1話 終わり、そして始まり
初投稿です。至らぬ点もございますが、目を通していただければ幸いです。
2017年6月、梅雨特有の湿気にうんざりしながら小学校から帰る僕、音宮明希。雨は降っていなかったが、気分が晴れることはない。
「まーた暗い顔してる!もう、私と話してるんだからそんな顔しないでよね!」
同じクラスで最近友達になった美奈ちゃんが頬を膨らませながら睨んでくる。かわいい。
「だってさ、せっかく雨降ってないのに遊びに行けないなんだよ。目医者さんなんて行かなくても大丈夫なのに。」
「仕方ないよ。またいつ痛くなるかわかんないんだから。でもおかしいよね。お医者さんでもなんで痛くなるのかわからないなんて。」
そう、僕は生まれつき目がよくない。視力はもちろん、たまに目の前が真っ暗になってひどく痛むのだ。おかげで美奈ちゃんと遊ぶ機会が減ってしまった。余計落ち込んでいると、急に空が暗くなった。そして唐突の雨。梅雨だから不思議ではないのだが。
「もう!なんで急に降ってくるの!天気予報では晴れだったのに〜。」
また頬を膨らませる美奈ちゃん。うん。かわいい。
「傘持ってくればよかったな。え、あ、あれ?」
「どうしたの、明希くん?」
こちらを向く美奈ちゃん。顔の濡れた場所が変に黒ずんでいる。何故だかとても不気味に見えた。
「この雨、なんか変だ!」
「え、変って。ぷ、あはは!明希くん変な顔〜!!」
慌てて顔を手で弄る。すると手に黒いものが付着した。なんだこれは。軽いパニックだった。美奈ちゃんは無邪気に笑っているが、僕はそう楽観的にはなれなかった。こんなもの見たことも聞いたこともない。
「黒い雨って初めてだね!すごい!」
「う、うん。そうだね。」
思ってもいないことを口にする。安心するために大丈夫だと思い込むこもうとした。だが、不安が的中してしまった。
「ぎ、ぎゃあああ。ぐ、ぐがあぎ、があああ。」
突然恐ろしく大声をあげる美奈ちゃん。なんだ、何が起こっている?
「だ、大丈夫?美奈ちゃん!返事して美奈ちゃん!」
返ってくるのは呻き声だけ。怖い。助けを呼ぼうと周りを見てみると、
「う、うぅ、痛い」
「た、助けて、があぁ、くっ」
「………」
呻いて倒れているひとや叫んでいるひと、うずくまったまま動かないひとばかり。なんだよ、なんなんだよこれは。
気付いたら走っていた。美奈ちゃんは倒れて動かなくなっていた。助けを求めるために必死で走った。
気付いたら家にいた。助けを求めることは出来なかった。誰もが皆助けを求めていた。助けることのできるひとなどいなかった。
僕はソファにうずくまっていた。両親はもう深夜だというのに、未だ帰って来ない。つけっぱなしテレビには総理大臣による緊急会見が行われていた。言葉がなにやら難しくてよくわからないが、異常事態だということだけはわかる。
美奈ちゃんはどうなっただろう。まだあそこで倒れているだろうか。いや、さすがに病院に運ばれたかな。助けも呼べず逃げだしたも同然だ。僕は最低だ。
ズキンッ
「ぐっ。」
眼に鋭い痛み。またか。
ドクンッ
「があぁぁあぁ。」
痛い痛い痛い痛い。いつもの比ではない痛み。
ドクンッドクンッドクン
いつまでたってもおさまらない痛み。止まることのない涙。夜通しこの地獄は続いた。
外が明るくなりだした頃、ようやく痛みが引いてきた。顔を抑えた手を離す。その手が黒く染まっていたことに気付くことはなく僕は意識を手放した。