プロローグ 始まりの日
――痛い
擦りむいた膝が痛む。
――怖い
いつまた爆発が起こるかわからない。
「この子だけでも……守らないと」
そう言って抱きしめるのは、名前も知らない少女だった。
その時――
『何処に隠れやがったッ!』
『まだガキなんだ、遠くには行けねぇだろ』
『黙って探せよ』
数人の男の声が響いた。
(あいつらが来た……)
足音がこちらへと近づいてくる。
(守れないのか……俺は)
そして――
「見~つけた」
場違いな程に明るい男の声が聞こえ、おそるおそる顔をあげてみると。
「あいつら……じゃない?」
そこに居たのは、短い金髪を後ろで結った二十代の男だった。
「あいつらってのは、あのテロリストのコトか?」
男の問いに俺は頷いて肯定する。
「あいつらなら問題ない。オレにかかれば一撃だ」
男が自信満々に言い放った次の瞬間――
『居たぞッ!』
『変な男も一緒だッ!』
テロリストが部屋へとなだれ込んでくる。しかし、男は何も聞こえていないかのように俺の前にしゃがみこみ――
「その子……妹か?」
男は俺が抱き抱える少女を指差しながら問いかけた。
「違う」
「じゃあ、友達か?」
「違う」
「じゃあ誰だよ」
男は半ば呆れながら聞いた。
「知らない」
「お前……まさか名前も知らないような奴を助けたってのか!?」
俺は頷いて肯定する。
「ふっ、お前、気に入ったぜ」
『オイッ! 俺達を無視るとはいい度胸じゃねえか』
突然叫び、銃を向けるテロリスト逹。依然、男は彼らに背を向けたままだ。
「だがお前にそいつは守れねぇ。何でかわかるか?」
俺は無言で続きを促す。
「お前が弱いからだ」
「――ッ」
「オレなら守れる、強いからな」
――瞬間、幾十もの銃声が轟いた。
しかし、放たれた銃弾が男に当たることはなかった。彼に近づいた弾丸は全て火花を散らして消えてしまう。
男がゆっくりと立ち上がり、俺に背を向ける。そして――
「悔しかったら此所まで来い」
そう言いながら男は地面を指差す。それはなんの変哲もない床だった。しかし、そんなことを言っているのではないと直ぐに理解できた。
“銃弾すら効かないオレと同じくらい強くなれば、お前に守れないものはない”
確かにそう言っているように聞こえた。だから――
「行ってやる……いつか必ず」
“必ず追い付く”と、その背中に宣言する。
「待ってるぜ」
その宣言をしっかりと受け止め、男は腰に差した鞘から剣を抜く。すると、眩い光が世界を覆い尽くし――
火野勇輝の意識は、ゆっくりと覚醒へと向かっていった。