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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
旅へ
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ベッツィの疑惑

北寄りに旅をしているせいか、まだ暖かい季節なのに朝が寒い。

私は無意識に熱を感じる方に体をすり寄せた。


「しがみつくな。俺はオルフェ様じゃないぞ」


すぐ間近で声がしたので目を開くと、私はレイの腕の中にいた。


…。

…。

…何事か。

レイは迷惑そうに私を引き剥がした。


「あ、あれ?レイ??」

「静かに。起きたのなら先にその長い髪を切り落としてこい」


体を起こすとがーがーと眠るビオルダさんとベッツィが見えた。

とりあえずこの姿を見られるのはまずい。

色々な疑問は後にして、私は自分の荷物のところまで忍び足で向かいナイフを取り出した。

手慣れてきたので鏡も見ずに髪を切り落とす。

一つ心配事をクリアして振り返るとレイはまたベッドに横になっていた。


「レイ、眠いの…?」


いつもなら必ず私より先に起きてちゃきちゃきしているのに珍しい。

レイは目を閉じながらも不機嫌な顔をした。


「…お前、ベッツィに昨日女だとばれたのか」

「うへっ!?あ、う、うん、そうかも…」


少しだけ目を開くとレイは軽く睨んできた。


「あの酔っ払い、お前が女かどうかもう一度確かめるときかなかったんだぞ。呑気に先に寝やがって」

「え!?そ、それでどうなったの!?」

「仕方ないから打ち落とした。それでも起きるたびにふらふらとお前を探そうとするから…」


レイはやっぱり不機嫌そうに目を閉じ掛け布団を引き寄せた。


「お陰で俺は殆ど寝てないんだ。少しぐらい寝かせろ」

「う、うん…」


なるほど。

それで起きたらレイに守られるように抱きかかえられていたわけか。

それにしてもまずいな。

ベッツィが起きたら何て言えばいいんだろう…。


「とりあえず今のうちに着替えておかないと。念のためにきつく晒しも巻いておくか…」


トイレにひとしきりの荷物を抱えて数分こもる。

狭くて着替えにくいがここだけ唯一鍵がかかるから安心して着替えられる。

着替えが終われば洗面台に戻って化粧タイムだ。

出来るだけ眉は増殖して目尻は上げ気味にしておかないと。


「…ちょっといつもより眉毛太くなったけどまぁいいか」


大事なのは女っぽくないことだし。

あ、そういえば今日は鬼特訓はなしなのかな。

そっと部屋を覗いて見たが、レイは静かに寝息を立てている。

そばまで寄ってみてもしばらく起きる気配はなさそうだ。


おや。

レイの寝顔ってば思ってもみないほど可愛い。

こうして見ていると普段の鬼っぷりが嘘みたいだな。

私の為に寝不足になってるんだから、ここはやっぱり起こさないようそっとしておこう。

私は自分のベッドに座りおとなしく膝を抱えていたが、こんもり立ち込めた男臭く酒臭い小さな部屋にいるのが段々辛くなってきた。


「窓開けたら皆を起こしちゃいそうだしな…」


掛け布団に顔を埋めてしばらくしのいでいたが、こんなことが長くもつはずもない。

限界がきた私は仕方なく一人静かに部屋を出た。

外に出れば今までにない程その空気を爽やかに感じた。


「っはーぁ!!これでやっと肺の底まで空気を吸い込める!!」


大きく伸びをするもじっとしていては体が冷えてきそうだ。

人もいないことだし、私は町外れに戻りサクラを迎えに行くことにした。

早朝だというのに、どこの店もすでに下準備に取り掛かっているようでいい香りが漂っていた。


「何だろう。チョコレートの匂いがする。お菓子作りが盛んな町なのかな」


お菓子って色も形も可愛いし、もしかして帽子の飾り付けのヒントになるかもしれない。

なんで今まで気付かなかったんだ。

あ、そうだ。

異国のデザインとか取り入れたら斬新な物も出来るだろうな。

一人あれこれ妄想しながら町の外れに向けて歩く。

建物もない広場まで着いたところで、私は足を止めた。


「どうか無事に生きていますように…」


手を組み祈ってから、指をぱくりと咥える。

私は空に向けて思い切り指笛を鳴らした。


間をあけて、二回、…三回。

しばらく待ってみたが、サクラの現れる気配はない。


「うそ…。サクラ…」


まさか魔物に食べられちゃったの!?

