12話 【際限なき旋律】
「【幻影舞踏会】」
言葉と共に、世川が槍を地面へ突き立てる。すると、彼女にそっくりな六体の分身が出現した。
(これだけなら闇属性魔法と同じだ。固有魔法ならまだ何かあるはず……)
闇属性の分身は実体を持たない虚像だ。故に、こちらへ攻撃することは出来ない。
勇輝がそんなことを考えていると、彼女が六体の分身と共に突撃してきた。
「――――――ッ!」
分身の一体が繰り出した刺突、それが勇輝の頬を掠める。薄皮一枚を裂く程度の攻撃だった。が、確かに攻撃を当ててきた。
それは、分身がただの虚像では無いことを意味していた。
「あら、気づいたみたいね。あたしの分身はあんた逹を攻撃出来る。それに、分身は何度殺られても再生出来る。つまり、あんた逹は永遠に七人のあたしを相手しなくちゃいけないわけ」
それは、悪夢のような舞踏会の幕開けだった。
――――――それより少し前、黒木は作戦通り敵を誘き出す事に成功していた。
「いやぁ、会えて嬉しいよ…………で、君だれ?」
「うるせぇ!」
場を和ませようという黒木の好意を無視し、ナイフ型の霊装を持った青年が駆け出す。
「――――――速っ」
その素早い攻撃を前に、黒木は防戦一方を余儀なくされる。
(これじゃあいつも狙いにくいだろうなぁ……)
これだけ速く動かれれば、並の狙撃手では狙えない。
「――――――うっ」
瞬間、一発の銃弾が青年を貫いた。
「まっ、ウチのは並みじゃ無いからなぁ」
青年が起き上がらないのを確認して、黒木はその場を後にする。
「あっちも大変そうだしなぁ……」
その足は、勇輝逹の元へと向かっていた。
「――――――くっ!」
もう何度同じ攻防を繰り返しただろう。七人の攻撃を捌きながら繰り出す攻撃は、分身が復活することによって無意味と化す。
(そろそろキツいな……)
玲愛の【刻みし軌跡】も効かなかった。
本人に致命傷を与えない限り、何度でも分身は蘇る。
「…………どうする? ……勇輝」
玲愛にも疲れの色が見える。
「……ここは一旦退くか」
体勢を立て直すべく撤退しようとした。
その時――――
「勇輝!」
勇輝の死角から世川が刺突を繰り出す。いつの間にか回り込まれていたのだ。既に後ろに跳んでいた勇輝にはこれを防ぐことは出来ない。この一撃は勇輝を貫く。
ハズだった………………
「――――なっ!」
その驚愕は誰のものか。もしかすると全員のものだったのかもしれない。
その光景はそれほどに衝撃的だった。
世川の躰が、見えない何かに弾き飛ばされたのだ。
「お前が殺られたら意味無ぇだろ……」
声の方を見やると、一人の青年がこちらへと近づいてくるのが見えた。それは、
「……黒木!」
ヘッドホンを首に掛け、両の手をポケットに突っ込んだ黒木だった。
「これ以上仕事増やすなって言ったろ……」
「悪りぃな。……それより、お前がやったのか? あの攻撃」
それは、世川を襲った見えない攻撃のことだ。
「ああ」
「お前の固有魔法って、耳が良いだけじゃ無かったんだな」
「バカ、マジでそれだけだったら魔導師なんて目指さ無ぇだろ」
そもそも入学出来るかすら怪しい。
「だったら……黒木くんの固有魔法って?」
玲愛が尋ねる。
「俺の能力は……音を操る能力だ」
「「音を操る?」」
黒木は言う。音とは振動だと。振動が媒質を通り、我々の感覚器官に伝わることで音となる。
つまり、音を操るということは振動を操るということ。
「ジェット機が出す轟音とかあるだろ? あれも撃てる」
物体が音速を越える時に発生する衝撃波。それはガラスを容易く粉砕する威力を持ち、視認できず、音速の速さを誇る。
そこに音が関わる限り、黒木はそれを自由に操れるのだ。
それを可能にする彼の固有魔法。
その名は――――――
「【際限なき旋律】。それが俺の能力だ」
Aチーム 残り四名
Bチーム 残り一名|(世川)
Cチーム 残り二名
勇輝覚醒のチャンスを奪って行った黒木。