14話 【迅の太刀――餓狼】
「………………」
凱帝学園一年 火野勇輝は第三訓練場へと続く廊下を歩いていた。
この先に待ち受ける猛者逹と、刃を交えるために。
「勇輝!」
選手用入場ゲートの前まで来たとき、ふと後ろから声がかかる。
振り返るとそこには、暖かみのある茶髪の少女が立っていた。
「玲愛…………」
彼女は七草玲愛。彼の同級生であり、共に最強を目指す相棒だ。
「先輩たちは強いけど、頑張ってね」
ただそれを言うために、追いかけてきてくれたのだ。
「ああ、全力で食らい付く!」
彼女のエールに力強く返す。
勇輝は彼我の実力差を見極められないほど弱くはない。自分と先輩逹にどれ程の差があるか、それはたった一度の会話で十分にわかった。
それでも勇輝は挑む。この闘いで、何かを見つけられそうだと思ったから。
そして、その足を戦場へと踏み入れた。
「やぁ、待っていたよ」
そう声をかけたのは、二年の神藤凪月。
彼が戦う相手の一人だ。そしてもう一人は、
「じゃあ、アリスがレフェリーするよ♪」
とても小柄な金髪の先輩、緋文アリスだ。
「二人とも! 霊装出して♪」
レフェリーらしからぬ指示に従い、勇輝は霊装を顕現させる。
「燃え盛れ! 【業火の魔剣】!」
勇輝の言霊に応じ、炎を体現したかのような片手剣が現れる。
そして、凪月も自らの霊装を顕現させる。
「斬り払え。【天叢雲剣】」
彼女の手に、見事な黒塗りの鞘に納められた刀が顕現する。
「じゃあ二人とも開始位置についてっ」
二人は互いに約20メートル離れた位置に立つ。
そして――――
「戦闘~開始!」
「………………」
「………………」
戦闘は始まっていると言うのに、両者ともに動かない。
「…………賢いな。開始と同時に斬りかかって来るものだと思っていたが……」
凪月が先に口を開く。
「あんまりバカにしないでくださいよ。もし迂闊に近づいたりしたら、真っ二つにされるでしょ」
下手に攻めれば負ける。それがわからないほど勇輝は弱くない。
「そうか、ならば攻め手を変えよう」
言うが早いか、彼女は刀を抜き払った。
それは到底届くはずのない攻撃。二人の位置は変わっていないのだから。
しかし――――――
勇輝は咄嗟に剣を構える。
「――――――ッ!」
その手に、重みが伝わる。
「…………風属性魔法……ですか?」
そのあり得ない現象に勇輝は心当たりがあった。
「その通りだ。これは風属性魔法、【裂空刃】。刀身から真空の刃を飛ばすものだ」
風属性の遠距離魔法。その厄介なところは、風ゆえに見えづらく、速度も速いという点だ。
「さて、どうする?」
そう言って再び【裂空刃】を放つ。それも三連撃だ。
しかし、一つとして勇輝に届くことはなくった。
まるで見えているかのように攻撃をかわす勇輝。
「…………まさか……見えているのか?」
攻撃の手を止め尋ねる凪月。
「その手の攻撃は見慣れてます」
勇輝は知っている。音速の速さを誇り、不可視の攻撃を操る魔導士を。
「黒木にずっと練習付き合ってもらってましたから」
これに凪月は納得したというように頷く。
「……成る程。良い戦友を得たのだな」
すると彼女は刀を鞘へと戻し、前傾の姿勢をとる。
そして――――――
「ならば避けてみろ。【迅の太刀――餓狼】」
「――――――え?」
彼女の攻撃を警戒しようとして勇輝は気付く。
彼女の刀が既に抜き放たれていることに。
そして、自らの腹部から……鮮血が滴っていることに。
黒木……練習付き合ってあげてたんだね……