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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
スアリザにて
186/277

ブレン王子

すぐそばで、話し声が聞こえる。

私は体を触られる感触で目を覚ました。

それでも頭が働かずぼんやりしていると、温かなお湯が体に注がれた。


「…??」


顔を上げると見知らぬ女官が数人、何故か私を泡だらけにしていた。

私と目が合っても声すらかけずに黙々と手を動かしている。

私は温かい湯船に浸かりながら全身洗われていたが、まだ動くことも出来ずにされるがままになっていた。

女官たちは私を湯船から出すと最後まできちんと手入れをし、簡単なドレスを着せるとベッドに寝かせ、部屋を出て行った。

残された私はただただ疲労感に襲われ再び眠りに落ちた。


次に目が覚めた時には体が大分楽になっていた。

目の前の天井に見覚えはなく、何度も瞬きをする。


「あ、あれ…?ここどこ??」

「気がつきましたかな」

「え…」


真横から声をかけられ体を起こす。

そこには執事のような男がいた。


「あの、ここは…」

「ここは王宮です。少々お待ちを。すぐにブレン様がいらっしゃりますので」

「ブレン様…?」


って、誰だっけ。

どこかで聞いた気が…。


しばらく寝ぼけていると大きな音を立てて扉が開いた。

入って来たのは一目見ただけでもはっきりと高身分だと分かる男だ。

オルフェ王子と歳は近く、アッシュブラウンの髪と切れ長な目が印象的な人だ。

…というか、見覚えがあるぞこの人。

私は目を見開き、あぁ!!と大きな声を上げた。


「ぶ、ぶぶ、ブレン王子!!」


オルフェ王子のお兄さんだ!!

前に一度だけ見たことがあるが間違いない!!

私はやっと頭が働いてきた。


「え…、じゃあここはスアリザの王宮…!?ど、どうして私、こんな所に!?」

「お前は二日前に星と共にロクノ丘に降ってきた」

「ほ、星…??」


そうだ、確かルシフが私をスアリザに連れてきたんだった。

ブレン王子は執事を下がらせると威圧的な目で私を見下ろした。


「やはりその顔…。お前はイザベラ姫で間違いはないようだな」

「へ…?」

「こっちへ運ばせて正解だった。医療室で見かけた時はまさかと思ったがな」


イザベラ姫と呼ばれるのが久々すぎて、私は間抜けのようにぽかんとした。

ふと燭台に置いてある鏡を見れば、そこには確かにイザベラ姫の顔が映っている。


「あ…そうか。アルゼラを出たから…」

「アルゼラだと?」


ブレン王子は私のベッドにぎしりと乗り上げた。


「貴様とオルフェは、やはりアルゼラに逃亡していたのだな?」

「え!?あ、いや…」

「貴様らはこのスアリザにとってもはや重罪人だ。何の為にわざわざ戻ってきたのかは知らんがその企みもここまでだ」

「いや、べ、別に何も企んだりしてません!!」

「嘘をつくな、黒魔女」


ブレン王子は私の首に手を回しゆっくりと力を込めた。


「そう、お前は黒魔女だ」

「う…」

「お前を地下に眠る忌まわしき悪魔に捧げれば、破魔の力に匹敵するほどの力を手にできるそうだな」

「う、うぅっ…」

「もう時間がない。父上の容態は悪化する一方だ。俺には今すぐにでも力を手にする必要がある」


ブレン王子は立ち上がると乱暴に私の腕を引いた。


「う、げほっ、ごほっ!!」

「来い」

「や、嫌だ…!!」

「さっきも言ったがお前は重罪人だ。下手に騒げば即捕まり縛り首だ」

「えっ…」

「それが嫌なら大人しく歩くんだな」


私は引きずられるように部屋から出された。

そのまま廊下に出ると王宮の奥へと進んで行く。

ブレン王子の横顔は切羽詰まっていて、なんだか嫌な予感しかしない。


「は、離してください!!」

「騒ぐなと言ったぞ」

「一体私をどこへ行くつもりですか!?」

「いいから歩け!!」

「嫌です!!」


抵抗していると、揉める私たちに気付いた役人が走って来た。


「あぁ、ブレン様!!こんなところにいらしたか!!ハムトラズミ卿から支援はまだかと矢の催促です!!それに内紛を治めに行ったベンズ公爵から至急南のユダ・バルド騎士団を動かすよう連絡が入りました!!」


