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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
黒姫
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サクラ誕生

ぱり、ぱりと腕の中で奇妙な音がする。

私は眠りの中で体がほんわりとあったかくなるのを感じていた。

体から勝手に溢れる魔力が両腕に集中する。


あー、まずいな。

これ目が覚めたら布団が焦げてるパターンか。

あの時は母さんも火事になるって焦ってたよな。


眠い目をなんとか開きながら腕を動かす。

その中で、きゅうきゅうと奇妙な鳴き声がした。


…鳴き声。


一瞬で覚醒した私はがばりと飛び起きた。

今の今まで寝ていた場所に、割れた卵の殻とまさに生まれたての白い物体がいた。


「ぎ…ぎゃあああぁぁぁ!!!生まれた生まれた何か生まれたああぁぁぁ!!!」


腕にはまだぬるぬるとしたなんかの液体がべったりついている。

腰が抜けた私は這いつくばりながらベッドから離れた。


「お、おう、王子ぃ!!」


泣きそうになりながらこんなことをした犯人の名を叫ぶ。

ガクガク震えながら白い扉を目指したが、体についた液体が放つ異臭の方がきつくなってきた。


「し、シャワー…」


方向を変え、ベッドに掴まりながらなんとか立ち上がる。

ベッドの上にはさっき見た白く奇妙な生き物がまだ鳴いている。

だがその声は徐々に弱まってきた気がした。


「あ…」


そういえば王子はこの子は生まれた直後に死ぬとか言ってなかった?

さっきまではあんなに元気に鳴いていたのに。


「ちょっと…こんなの、どうすれば…」


恐る恐る手を伸ばすと、私の指先からふわりと魔力がこぼれ落ちた。

それは白い生き物を包むとすっと消える。


「そ、そっか。魔力で守れるんだ…」


私は迷いに迷ったが、意を決するとその生き物を抱きかかえた。

そのままバスルームまで一緒に連れて行き、その子と私の腕についた白い粘液を洗い流す。


「し、死んじゃだめだよ。あなたは、青空へ、か、帰るんでしょう!?」


丁寧に、丁寧に洗い流していると、その子の本当の姿が現れてきた。


鱗のような皮膚は淡いピンク色。

黄色い瞳の中には縦に伸びた茶色い瞳孔。

ぴちぴちと動くのはちっちゃな翼。


なんだろう。

意外と可愛いかも。


その子が冷えないようにバスタオルで包み濡れない場所に置く。


「ちょっとまっててね…」


自分の体も洗い流すと、私はバスローブを着込みすぐにその子を抱え直した。


私の体が勝手に反応してチビドラゴンに魔力を注ぎ込む。

餌を与えたわけではないのに、その子はやがてすやすやと満足そうな顔で眠り始めた。


「は、はぅっ…。めっさ可愛い…」


何これ何これ。

こんな可愛いのドラゴン。


一人はぁはぁと見入っていると、外から激しくノックされた。


「イザベラ様!!イザベラ様どうかいたしましたか!?何やら大きな叫び声がしたようですが!?」

「あ、その、大丈夫です。ちょっと変な夢を見たみたいで…」


相変わらず不審な姫だろうな、私。

まぁいいや。


心配して駆けつけた者を追い返すと、私はまたこのドラゴンちゃんを見つめた。


「名前、つけちゃってもいいのかな」


とりあえず仮でもいいからつけちゃおう。


「何にしようかなぁ。ドラちゃんとかしか浮かばないなぁ」


今時ペットでももっと小洒落た名前が付けられてるだろうが、私の頭ではこの辺が限界だった。


「ピンク色だしなぁ。ピンクっていうか桜色か。うん、じゃあサクラちゃんね」


ドラゴンに付けるには何とも迫力のない名前だが、どうせすぐに手放すんだからいいや。


「サクラぁ、サクちゃん」


指でつつくと頭をすり寄せてくる。

あうぅ、可愛い。


さて、サクラはいいとして。

まだ謎の液体で汚れているベッドは何とかせねばなるまい。

とりあえず卵の殻は集めて袋に封印する。

あとはシーツか。

これはアイシャさんに頼む以外しようがない。

せっせとシーツを剥がしていると、今度は静かに扉をノックされた。


「イザベラ様」

「あ、アイシャさん」


私は慌ててサクラをバスタオルごと風呂場に隠した。

何故隠したのかは分からないがなんとなく隠した。


「おはようございます。今朝は夢見が悪かったとお聞きしましたが、大丈夫でございますか」

「は、はい。お騒がせ致しました…。あの、それよりアイシャさん」


剥ぎ取ったシーツをおずおずと差し出す。


「その、昨夜汚してしまったようでして、すみませんが新しいのにして頂けますか…」


アイシャさんは驚きに目を見張ったが、すぐに年長者の顔になると感慨深げに頷いた。


「まぁまぁ、イザベラ様。おめでとうございます」

「は…?」

「わざわざイザベラ様がこんなことなさらなくてもベッドのシーツは毎日こちらが取り替えますよ」

「は、はぁ…」

「オルフェ王子はさぞお優しくしてくださいましたでしょう」


涙ぐましく言うアイシャさんに、私は目が点になった。


「あ、あのっ…」

「お体は大丈夫ですか?」


ち、ちが…違あぁううぅぅ!!!

私は何を言われているのかに気付くと真っ赤になった。


「アイシャさん!!こ、これは違うんです!!」

「まぁ恥ずかしがる必要はございませんよイザベラ様。今宵からまた忙しくなりますね」


だめだ。

すっかり結ばれた後だと勘違いされている。

あわあわと言う私を残して、アイシャさんは終始微笑みながらシーツを取り替えさせた。


一人になると私は変に疲れてがっくりとテーブルに体を預けた。

最近ハードな朝が多いな…。

それにしてもこんなに騒いでも王子は顔を出しもしない。

どうせあの後別の側室様の所でよろしくやってるんだろうな。

変な誤解だけされて私だけ損してる気がするよまったく。


運ばれてきた朝食を先に済ませ、私は棚の上に置いたままのナイフを手に取った。


「…さて」


サクラのいるバスルームに入ると着ていたローブを脱ぐ。


イザベラ姫はしばしの間封印させて頂こう。

この部屋を出るたびに晒される人々の奇異な視線はもうこりごりた。


ナイフをしっかり握りしめると、私は鏡の前で長い黒髪をバッサリと切り捨てた。

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