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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
98/277

意味深

部屋へ案内されると、レイはぴしゃりと言った。


「この三日間、俺がいない間は絶対に部屋から出るな」

「う…やっぱり?」

「オルフェ様はこれから続々と集まる使者の相手をしなければならない。俺はオルフェ様がそれに集中できるようそばにいる」


つまり、私のお守りをしている暇はないということだ。


「食事も晩餐以外は部屋へ運ばせろ」

「はい」

「ミリ」

「はい?」

「絶対に問題は起こすなよ?」

「は、はい…」


レイはいつもより割り増しで厳しく言うとさっさと部屋を出て行った。

ネイカは窓の外を残念そうに眺めた。


「せっかく飛行船に乗ってみるチャンスだったのにね」


私はソファに腰掛けるとのびをした。


「まぁ、私は別に乗らなくてもいいけど。それにしても三日もあるなら本でも欲しいな」

「ミリは呑気ね。すぐそばにフリンナ姫達の部屋があるっていうのに」

「レイの言う通り部屋から出なければ大丈夫大丈夫」


私とネイカは荷物の整理を終わらせると、いつも通り魔力コントロールの練習をしたり新しい帽子のデザインを一緒に考えたりしながらのんびりした時間を過ごした。




ーーーーーーーーー




私たちを部屋に送り届けたレイはすぐにオルフェ王子の元へ戻った。

王子はまだ謁見の間でミントリオ王と何やら話をしている。

音も立てずに付くと柱の影に身を隠した。

息を潜めているとミントリオ王の気さくで大きな声がよく聞こえた。


「いやしかし南の王子がここまで色男だとは驚いた。あんなに美女揃いの姫君を連れて旅を楽しむなんて羨ましい限りだな」

「ありがとうございます」


王子が涼しい顔で答えるとミントリオ王は豪快に笑った。


「いやいや、堂々としててよろしい。連絡を受けた時は何事かと思ったが、まぁミントリオでも楽しんでくれ」

「その事なのですが…」


王子はふと真面目な顔になった。


「随分不躾な頼みをしたという自覚はあります。ミントリオを騒がせるだけでなく飛行船の都合もつけてもらったのですから」

「構わないさ。いい宣伝にもなる」


ミントリオ王は軽く躱したが王子ははっきりと切り出した。


「本来なら有り余るほどの礼をするべきなのですが、見ての通り長期間の旅の途中です。何かお求めでしたら私が出来る範囲で善処しますので今この場でお聞きしたい」


ミントリオ王はあまりにも率直な王子に目を丸くした。

確かにスアリザと全く縁のないミントリオが無条件でこの突然の申し出を受け入れることはやや不自然だ。

当然何らかの見返りを考慮に入れていると思うはずだ。

本来ならこんな話はじっくりと機を読み相手の機嫌を伺いながら然るべき時にするものだが、ここまで最速で端的に言われたのは初めてだ。

しかも礼の要求は全て国にというのはよく耳にするが、目の前の王子は対価の対象をあっさりと自分一人に限定してきた。


ミントリオ王はオルフェ王子をまじまじと見直すとにやりと笑った。


「どうやら君は王族という肩書きに囚われないかなりの合理主義者のようだね」

「気に障りましたか」

「いや、実に好ましい。その気質はミントリオに最適だ。危うくその麗しい見目に騙され本質を見失うところだったよ」

「ありがとうございます」


しゃあしゃあと礼を言う王子にミントリオ王は堪らず笑い出した。


「はははっ!!気に入ったぞオルフェ王子!!なに、申し出を受け入れたのは個人的な都合もあってな。君に無茶な見返りなど要求せんから安心してくれ」

「個人的な都合、ですか」

「そうだ」


ミントリオ王は笑いを収めると鋭い目になった。


「オルフェ殿は、中々面白い側室をお持ちですな」

「姫君たちが、何か?」

「いや。だがせいぜい足元をすくわれんようにな。敵は外より案外内側にいるものだ」

「…」


オルフェ王子が何か言う前にミントリオ王は物騒な気配をからりと消して笑顔に戻った。


「身支度が済めばエントランスに出なさい。飛行船へ案内させよう。ではまた後で」


王は機嫌よく謁見の間を出て行った。

オルフェ王子が一人になったのを見計らい、レイは柱の陰から出た。

王子は馴染んだレイの気配を感じるとそちらを見もせずに低い声で言った。


「今のをどう思う」


レイは静かに首を振った。


「分かりません」


王子は窓の外を見ながら考え込んだ。


「…レイ、やはりミリについててやれ」

「それは出来ません」


レイはきっぱりと断った。


「今貴方から目を離す気は無い」

「…」

「俺の最優先は、貴方の約束です」

「俺は…お前を縛り付けるつもりはない」

「俺は俺のしたいようにしています。口を出すなんて貴方らしくない」

「…」

「失礼します」


王子は背を向けるレイを黙ったまま見送った。

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