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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
スアリザにて
198/277

ルビートの決意

ずっと影からミリを追っていたベリサは、最後に連れて行かれた塔から離れ一人王宮へ戻った。

猫の自分ではミリを助け出すことは出来ない。


「急がないと…」


彼の匂いは覚えている。

問題は人一人を探すには王宮が広すぎるというところだ。

ベリサは一通り探し終えると、疲れた体を休める為に人気のない廊下へ向かった。

誰もいないのを確認し、幾つも並んでいる物々しい鎧のそばで腰を下ろす。


「駄目だわ。何処にいるのかさっぱり分からない。せめてアルゼラにいる時くらい魔力が使えれば…」


無理だと思いつつも内側の魔力に意識を集中してみる。

すると、予想に反してベリサの周りで蒼い炎が渦巻いた。


「え…」


もう一度試してみたが、やはり魔力が強まっている。

ベリサの脳裏にふと昨日見た野獣男がよぎった。


「もしかしたらあの辺り一帯には封印された悪魔の魔力が満たされていたのかしら」


それがどう影響したのかは分からないが力が戻るのは有難い。

ベリサは目を閉じると魔力を一気に高め、蒼い炎を散らせると王宮内の気配を残らず探り始めた。





ーーーーーーーーーー





同じ頃。

散々暴れ尽くしたルビートは息を切らせながらその場にしゃがみ込んでいた。


「…くそっ!!一体どうなってやがるんだ」


ケイド・フラットの男と女が現れ、身の危険が迫ったところまでは覚えている。

だが気がつけば自分はこの窓もない狭い部屋に閉じ込められていた。


「フィズ…」


気がかりは自分よりも連れて行かれたミリの方だ。


「俺を庇うなんて…馬鹿な黒魔女だな」


自嘲気味な呟きがこぼれ落ち、ルビートはやるせない思いで拳を握った。

疲れきり一人途方に暮れていると、びくともしなかった扉の外からカリカリと何かをひっかく音が聞こえてきた。


「…なんだ?」

「ルビート」

「え…」


名を呼ばれてルビートは弾けるように立ち上がった。


「ルビート、ここなの?」

「その声は…ベリサ!?」

「そうよ」


ルビートはやっと現れた希望に飛びついた。


「ベリサ!!無事だったのか!!フィズは!?あいつも無事なのか!?」

「今のところ酷い扱いはされてなかったけど、さっきペレツラの塔とかいう場所に運ばれていったわ」

「ペレツラの塔だって!?」


ルビートはドンと扉を叩いた。


「それは本当なのか!?」

「ええ。あれは何なの?高い壁で覆われてるし物凄く厳しく出入りが制限されていたわ」

「あれは…通称、拷問塔だ。その名の通り有益な情報を握っていると見なされたスパイや犯罪者が送り込まれる」

「拷問塔…」


扉の外でちゃりんと鍵が落ちる音がした。


「ベリサ、鍵を持ってるのか!?」

「え、ええ。ごめんなさい。驚いて落としてしまったわ。この姿では中々鍵を開きにくくて…」

「頼む。一刻も早くここを開けてくれ」

「分かったわ」


ルビートは邪魔にならぬよう話しかけずに待った。

不器用な音で鍵がかちゃかちゃと何度も音を立てる。

かなり苦戦したようだが、やがてガチャンと待ち望んでいた音がした。

ルビートはすぐに取っ手を掴むと内側へ引いた。


「ベリサ!!」

「ルビート、お待たせ」


飛び込んで来たベリサを抱き上げるとルビートはすぐにその場を離れた。


「助かったよベリサ、ありがとな」

「まだ油断はできないわ。もう一度見つかれば私たちも終わりよ」

「そうだな」


ルビートは足を早めながら辺りを見回した。

自分が閉じ込められていたのと同じような厳重な扉をいくつか通り過ぎる。

一本しかなかった廊下を突っ切ると薄暗い部屋に出た。

そこには何だかわけの分からない物がごちゃごちゃと置いてあり、液体の入った無数のガラスケースの中には生き物らしきものが浸されている。


「ここは…魔物研究所だ」

「魔物研究所?」

「間違いない。昔よくこの辺りで遊んでいたからな」

「悪趣味ね」

「ここは昼間は人が少ないからサボった時によく隠れに来てただけさ。それにしても…」


ルビートは自分が閉じ込められていた部屋を思い返すと苦い顔になった。


「とんでもない部屋に押し込めてくれたもんだぜ」


恐らくあそこは捕らえた魔物を一時的に閉じ込めておく部屋だったのだろう。

罪人以下の扱いをされたとは屈辱以外の何者でもない。


「これだからケイド・フラットなんて怪しいものはいけ好かないんだ」

「そのケイド・フラットって一体何なの?とても普通の人たちには見えなかったけど」

