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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
スアリザにて
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希望

ベリサはショックから抜け出せない私に懸命に声をかけ近くのバルコニーまで連れ出してくれた。

外の空気に触れると少しだけ我にかえる。

見下ろせば見覚えのある中庭と噴水が広がっていた。


「ここは…」


懐かしい。

サクラが部屋から脱走した時に探しに出た中庭だ。


「ミリ、大丈夫?」

「…うん」


私はぼんやりと噴水を見つめた。


「ちょっと待っててね」


ベリサは一度姿を消すと茶色い紙袋を引きずりながら戻ってきた。


「はい、これ。ごめんなさい。見つからずに抜け出すのに時間がかかっちゃって」


紙袋を受け取り中を見ると、ロールパンやクロワッサンが入っていた。


「何があったかは分からないけれど、とりあえず食べて元気出しましょう?」

「ベリサ…」


私が手を伸ばすとベリサはぴょんと飛び乗ってきた。

抱きしめるともふっとしていて気持ちいい。


「あのね、ベリサ」

「なに?」

「は、話、聞いてくれる…?」


震える声で言うと、ベリサは私の目元をぺろりと舐めた。


「泣かないの。ちゃんと聞くから」


私は優しいベリサをもう一度きゅっと抱きしめた。


私たちはその場に腰掛けパンを食べた。

そんな気にはならなかったが、食べ始めると少しずつ落ち着いてくる。

私はベリサにレイのことを話した。


「私…、私、ずっとレイのこと信じてた。だってレイはすごく厳しいけど根は優しいし、オルフェ王子の事だって心から敬愛していたし…」


すっかり意気消沈していると、ずっと黙って聞いていたベリサが皿のような緑の目で私を見上げた。


「…ねぇ、ミリ。そのレイって子何者なのかしら」

「え…?」

「裏切る裏切らないの前に、その子自体が謎すぎない?」

「…」


…確かに。

すっかり慣れてたけど、あの年であの中身は異常だ。

それに尋常じゃない強さ。


「…ねぇミリ。昨日、王宮をあちこち見てまわっている時におかしなことを耳にしたわ」

「おかしなこと?」

「そう」


ベリサは空を見上げた。

北国とは違う真っ青な色の中に、くっきりと浮かぶ白い雲が流れている。


「その男はこう言ってた。今は第二王子が勢いを増しているが、セシル様に負けはない。何故ならセシル様には動かせるケイド・フラットがいる」

「ケイド・フラット…」

「そう。よくよく聞いていれば、どうやら王族の裏を支えている一族みたいよ」


裏か…。

何だか黒そうな一族だな。


それにしても何故突然そんな事を突然言い出したのかと疑問に思っていると、ベリサは光る眼で私を見た。


「男たちはこう話し合っていたわ。ケイド・フラットは皆人とは思えぬ程の強さを持ち合わせているらしいが、本当に存在するのか、と」


私ははっとした。

意味深なベリサの瞳に言いたい事を理解する。


「まさか…レイもそのケイド・フラットとかいう一族?」

「分からないわ。ただミリの話を聞いてその事を思い出したの」

「…」


ケイド・フラット。

一体その人たちは何者なんだろう。

でももしかしてレイが本当にその一族なら、何らかの縛りを受けているのかもしれない。


私は図書室に現れたレイを思い返した。

レイは冷たく出て行けと言ったが、あれはもしかして私に逃げろと言っていたのではないだろうか。


「…そっか。そうだよ」


セシル王子が本気でイザベラ姫を探しているのなら、私の顔をよく知っているレイにもその命令が下るはずだ。

いや、下らないはずがない。

それなのにレイは隙を見て誰にも見られない場所で私を逃そうとしたんだ。


都合のいい解釈かもしれないが、私は無理やりそう信じることにした。

私のよく知るレイは、きっと全くの嘘じゃない。

私は残りのクロワッサンをばくばく食べると紙袋を丸めて立ち上がった。


「…よし」

「元気が出てきたみたいね」

「うん、ありがとうベリサ!」


調べなければならないことがまた一つ増えたが、私は以前よりもやる気になった。


ブレン王子にもセシル王子にも利用なんてされてたまるか。

オルフェ王子が来るまでやれるだけやって、レイだって取り戻すんだから。


兎にも角にももっと自由に王宮で動けるようになりたい。

となればやっぱり味方を探さないと。

私はぱしゃんと音を立てた噴水に視線を戻した。


…そういえば、セスハ騎士団はパッセロから戻ってきているのだろうか。

王子の話だとあわやパッセロと戦争になるのではという事態を引き起こしたという。

そこまで大ごとにしたのならば王宮内でも話の一つくらい聞こえてくるはずだ。

リヤ・カリドやソランたちに遭遇するのは勘弁したいが、もしビオルダさんやベッツィをつかまえられたら…。


考えを巡らせていた私は最後にすっかり忘れていた人物に思い至った。


「…ユセ」

「え…?」

「そうだ、ユセだよ!!ユセが帰っていればきっと手を貸してくれる!!」


ユセなら必ず王宮にいるはずだ。

それに味方になってくれればその後ろにはインセント大公爵がいる。

となればいくらセシル王子でも頭ごなしに私を捕らえたりは出来ないはずだ。


そうと決まればぐずぐずなんてしていられない。

私はベリサを連れて中庭から出ると、朧げな記憶を頼りにユセの部屋を目指した。

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