『再現する方向性の問題』
「監督……俺どうしたらいいかわかんねぇよ」
最終カットの撮影を目前にして、俳優のグッドマンは青白い顔をして監督に声をかけた。
監督はいぶかしげな顔をして、「簡単だろ。不時着した宇宙船の扉を開けて、外に出てくるだけなんだから」と肩をすくめる。
「いや、実はさ、宇宙から地上に降りてくるとき、ちょっと視力が落ちちゃうらしいんだよ」
「視力が?」
「……うん、ナショナルジオグラフィックの記事で読んだんだけどさ、視力1.0が視力0.2くらいになっちゃうらしいんだよ」
「……それで?」
「俺、視力3.5あるんだ。目が悪い人って、どんな表情したらいいかわかんねぇんだよ」
「いや、知らねーよ! さっさと撮影しようぜ」
監督はイライラしていた。
せっかくいい天気なのに、ちょっと雲が出てきたのだ。
早く撮らないと、今日中に終わらないかもしれない。
3.5の視力というのはそれはそれですごい話なのだが、そんなことより撮影である。
「でもなぁ……やっぱり俺、主役だから……表情は重要だなって」
「わかった。俺に任せろ」
悩むグッドマンの背中を、監督はポンポンと叩いた。
そしてその映画が放送されたとき、宇宙船の扉から出てきたグッドマンは映っておらず、そこには監督の姿が。
「えっ、俺に任せろってそういうことなの!?」
自宅でポップコーンを食べながらその映画を見ていたグッドマンは、思わずソファからずっこけたという。
――映画好きのジェミー(18才)
ニュース by ナショナルジオグラフィック『宇宙飛行士の視覚障害の謎解明か、障害は不可避?』