『核ごみはどこへ』
「先輩、この道であってるんですか?」
真夜中の山道。
グネグネとした道は既にアスファルトですらなくなり、地面に落ちた枯れ枝をバキバキと折りながら先に進んでいく。
先輩と呼ばれた男は闇に溶け込んでしまいそうなダークスーツに身を包み、口には棒のようなタバコをくわえている。
男はしばらく考えた後、「たぶん、俺たちは迷ったんだ」とつぶやいた。
「やっぱりそうですか……」
男の後輩と思われるもう一人の男。
彼は男というにはまだ幼い顔立ちをしており、科学者が着るような白衣を着ている。
仮に、彼らをダークスーツ先輩・白衣後輩と呼ぶことにしよう。
ダークスーツ先輩は車を止めろと命じると、手元のスマートフォンをのぞいてため息をついた。
「圏外だぜ、ここ。ったく、早く見つけなくちゃいけないっていうのによォ」
そんな先輩の様子を見て、白衣後輩はクスリと笑う。
「まあ、仕方ないですよ、存在自体が奇跡みたいなものですから、そんなにすぐには」
「……はぁ、まあそうだな」
二人は来た道を戻る。
彼らは知らないことだが、この間にも『核ごみ処分有望地 議論混迷』というニュースが巷には流れている。
それは表のニュース。
彼らに課せられたのはいわば裏のミッション。
「見つけなくちゃな。なんでも捨てられる、魔法の穴を」
ダークスーツ先輩がタバコをふかす。
「ええ」
運転しながら、白衣後輩は笑う。
「でも星新一の話じゃ、穴に捨てたものは空から降ってきちゃうんですけどね」
「それは作り話だろ? 俺たちが探しているのは、本当の《ゲート》。ブラックホールみたいなものさ」
彼らに課せられたミッション。
それは、異世界へつながるトンネル《ゲート》を探すこと。
まあ実際、そんなものはないからみんな困っているわけだけど。
――投稿:自称・国家公安捜査官ゲート担当 実際・大学5留中1年生 ダークスーツ先輩(26歳)
ニュース by Yahoo!ニュース『核ごみ処分有望地 議論混迷』