15話 【業火の錬成】
「………………くっ」
勇輝は自らの腹部を抑え、先程の現象について考える。
(一度も目は離してない。まさか…………)
恐ろしい考えが頭をよぎる。考えたくもない、しかしそれ以外に考えられない。
「……まさか…………超音速での【裂空刃】……ですか?」
単純に動体視力を上回られた。
その考えに凪月が答える。
「よく気付いたな。いかにも、先程の技は高速で【裂空刃】を飛ばすという単純なものだ」
超音速の遠距離魔法。そう簡単に避けられるものではない。
そして、そう簡単に成し得るものでもない。
「“誰よりも速く” それを可能にする私の固有魔法。その名は【神風】。まぁ、速く動けるというだけなのだがな」
そう言うと、刀の切っ先を勇輝に向け――――
「あまり長引かせても意味はない。ここで終わらせるとしよう」
そして、神速の速度を以て勇輝に斬りかかる。
なんとか防いだものの、大きく体勢を崩す勇輝。
その隙を、凪月は見逃さない。返す刃で勇輝の胴を薙ぐ。
「――――何!?」
その驚愕は――――凪月のものだ。
だがそれも仕方のないこと。先程までは無かったはずの剣が、勇輝の左手に握られていたのだから。
凪月はバックステップで距離をとる。
「流石に驚いたみたいですね。これが俺の固有魔法、【業火の錬成】。剣を産み出すだけの能力ですけどね」
「成る程。魔法で造り出したのか……だが君も気付いているのだろう? あまり長くはもたないと」
そう、勇輝は既に傷をおっている。持久戦となれば確実に負ける。
ならば、
「次で決めますよ」
この一撃に、全てを乗せる他ない。
「望むところだ」
凪月は刀を鞘へと戻し、前傾の姿勢をとる。
先程と同じ居合いの構えだ。
だが魔法は放たない。彼女は決めたのだ、最後は自分の間合いで討ち取ると。
それに応えるように勇輝が駆け出す。
(左手で攻撃を防いで、右手で決める)
これなら彼女に届くと、自分を奮い立たせる。
そして、いよいよ間合いに踏み込むという瞬間。
声が、聞こえた。
「……【迅の極――神狼】……」
最後に勇輝が見たのは……宙を舞う自らの両手だった。
「勝者、ナツキ!」
アリスが宣言し勝者が決まる。
「勇輝! 大丈夫?」
玲愛が慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。
「【癒しの光】」
それは光属性の下級魔法だ。本来なら掠り傷を癒す程度の力しかない。しかし、玲愛が使えば話は別だ。
大量の魔力を注ぎ込めば両手を修復することも出来る。
「流石だな、玲愛。下級魔法でこれとは」
凪月が感心したように言葉を漏らす。
「凪月さん! いくらなんでも両手を飛ばすなんて!」
酷い、と抗議する。
「すまなかった。ああでもしなければ止められないと思ったからね」
これに意識を取り戻した勇輝が返す。
「……ああでもされなきゃ止まりませんよ、俺は」
すると、横から見ていたアリスが尋ねる。
「ねぇ、次はアリスと殺ってくれるんだよね?」
「いや、でも勇輝だって疲れてるだろうし……」
「もちろんやりますよ」
心配そうな玲愛をよそに答える。
「それじゃっ、ナツキ! レフェリーよろしくぅ」
そう言ってアリスは開始位置へと移動する。
その背中を見て、勇輝は再びあの感覚を覚える。
(血の……匂い……)
この数分後に、勇輝はその感覚の正体を知ることとなる。
次回、遂にアリスの能力が判明。