『イン・ザ・シチュー&味噌スープ』
「先輩、これ、マジうめーっすよ」
そこは大学の学生寮の一角。
白衣を着た後輩と、ダークスーツに身を包んだ先輩が暮らす部屋だ。
白衣を着た後輩は自前で作ったシチューをご飯にかけてパクパク食べている。
シチュー飯をパクつく白衣後輩の笑顔はこの数ヶ月で見たことがないほどまぶしい。
しかし、ダークスーツの先輩は苦い顔をした。
彼はご飯に味噌汁、そしてお新香という実に簡潔で完璧な日本の朝ご飯を食べている最中なのだ。
ご飯に味噌汁をかける、通称『ねこまんま』すら許せない彼の美学からいえば、シチューをご飯にかけるなど論外中の論外。
「お前とメシ屋に行ったら、喧嘩になりそうだぜ」
ずずずと味噌汁を一口飲んだ彼のスマートフォンに、一通のニュースが届く。
それは、松屋で新たに発売される『鶏と白菜のクリームシチュー定食』の紹介だった。
そこにはご飯、サラダとともに、味噌汁とシチューが並ぶという摩訶不思議な写真が掲載されている。
ダークスーツ先輩は眉を寄せた。
待てよ?
このセット、マジもんなのか?
あの松屋がセットにするくらいだから美味いんだろうが、これは一体どこからどうやって食べる代物なのか。
目の前の白衣後輩だったら間違いなく全部ご飯にかけるだろう。
何せ、ラーメンとご飯のセットを頼むとラーメンをご飯の上にぶちまけてから食べるような男だ。
「お前とは、しばらくメシ屋には行けねぇな」
「えー? 何でですか、今度松屋でもおごってくださいよ」
「絶対だめだ」
そんなメシへの冒涜、俺は絶対許さない。
それがたとえ美味かったとしても、俺の美学が許さないのだから。
――メシはメシ、単品で頂くのが至高だぜ ダークスーツ先輩(26歳)
ニュース by Yahoo!ニュース『シチューにみそ汁 議論勃発』