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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
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空の国ミントリオ

空の国ミントリオ。

夜中に国に入った時は何故そう呼ばれるのか分からなかったが、朝になり外に出るとその理由は一目瞭然だった。


「うわぁ!!飛行船!!」


昨夜の雨から一変、青空の中には色取り取りの飛行船が沢山浮いていた。


「へぇ、凄い!!綺麗!!」


私は初めて見る飛行船に興奮していた。

レイは私とネイカを先導して歩きながら説明をしてくれた。


「ミントリオより東に行くには地形的に難所が多い。そこでアマウス二世は空に目をつけ国をあげて開発を進めたらしい」

「空に…」

「独自開発を経て作られたあれは昔の飛行船とは比べ物にならないくらい乗り場が広く速度も速い。今ミントリオほど安定して東へ行く手段はないと言われるほどだ」

「あ…だから王子は行き先をミントリオに?」

「その通りだ」


なるほど。

それなら姫たちの迎えも東側からそう難なくこっちに来られるということか。

ニヴタンディにいる時点で姫たちの国に伝書を送ったとなると、今から三日後にあるという祭りの日までに猶予も充分ある。


なんて不備のない流れ。

無駄のない手配。

ニヴタンディで王子がそんなに動いていたなんて全く知らなかった。


「オルフェ王子ってやっぱり計算高い」

「頭が回ると言え。その忙しい中でもお前の我儘に付き合ってアリス姫とクロアの仲を取り持ってくれたオルフェ様に感謝しろ」

「うっ…」


確かに。

私は自分のことしか考えていなかったことを素直に反省した。

青く光る石の小道を歩きながらネイカが辺りを見回した。


「ねぇ、これから私たちはどうすればいいの?」


レイはちらりとネイカを見ると道の先を指差した。


「今からミントリオ王の元に集まり、世話になる挨拶をしに行く。その後は祭りまで比較的自由になるはずだ」

「夜は今日泊まった場所に帰ればいいの?」


昨夜ミントリオに入った私たちは都心より離れた泉のそばの観光地に泊まった。

王子は別で先に城に出向き、騎士団はもっと離れの安い所で一泊したようだ。

レイは馬車を手配し終えると私の問いに答えた。


「今はまだ未定だ。おそらくミントリオ王が何らかの手配をしてくれてるだろうさ」

「そっか」


私たちはやってきた馬車に乗り込んだ。

城が近づくと窓の外からは飛行船が一際大きく見える。


「うわぁ凄い。あれ全部東へ行くのかな?」

「今では発着場が整った場所なら東以外にも飛んでいるはずだ」

「あれなんて素敵。そっか…あんなにカラフルにしても案外可愛いんだ。斬新!」


ネイカは何故私がそんなに飛行船に関心を持ったか気付いた。


「ミリ…。また帽子作りのこと考えてるでしょ」

「えっ」


ずばりと言われて私は照れ隠しに笑った。


「あはは。まぁ、ね」

「帽子作りってそんなに楽しいの?」


私は意気込んで頷いた。


「楽しいよ。帽子ってそれ一つですごくその人の印象変えちゃうし、帽子のセンスでお洒落度もぐっと上がるんだから!!」

「自分はお洒落なんてしないくせに?」

「え…」


私は急にしおしおと小さくなった。


「まぁ…あれよ。どう頑張っても私にはそんな華やかな物やっぱり似合わなかったから…。似合う人を妄想して作る方に生きがいを感じたっていうか」


ネイカは肩をすくめた。


「全く…人にはあれこれと勝手に帽子押し付けたくせに」

「いや、ネイカは普通に可愛かったし…」

「私はミリの本当の姿なんて知らないけど、ミリにだって絶対似合う素敵な帽子はあったと思うわよ」


私は目を丸くした。


「…そう?」

「うん」

「…そっかな」

「うん。気付いてないだけよ」

「…」


窓に映るのは何でも似合うイザベラ姫。

今ではすっかり違和感もなくなったこの姿。


もし、王子の言う通りこのまま元の姿に戻れなかったらどうするんだろう。

…それに、私は今本当に戻りたいと思ってる?

私は何故か身震いした。


や、やめやめ!!

どうなるかなんてまだ全然分かんないんだから!!

今考えても仕方ないし!!


私は考えること自体を放棄した。

辿り着いたお城は、ニヴタンディのように迫力のままに聳え立つ外観とはまた違った。

雰囲気で言えばスアリザに似ている。


ただ、中は流石に一味違った。

どの天井を見ても描かれているのは空と天使、それから沢山の飛行船だ。

子供部屋のそれとは違い、美しく優美に描かれた空は見惚れるほどの透明感だ。


私たちが通されたのは正式な謁見の間だった。

白い大理石と上品な水色で統一されたインテリアがこれまた爽やかで素晴らしい。

私はウキウキとそれらを観察していたが、すでに集まった姫たちを見た瞬間そんなことは全て吹き飛んだ。


「あら、イザベラ姫。おはようございます」

「相変わらず黒いドレスですのね」

「本当。こんなお部屋の中では一際目立ちますわね」


上品な笑い声が重なり合う。

私は反射的にレイの後ろに下がった。

前回を踏まえ、出来るだけ出口に近い場所に移動したい所だったが、その前にオルフェ王子が部屋に入って来た。


姫たちは一斉にこうべを垂れた。

反応が鈍い私には横からレイの肘鉄が入った。

王子が一番前に立つと、それに合わせたかのようにミントリオ王が現れた。


「やぁ、待たせたかな。遠路遥々このミントリオまでよくいらした、スアリザの王子と姫君たちよ。私はこのミントリオの王エスブルだ」


低く豊かな声が軽快に響く。

エスブル王の許しで顔を上げると、声に似つかわしい若々しい顔が笑顔を見せていた。

王にしては珍しく三十代といったところか。

エスブル王はオルフェ王子にも実に気さくに話しかけた。


「こんな田舎の国をわざわざ活用してくれるなんて光栄だね。よかったらこの後是非一度は飛行船に乗ってくれ。遊覧船もある」

「エスブル王。今回は突然の申し出にも関わらず快く受け入れて頂き感謝してます」

「そんな堅苦しくならないでくれよ。この町の人たちはとにかく楽しいことが大好きで、三日後の歓迎の祭りも喜んで準備している」


オルフェ王子は微笑を浮かべた。


「噂通りの磊落豪遊な方だ」

「おや、素敵な褒め言葉だ。今夜は是非オルフェ王子と飲み明かしたいな」

「謹んでお受けしますよ」

「よし」


エスブル王は機嫌よく笑った。


「姫君たちよ。今宵は城で晩餐会を開く。姫たちの部屋は城内に用意させているので思い思いに寛いでくれ」


エスブル王はざっと姫たちを見回して最後に私に目を止めた。

その目は一瞬驚いたように見開いたがすぐに視線はそらされた。


ん?

何だろう。

黒いドレスが異様だったからか?

気にはなったが王は何事もなくまたオルフェ王子に話しかけていた。


「ミリ…」


ネイカがそっと私に囁いた。

見れば姫たちが冷たい目でちらちらこっちを見ている。

そういえばさっき城に泊まれとか言ったよな。

ってことは私もフリンナ姫たちとすぐそばの部屋になるのか。


…。

…これはダメだ。

恐らく部屋に引きこもるしかないやつだ。

私はどうか絡んできませんようにと無駄な願いを一人していた。

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