私はもう一度指笛を鳴らそうとしたが、その時左手の薬指の赤色がまだら模様に広がっていることに気付いた。


「なに…?やっぱりただの腫れとかじゃないの!?」


閉じたり開いたりしても特に痛まないし、別に熱を持ったりもしていない。

私はもう一度ガーゼを取り出すと指に巻き直した。

とにかく、この町はもう朝から出発するはずだし次の町か国にでも着いたら清めとかいうのをしてもらおう。

不安な思いで左手を見つめていたが、ふと明るく照らし始めた日の光が陰った。

顔を上げると太陽の中から小さな影が舞い降りてきた。


「あ、サクラ!!」


サクラはくるりと旋回すると私の腕の中に入ってきた。


「サクちゃん!!よかった無事だったんだね!!」


木の葉や泥をくっつけてはいるが、サクラはいたって元気そうだった。


「あーあぁ。こんなに汚しちゃって。あんたまで男臭くなるのは嫌だよ?」


丁寧に汚れを取ってやると、サクラは嬉しそうに翼を広げた。

それと同時に私の体からがくんと力が抜けた。


「あ…、お腹、空いてたんだねサクラ。今一気に魔力持っていったなぁ。サクラの体も大きくなってきたし私もしっかり食べなきゃ…」


へろへろとしている私とは対照的に、サクラは生き生きと空を飛び回っていた。

体が落ち着いてから宿に戻る頃には、道にはそれなりに人通りが増えていた。

私は出来るだけ小さくなりながらこそこそと道の端を歩いた。

宿に近付くとビオルダさんがうろうろと何かを探しているのが見えた。


「ビオルダさん、おはようございます」

「あ!!いた!!お前どこにいたんだ!?」

「早く起きてしまったのでサクラを迎えに…」


きょとんとしていると後ろからがっつりと鉄拳制裁が炸裂した。


「いったぁ!!」


涙目で振り返るとレイが鬼の形相で襟首をつかんできた。


「お前は!!少しは自分の立場を考えろ!!」

「え!?は??」


レイは私を離すとぷいと先に宿に入ってしまった。

目を白黒させていると駆け寄ってきたベッツィもぺしりと私の肩を叩いた。


「はぁ、無事でよかったぞフィズ」

「…無事??」


ベッツィは軽く乱れた呼吸を整えると苦笑いした。


「俺はてっきりリヤ・カリド様に連れ出されたのかと思ったぞ。それかヒューロッド卿の取り巻きに連れ出されたか団長に呼ばれたか…」


ベッツィの言うことを聞きながら私はやっと何故三人が自分を探していたのか理解した。


「ご、ごめんなさい。軽率だった…」

「まったく、レイの苦労もよく分かるぜ。あいつ血相変えてずっと探し回ってたからな」

「レイが…?」


ビオルダさんは豪快に笑った。


「まぁ何にせよ無事でよかった!!早く飯にしようぜ。食いっぱぐれたら道中地獄だぞ」

「は、はい…」


私はサクラを腕に抱えるとビオルダさんについて宿の中に入った。

廊下を歩いていると、隣を歩くベッツィがちらちらとこっちを見てきた。


「…な、なに?」

「あぁ、いや。何でもない。…ちょっと昨日は飲みすぎたかなぁと思って」

「…」

「なぁ、フィズ。昨夜俺帰ってきた時お前となんか喋ってたっけ?」


…。

まずい。

これは探りを入れられてる。

私はできるだけ平静を装った。


「…いや、僕はもう先に寝ていたしベッツィが帰ってきたのも知らない」

「そういや昨日お前レイと一緒に寝てなかったか?」

「えっ、や、やだなぁベッツィ。酔っ払ってただけじゃなくて寝ぼけてたんじゃないの?」


ベッツィは首を傾げながらもまだまじまじとこっちを見てくる。


「お前さぁ…」

「…なに?」

「なんか今日眉毛濃くない?」

「…」


…やっぱり?

ベッツィはやっと前を向くと呆れて言った。


「いや、お貴族様ってのは男でも入念に顔を整える者もいるのは知ってるけどさ。こんな旅の最中にもいちいち化粧なんてしなくてもよくないか」


よくないわ。

イザベラ顔に戻るじゃないか。


私はひとつ咳払いをした。


「これは身だしなみのひとつだから。ベッツィには関係ないでしょ」

「…今度素顔見せろよ」

「嫌」

「なんで?」

「なんででも」


ベッツィはまだ疑り深い顔をしている。


…頼むからいい加減この会話終わってくれ。

これからもできるだけベッツィとは二人きりにならないようにしなきゃ。


私は少し足を早めると、ベッツィがこれ以上質問ができないようにビオルダさんの隣に並んで歩いた。

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