろしくね、勇輝くん」
「よろしくな」
ふと、中庭にある時計を見やると――
「八時五十八分…………って! あと二分しかねぇじゃん!」
思わず大声を出してしまった。
「急ぐぞ!」
慌てて玲愛の手を取り走り出す。すると――
「まかせて!」
玲愛が加速し逆に引っ張られる形になる。
「速っ!?」
その異常なまでの速さに声をあげてしまう。しかし、直ぐにその速さの理由に気づく。
(【身体強化】か!)
【身体強化】――その名の通り身体能力を数倍にも引き上げる魔法だ。
そう、ここ凱帝学園はただの学校ではない。
人知を超えた異能――魔法を操る魔導士を育てる教育機関。すなわち魔導学校なのだ。
【身体強化】はこの学園に入学する際、最低限覚えておかなければならない魔法の一つだ。
(……にしてもこの速度、どんだけの魔力を注いでるんだ)
と、そんなことを考えていると――
「着いたよ」
あっという間に目的地に到着した。
「ギリギリ間に合ったな……」
「どう? すごいでしょ?」
と言って得意気に胸を張る彼女の姿は……とても可愛かった。
「ありがとよっ。――そんじゃっ、入るか!」
そう言って二人は会場へと脚を踏み入れる。
その時、二人の魔導士の運命が――――繋がった。