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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
黒姫
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仕掛けられた勝負

オルフェ王子は呆れながら地下の一室に軟禁された私を迎えに来た。


「正面から堂々と城を出ようとしたんだってな。お前王宮を何だと思ってる」

「さ、最初は裏口を探していたのですが迷子になったもので仕方なく…」


逃げ出そうと部屋から出たはいいが、待ち受けていたのは迷路のように入り組んだ廊下だった。

どれだけ広いんだ王宮。

裏口というのなら単純に正面の真逆に作っといてくれないと困る。


それにしても王宮って人の出入りが多いのにきっちり一人一人チェックされてるんだな。

馬鹿正直に答えた私はもちろん出入り記録なんて残ってないから即お縄。

あぁ、しくじった。


「ミリ、大体姫君がそんな格好でうろうろするものじゃない。用意させていたドレスはどうした」

「え、それって部屋に飾られていたあのゴテゴテ宝石の付いたドレスのことですか」


露ほどの興味もない私にとっては全く無駄な物にしか見えなかった。

というか正直あれを自分が着るだなんて発想自体浮かばなかった。

私が今身につけているのは起きた時に着ていた白いざっくりとした綿の部屋着に、その辺にあった上掛けを肩にかけているだけ。

足元がスリッパなのはやっぱりまずかったかな。


「オルフェ王子、私が着ていた服を返してください」

「お前は俺の側室だ。髪を結い少し着飾れば申し分ない器量だろうに」

「髪は魔力が宿るんです。この髪、短く切っても次の日には元通りになっちゃうんですよ。ですから結ったりもあまりしないほうがいいと思われます」


オルフェ王子は言うことを聞こうとしない私にやや苛立ちを見せた。

よし、早く愛想をつかせ。


「ではお前の好みの服を用意させよう。色は?」

「真っ黒」

「それではカラスみたいになるぞ」

「いつもそのスタイルでしたから問題はありません」

「…」


オルフェ王子は眉間にしわを寄せながら考える顔になった。


「…。分かった。お前のリクエストには応える。その代わり大人しく王宮に止まれ。今お前の部屋を用意させている」

「オルフェ王子。貴方には何人も側室様がいらっしゃるのでしょう?私になんか構いつけていないで早くそっちへ行ってくださいよ」


オルフェ王子は怪訝な顔になった。


「そんな態度じゃ不敬罪を問われても反論できんぞ。イザベラ姫として再教育する必要があるな」


だめだ。

なんだかこっちの方がストレスが溜まってきた。


大体この国の第三王子オルフェといえば、上二人の兄に国の舵取りを任せて自身は自由奔放に浮世に名を残しているともっぱらの噂だ。

そんな奴に言われる筋合いはない。

私はつかつかと歩み寄るとオルフェ王子の立派な襟元をがしりと掴んだ。


「再教育…。ほほぉ。面白いことおほざきになられるんですね王子。生まれと顔がいいだけで人生勝ち組とか思ってらっしゃるかもしれませんがねぇ、誰でも思い通りにさせられると思ったら大間違いですわ」


王子は呆気にとられたがすぐに私の手を払った。


「ミリ!!」

「うるさい」


間髪入れずに言ってやるとオルフェ王子はまた黙った。


「再教育が必要なのは貴方ですよ。こっちはぼんくら王子に付き合ってる暇はないんです。早く帰らなきゃ生活に響くんですから」

「お前、顔が可愛くなければこの場で叩き切っていたぞ」


それは危ない。

この姿でやっと一つだけいいことがあった。

王子にああは言ったけど、やはり世の中八割は顔で決まるようだ。


王子はしばらく私をじっと見てきたが、にやりと笑うと私の両手首を掴み壁に押し付けてきた。


「ミリ。お前に本気で興味が湧いてきた」

「えっ…」


違う。

ここは腹が立って愛想がつきてとっとと帰れと言われるはずの場面だ。


「お前はどうやって人を呪う?」

「そ、それは言えません」

「謎の多い奴だ」


間近で王子と視線が絡む。

近い…近いって。


「今夜お前の部屋に行く。この手でミリの全てを引き出してやろう」


おぉ。

挑発的な顔。

だめだ。

先に王子の目を覚まさせてやらなきゃ。


「王子、先ほども申しましたがこの顔も体も私のものではありません。元の私は王子が相手する価値もない地味で不気味な女です。後悔するのはオルフェ王子ですよ。それにもし手を出しても私的にはうっかり美味しくご馳走様で終わりです」


だって一生女としてそんな日を迎えることはないと思っていたし。

一夜の思い出が美形の王子サマなら申し分はないじゃない?


オルフェ王子はやっぱり呆気にとられると今度は盛大に笑い出した。

何がそんなに面白いのか全く分からないが、とにかく王子はしばらく笑い続けていた。


「あの…」

「お前はかなり変わった女だな。どうだミリ、俺と勝負しないか」

「えっ…」

「俺はミリを本気で落としにかかる。ミリが落ちれば俺の勝ち。有無を言わせず従順に従ってもらおう。もちろん黒魔術のことも洗いざらい話してもらう。逆に俺が手を尽くしてもミリが落ちなければミリの勝ち。俺から逃げ切った褒美に何でも望みを叶えてやろう。期限は…そうだな、一年以内でどうだ」


…。

…。

なんて無益な。

それに一年もこんな所にいてたまるか。


「辞退いたします」


不機嫌に言い放つと王子は勝ち誇った顔で微笑んだ。


「では俺の不戦勝だな。それなら無条件でこの先俺に従ってもらおうか」


あ、だめだ。

またイライラしてきた。

私ってこんなに気の短い人間だったかしら。


「オルフェ王子」

「なんだ」

「私の望みはできるだけ早くこんな王宮を出て自分の家で平和に過ごすことのみです」

「今はそれが許されないことはお前も分かるだろう」

「では私が勝てば本当に後腐れなく解放してくれますか」

「約束は守る」

「多分その頃には傾いちゃってるお店を立て直す資金も出してくださいよ」

「いいだろう。今の二倍の店を出せるだけの手切れ金をお前にやろう」


二倍!!

さらっと約束しおってこの金持ちめ…。


「分かりました…。この勝負、受けて立ちましょう」


べ、別にお金に揺れたわけじゃないからね。


王子は見透かすような目で見下ろしてきたがこっちだって黒魔女として生きて十八年。

負けじとまっすぐ見つめ返す。


こうして、今後何かと城を騒がす前代未聞の偽りの黒姫が誕生した。

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