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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
スアリザにて
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ユセの配慮

「…イザベラ姫では、ない?」


呆然とするユセの反応は当然だ。

本来ならば王族を騙ることは重罪中の重罪なのだ。

特にユセのように王家に近しい人には考えられない所行なのだろう。

私はすぐに弁解した。


「でも誤解しないで。私だってやりたくてイザベラ姫やってたわけじゃないの。どうしてこうなったかは本当に分からなくて、オルフェ王子もただ原因が分かるまで騒ぎ立てないようにしてただけで…」


身を乗り出して力説しているとユセは私の手を掴んだ。


「ミリさま。その事は僕の他に誰かに言いましたか?」

「え?う、ううん」


ユセの剣幕に私は首を横に振った。

いや、でもよく考えたらネイカとか、知ってる人はいるんだった。

…まぁ、ここはいいか。

ユセは怖いくらい真剣な目で言った。


「それは迂闊に人に話さない方がいいと思います。世に聞く黒魔女が一国の姫に成りすまして側室に入るなんて…それではまるでミリさまが国を乗っ取るために王家に近付いた不審な者と思われても仕方ありません」


うん。

間違いない。

無実を訴えたところで、黒魔女という肩書きだけで全て私が悪と捉えられるだろうな。

…理不尽だ。


「ミリさま」

「な、なに?」

「どうしてミリさまはフィズに変装してたのですか?」

「えっ。あぁ、えと…それは最初はただ自由になりたくて変装してたんだけど…」


アルゼラの民だという肩書きも、騒ぎを起こした私を守るためにオルフェ王子がとってつけただけだ。

他意はない。

無意識にオルフェ王子を庇う言い方になる私に、ユセはやや難しい顔をしていた。


「オルフェ様は、ご無事なのでしょうか?」

「え…」

「パッセロでドラゴンと共に消えた後、貴女とオルフェ王子はどこで何をしてたのですか?」

「それは…」


私の膝でベリサが鳴き声をあげた。

私は言葉を飲んだ。


そういえばさっきからユセの質問に答えまくってるよな。

ベリサに忠告されてたのに全部馬鹿正直に話すところだった。


「ミリさま…?」


ユセは俯いた私を探るように見ている。

私はベリサを撫で、一呼吸置いてからゆるゆると首を横に振った。


「分からないの」

「え…?」

「パッセロを出てからここで目が覚めるまで、ずっと意識がなくて…」

「…」

「ごめんなさい」


ごめん…。

本当ごめん、ユセ。

嘘はつかないって思っていたのに、結局こんな事しか言えなくて…。

申し訳なさでしょぼくれていると、ユセの方が気を使って笑顔を見せた。


「また何か思い出したら教えてください。先に色々聞いてしまってすみませんでした。ミリさまの話やすいところからお聞きします」


私は優しいユセの柔らかい物腰に内心ほっと胸を撫で下ろした。

ユセが紳士なことには本当に感謝しかない。

それからは順を追って出来る範囲で話をした。


目が覚めたらイザベラ姫になっていたこと。

窮屈になってフィズとして王宮内を出歩いたこと。

王子にサクラをもらったこと。

そして王子と外へ出た時に命を狙われたこと。


「オルフェ王子は私にイザベラ姫でいる事が危ないと判断して、フィズにさせて一緒に旅に連れ出してくれたの」

「そうだったんですか」

「まぁ、旅での様子はユセも知ってる通りなんだけどね」


私は旅先での話もしながらコールのことを考えていた。

本物のイザベラ姫に会ったことを話せば自動的にミントリオで私が消えた話になる。

その行き先を尋ねられればアルゼラの話は避けられない。

それに本物のイザベラ姫と仲良くなったと言えば話自体またややこしくなってくる。

ここはやっぱりコールのことも伏せておくべきかな。

私は話が後半に差し掛かるとざっくりと端折った。


「…えと、それからフリンナ姫たちとのいざこざがあったり、ソランたちに怪しまれたりしたけど、何とか切り抜けてパッセロに着いたらあの騒動だったってわけよ」

「…」

「後はもう私にも何が何だか分からないわ」


ちょっと苦しいまとめ方だが仕方がない。

聞き役に徹していたユセは無表情で何かをじっと考えている。


「あの…ユセ?」


ユセはゆっくりと私に視線を戻すといつもの微笑みを浮かべた。


「…そろそろ夕飯の時間ですね」

「え…」

「随分長い時間話をさせてすみません。ミリさまは今身の落ち着けどころはあるのですか?」

「いや、その…」


私が小さくなっていると、ユセはにっこりと笑った。


「もしかして僕をあてにして来てくれたのですか?」

「う…。ごめんなさい」

「謝らないでください。思い出してくれて嬉しいです。…そうですね、二つ隣の部屋に僕の客専用の部屋があります。よければそこを使ってください。毎日食事も運ばせましょう」

「え、いいの…?」


私は有り難すぎる申し出に思わず間抜けな顔になった。


「あまり上等なおもてなしは出来ませんが…」

「ぜんっぜん!!全然いいです!!すごく助かる!!ほんと助かる!!」

「では早速手配させましょう。ここで少し待っていてくれますか?」

「う、うん!!」


ユセはすぐに立ち上がると颯爽と部屋を出て行った。

私はベリサを抱き上げた。


「よかった…!!やっぱりユセに会いにきてよかった!!」

「そうね。確かにとてもいい子ね」

「そうでしょう!?」


ベリサは何か言いたそうにしたが、嬉しそうな私に結局口を挟んではこなかった。

ユセに用意してもらった部屋は、申し分ないほど居心地のいい部屋だった。

ユセはそこに軽食を運ばせると私に配慮して一人にしてくれた。


「ふあぁ…安心したら眠くなってきた」


お腹も膨れ、すっかり安心した私はベッドに横になった。


「もう寝るの?」

「うん。昨日あんまり寝てないし…」

「そうね」


ベリサもベッドに飛び乗ると私の隣で丸くなった。

私はすぐに目を閉じるとぐっすりと眠った。


深夜。

私はふと目を覚ました。

喉の渇きを覚え水を飲んでいると段々と頭が冴えてくる。


「…シャワー浴びたい」


ふらふらとシャワー室へ入りひと汗流すと本格的に目が覚めた。

部屋へ戻り時間を確認すればまだ深夜を過ぎたばかりだ。

私は長く伸びた髪を撫でた。


「ルビート、今日もいるのかな」


ルビートなら、まだまだ私の知らないことも色々聞けそうだったよな。

私は思い立つとじっとしていられなくなった。

伸びた髪をハサミで切り落とし、服に着替えているとベリサが目を覚ました。


「ミリ、こんな時間に何してるの?」

「ベリサ、もう一度図書室へ行こう」

「図書室…?」

「うん。ルビートがいるなら王宮の話を聞こうと思って」


ベリサは大きく伸びてからぴょんとベッドから飛び降りた。


「いいわ。行きましょう」

「寝てたのにごめんね」

「平気よ」


私は支度を終えるとベリサを連れてそっと部屋を抜け出した。

廊下は薄暗く人の気配はない。

ベリサは私より前に出るといつものように周りの気配を探りながら歩いた。


ベリサも私も、充分警戒していたはずだった。

だがそれでも気付かないほど静かに息を殺した黒い影が、柱の裏から私たちを見ていた。

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