表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
74/277

侍女のネイカ

翌日。

私が支度をしていると侍女姿のレイがネイカを部屋に連れてきた。


「あ、ちょうど良かった。後ろのレース留めて欲しいんだけど」


背中に手を伸ばして四苦八苦していた私にレイはすたすたと近付いてきた。


「一人でドレスを着るなと言っただろ。破る気か?」

「だってぇ…」

「ネイカ、こっちへ」


レイに言われてネイカは渋々私のドレスに手を伸ばした。

が、レイはすかさずネイカの手をはたいた。


「まずは主人に向かって挨拶が先だ」

「なによ。だって相手はミリじゃない」

「こいつは練習台だが、ちゃんと姫が相手だと思いながらやれ」

「…分かったわよ」


私は二人のやりとりに目を丸くした。


「もしかしてネイカ、これが誰か知ってる?」


ネイカは顔を赤くしながら震える拳を握った。


「…レイでしょ。さっき聞いた。信じられない。信じられないっ!!こんな趣味があったなんて!!」

「趣味じゃない。手段だ」


レイはきっぱりと言ったが、ネイカは怒りながらも泣きそうだった。


「男のくせに…男のくせに!!何が手段よ!?じゃあやって見せなさいよ!!その私に教育するとかいう完璧な侍女ってやつを!!」


あらら。

ネイカってばそんなにレイの女装がショックだったのかな。

私は嫌いじゃないけどな。

レイは面倒そうにしたが、一つ呼吸を整えると背筋を伸ばした。


「イザベラ姫様」


私に向き直ると行儀よく頭を下げる。


「おはようございます。今朝のご気分は如何でしょうか」

「へ!?あ、はぁ、まぁまぁいいです」


突然豹変したレイに反応出来ずに私の方がおどおどする。

レイは顔を上げると微笑みを浮かべた。


「支度を手伝います。どうぞこちらへ」


私を温かい暖炉の側へ誘導すると、レイはてきぱきとドレスを着せてくれた。

隅々までほつれがないかチェックしながらも今日の予定を伝え、それが終わると私の髪を綺麗に結った。


ネイカはあまりにもいつものレイと違う侍女姿に呆然としている。

レイは私を立たせるとがらりと顔を変えた。


「…と、まぁこんな感じだ。こいつと二人の時はここまでしなくてもいいが、他人の前ではこれくらい猫をかぶれるようにしておけ」


ネイカは我にかえると私を振り返った。


「あんた、よく気がおかしくならないわね。ここまで別人に成りすますなんて…。こんなの猫かぶりのレベルじゃないわよ」

「え、でもどんな姿でもレイはレイだし…」

「相変わらず能天気ね」


ネイカはぶつくさ言いながらレイを振り返った。


「男のくせに、女より女らしいなんて納得がいかないわ」

「知るか。それよりどうする?このまま俺に指導されるのが嫌なら、さっさと尻尾を巻いて逃げてもいいぞ」

「なっ…」


レイの挑発にネイカは更に真っ赤になった。


「やるわよ!!誰が逃げるもんですか!!いい!?そのうち絶対レイより女らしくて役に立つ完璧な侍女になってみせるんだからね!!」


レイは意気込むネイカにふっと笑った。


やっちまったねネイカさん。

上手く乗せられちゃったけどレイの特訓は死ぬほど厳しいからな。

頑張りたまえ。

私は兄弟子な気分で見守ることにした。


朝食は昨日と同じホールでとることになった。

王の姿はなく適度にわいわいしていたのでここではあまり気を張ることはなさそうだ。

ネイカは早速レイにあれこれと指導を受けながら私の世話に取り掛かった。

かなり不満そうな顔はしていたが、文句を言いながらもせっせと動いている。

私がそれなりにお腹を満たしていると、ふと顔をあげたレイが小声で言った。


「王子だ。…ミリ、行くぞ」

「え?あ、はい」


ネイカはレイに目配せされると黙って私の椅子を引いた。

私はそれに合わせて立ち上がるとドレスの裾を整えてからレイに続いた。

オルフェ王子はアリス姫と一緒に席に着いたところだった。

側室の姫たちやニヴタンディの貴族たちがこぞって席を立ち挨拶に伺う。

私はそれが一旦落ち着いてから王子の元へ行った。


「…おはようございます」


とりあえず朝の挨拶をしてみたがそれからどうすればいいんだろう。

王子は挙動不審な私に優雅に微笑んだ。


「よく眠れたか」

「はい。お陰様で…」

「晩餐に参加できなかったのは残念だったな」

「あ…」


私はすぐにアリス姫に頭を下げた。


「昨日は、その、折角の晩餐に参加せずにすみませんでした」


アリス姫は冷たい顔のまま私を見上げただけで返事すらしてくれなかった。

気まずい思いでいると、王子が苦笑しながら間を取り持った。


「アリス姫。この後はイザベラ姫と共にレミレス家に行くのだ。少しだけ気を許してやってくれないか」


なに!?