「王宮に籍を置く者なら誰でも知っているが、誰もその実態を知らないという謎の一族だ」

「実態を知らない??」

「そう。だが王家と古くから表裏一体でスアリザを発展させるために尽力してきた一族らしい。あの女がペンダントを持っていただろう?」

「あの石造りの?」

「それを振りかざされれば王族以下の者は無条件で従うという暗黙のルールがここにはあるのさ」


ルビートは研究室を出ようとしたが、ふとロッカーが目に入ると中を開けた。

思った通りそこには白衣が何枚もかけられている。

躊躇いなくそれに手を伸ばし着込むルビートに、ベリサは苦笑した。


「慣れてるわね」

「まぁな」


ルビートは整えられていた髪型も野暮ったく崩した。

これでぱっと見ではとても貴族に見えない。


「よし。行こう」

「ええ」


二人はベリサの誘導で出来るだけ人目につかないように研究所を出た。

しばらくは王宮内を素知らぬ顔をしながら歩き、外に出るとペレツラの塔を目指した。


初めから入れるとは思っていなかったが、そこは想像より遥かに厳重な警備が敷かれていた。

それに塔を取り囲む壁もとても乗り越えられるものではない。


「フィズは確かにあそこへ連れて行かれたのか?」

「ええ。間違いないわ」


ルビートは一度塔から離れると木陰へ入った。


「くそ…。あんなのどうやって助けに行けばいいんだ」

「真っ向から行ってもまず無理。壁の周りには木が一本もなくて中の様子すら分からないわ」

「門を突破しても容易に建物には入れないだろう。あれじゃ夜を待っても意味はなさそうだな」

「夜なんて…待ってられないわ!!」


ルビートは急に声を荒げたベリサに驚いた。

ベリサははっとすると激情を抑え、辛そうに肩を丸めた。


「早く…早く助けてあげないと」

「ベリサ…」


ルビートは木の根元に腰掛けるとベリサを抱き上げた。


「君は不思議な猫だな。そんなに黒魔女の彼女が心配か?」

「…」

「でもあれだろう?フィズなら本気を出せばババンと魔法でもぶっ放せるんだろ?」

「…」

「いいよな魔力って。俺もあんな力使ってみたいな」


元気づけるために言ったのだろうが、ベリサは逆に爪を立てた。


「いいですって?勝手なこと言わないで」

「え…」

「私もミリも、人として生きられるのはごく僅かな期間なのよ。悪魔に取り憑かれた者の行き着く先は喰われることのみ」

「喰われる…?」

「私は数日前までは喰われた悪魔と融合した醜い化け物だったのよ。もう自分では死ぬことも出来ずに…ずっとこの世を彷徨っているわ」

「じゃあ君も…?」

「ええ、私も黒魔女よ。元、だけどね」


ルビートは無意識にベリサの背を撫でていた手を止めた。

息が詰まり、怪しげに光るベリサの緑の瞳からは目がそらせない。

長く感じられる時間が過ぎ、風が吹き抜けるとルビートはやっと息を吹き返した。


「…信じられない」

「…」


ルビートは改めてベリサを抱え直した。

ベリサは身構えたが、ルビートは嫌悪感ではなくむしろ悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「世の噂なんて本当に当てにならないものだな」

「え…」

「こんなに可愛い黒魔女がいるなんて」


ベリサはわしわしと頭を撫でられた。

困惑して抵抗するも手馴れたルビートの手からは逃れられない。


「ち、ちょっと…」

「それにしても黒魔女の飼い猫だから喋るんじゃなくて、ベリサ自身が黒魔女だったのか。道理でフィズよりしっかりしてるわけだ」

「あのね…」


ルビートはベリサを離すと真剣な目になった。


「…よし。なんか本気になってきた」

「え…」

「ベリサ、フィズを助けよう。どんな手段を使ってもな」

「…」

「後には引けなくなるかもしれないが、きっとベリサ達が現れた今こそ決着をつける機の訪れなんだ」


ベリサはルビートの気迫にただならぬものを感じた。


「何をする気なの?」


ルビートはそれには答えずにペレツラの塔を見上げた。


「ベリサ、今すぐにフィズを助けたい気持ちは分かるが三日ほど猶予をくれないか。そのかわり確実に救い出す」

「三日…」

「誓ってそれ以上は待たせない」


ベリサは泣きそうな顔になった。

そんなに待てないと言いたいのは山々だったが、他に自分ではどうしようもない。


「…分かったわ」


消えそうな声で言うとルビートは力強く頷き返した。


「ミリ…。どうか無事で」


風が吹き荒ぶ中、ベリサはやるせない思いでミリの無事だけを切に願った。

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