ブレン王子は鬼のような形相になった。


「そっちは後回しだと何度も言わせるな!!それから騎士団も動かしてはならん!!国内で小競り合いが起これば国が衰退することも分からんのか!!」

「しかし…」

「領主に保身に走らずもっと積極的に身内を黙らせるように伝えろ!!馬鹿どもめが!!」


怒鳴り散らしていると別の役人が大量の書簡を手に走って来た。


「ブレン様!!こちらでしたか!!早く公務に戻ってくだされ!!」

「裁決はダンベア伯爵に一任したはずだ」

「ダンベア伯爵はセシル様の遣わされたモントリ様と対立しておりまして、その、中々仕事も進まないのです!!」


セシルの名にブレン王子はぴくりと反応した。


「人を顎で使うばかりの兄上など無視させろ。もはや力で抑えつけねば民衆など図に乗る一方だぞ。下から上がった意見は全て抑えつけろ」

「そんな…」

「ぐだぐだ言わずにやれ!!」


役人はやつれきった顔でため息をこぼした。


「こんな時にオルフェ様がいらっしゃれば…」


これにはブレン王子が過激に反応した。


「馬鹿なことを!!どれもこれも、今までオルフェが民を甘やかしてきたツケではないか!!」

「し、しかしこのままでは民の反発は強く下手をすれば内乱が起こり得ます!!」

「それこそ騎士団の出番ではないか!!各団長にその旨伝えておけ!!」


ブレン王子は怒鳴り散らすと役人を追い払った。

私は耳慣れない言葉にただぽかんとしていた。


内乱…。

あの平和なスアリザ王国で??

ブレン王子は私と目が合うと皮肉を込めて口角をつり上げた。


「オルフェが永久国外追放されたと聞いた途端国中でこのザマだ。どうやって種を蒔いたのか、あちこちで噴出する問題が止まらん」

「…」

「これがオルフェがスアリザを手に入れる算段を立てていた証拠だ。やはりあいつは危険因子だったのだ」


確かにスアリザに大きく揺さぶりをかけたはずとは言っていたけど、なんて爆弾を仕込んでたんだあの人は…。

でもそれは決して王座を手に入れる為なんかじゃない。


「だがオルフェを追放したセシルが立場を弱めたのは願っても無い事態だ。後は俺が決定的な力を手にすればもう誰も俺には逆らえなくなる」


ブレン王子は私を掴み直すとまた歩き出した。

段々と暗い通路へと進んで行く。


「一体…何をするつもりですか」

「…」

「あなたまさか、悪魔に私を会わせればそれで捧げたことになると思ってるんですか?」

「…」


ブレン王子は足を止め、私を冷たく見下ろした。


「悪魔は、黒魔女を欲している」

「その意味を貴方は知ってるんですか?」

「…」

「そもそも私には既に別の悪魔が取り憑いています。そんな黒魔女を本当にスアリザの悪魔は欲するんですか?」

「…」


ブレン王子の瞳に僅かな迷いが生まれた。

…やっぱりだ。

この人、多分何も分かってない。

何ていうか、誰かに吹き込まれた感がある。

私は精一杯訴えた。


「悪魔は人知を超えた存在です。何も知らないまま力を求めても、貴方が殺されるだけです」

「黙れ!!偉そうに俺に口をきくな!!」


ブレン王子は私の襟首を掴み上げると憎々しげに吐き捨てた。


「お前に何が分かる!!このスアリザは…美しいこの国はもはや悪魔なしでは成り立たん。耄碌した父も、臆病な兄上も、腑抜けなオルフェも役に立たん!!この国は俺が悪魔と対等な力を手に入れ守るしかないのだ!!」


私は激しく揺さぶられて頭がくらくらした。

反論したくても酸素が足りない。

泡を吹きそうになっていると、黒い物体がブレン王子の肩にどさりと飛び降りてきた。


「な、何だ!?猫!?」」

「あ…ベリサ!!」


ベリサは息を吸い込むとブレン王子の顔に蒼い火を吹きかけた。


「うぐっ!!な、何だこれは!?」


蒼い炎は纏わり付いて消えようとしない。

ブレン王子が私の手を離すとベリサがくるりと床に着地した。


「ミリ!!こっちよ!!」

「あ、うん…!!」


私は急いでベリサの後を追った。


「あ、ありがとうベリサ!!ベリサも王宮にいたんだね!!」

「ええ!!ミリの連れていかれた部屋を見張ってたの!!」

「でも、今のはちょっとやりすぎじゃない!?」

「あれは本物の火じゃないわ。熱くもないし勿論燃えたりもしない。だから気づかれる前に行くわよ!!」

「わ、分かった!!」


私たちは全力で元来た廊下を走った。

徐々に人通りが多くなり、明るい通路へと変わっていく。


「どうしよう…このまま外へ逃げ出した方がいいのかな!?」

「でも正面からは出られないわ!!」

「じゃあどっちへ行ったら…!!」


辺りを見回した私は、人が沢山行き来する正面階段でふと目が止まった。

何故気付けたのかは分からない。

でも、一瞬だけ柱の陰からこっちを見ている少年が確かに見えのだ。


あれは…

あれは…!!


「レイ!!」

「え?あ、ミリ!!」


私は考えるより先に影を追って走り出していた。

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