アリス姫と二人で行くの!?

いや、厳密には二人じゃないんだろうけど…。

私が固まっているとアリス姫は僅かに頷いた。

レイは長居する前に私に声をかけ、王子のそばを離れた。


「…はぁ、緊張した」


私は席に戻ると水で喉を潤した。

ネイカがさっさと私が空にしたグラスに水を注ぐ。

だがレイから即指導がとんだ。


「タイミングが早い」

「うるさいなぁ」

「それから、動きが雑だ。水をこぼすな」

「…なによえらそうに」


ぶつぶつと文句を言いながらもこぼれた水を拭き取る。

私は生温かい目で見守っていたが、ネイカはそれに気付くとツンと顔をそらした。


「大体ミリ相手だと緊張感がないのよね。さっきのアリス姫なら私だってもっと慎重にするわよ」


…失礼な。

だが反論はできん。

レイは冷たい目でネイカを見た。


「相手を選んでいるようじゃ三流止まりだな」

「なっ…」

「俺は中途半端な奴に何も教える気は無い。ミリはこんなんでも死ぬ気で俺に食らいついてきたぞ」

「…」


こんなんね。

褒められたのやら貶されたのやら。

ネイカは不貞腐れながら私を恨めしげに見た。


「…ミリも侍女の特訓なんてしたの?」

「え?あぁ、私は姫らしく見える鬼特訓と、短剣の使い方を教えてもらうための鬼訓練と、馬の乗り方を死にかけながら教えてもらったくらいかな」

「…」


どれを思い返しても厳しい道のりだったな。

それでも短剣は躱すだけしか使えないし馬は相乗りできる程度だけど。

ネイカは俯いていたが意を決するとレイを振り返った。


「分かったわ。レイ、ミリと同じくらい私にも指導して」

「ネイカ…」

「ミリに負けるのは悔しいじゃない」


何という負けん気。

捻くれてるけど、この気の強さはもしかしてネイカにとってプラスにも働くんじゃないかな。

レイも同じことを思ったのか笑みを浮かべた。


「いいんだな?」


反射的にごめんなさいと言いそうになった私とは対照的に、ネイカははっきりと頷いた。

それからネイカの文句はぐっと減った。

悔しそうな顔は見せるが黙々とレイに従っている。


そうこうしているうちに朝食は終わり、私は一度部屋に戻った。

くつろぐ間も無く身支度を整えると城の外へ出る。

そこには側室の姫たちも何人かいた。

おそらく私と同じで世話になる屋敷に今から移るのだろう。


「あ、アリス姫」


私はちらりとレイを見た。

レイは無言で頷き返す。

私は出来るだけしおらしく歩きアリス姫に近付いた。


「あの、アリス姫…」


アリス姫は振り返ると目を細めた。


「何か」


うほっ。

声が冷たいの何の。


「この後はご一緒させて頂いてよろしいのでしょうか」

「わたくしはそのつもりで待っておりましたが」


ひぇっ。

待たせてたのか。


「それは失礼いたしました…」

「参りましょう」

「は、は、は、…はい」


アリス姫はあわあわする私を無視して歩き始めた。

その後に四人のすました侍女が続く。

私はすっかり恐縮してしまったが、その横でネイカが感心していた。


「すごい。アリス姫ってかっこいい」

「へ?」

「昨日から思ってたけど、あの人素敵だわ」


かっこいい…?

まぁ、確かに誰に対しても超絶クールだしな。

姫たちも敬遠していたアリス姫を、ネイカは憧れの人でも見るみたいに熱心に見つめている。

私はその様子に何だか気が抜けた。


そうか。

かっこいいとも思えば冷たくされてもそんなに恐くないのかも。

それに私はあの優しいアリス姫の顔も知ってるんだし。

私は気を取り直すとアリス姫に遅れないようについて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