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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
184/277

愛と思惑

「ミリ!!」


オルフェ王子は目を覚ました瞬間飛び起きた。

荒い呼吸を繰り返しながら右手に握る剣に力を込める。

王子の隣で杖を手にしたままのメウが静かに言った。


「やっと目を覚ましたか」


オルフェ王子は長い夢から覚めたかのように混乱する頭を振った。


「ここは…」

「用が済んだのならさっさと出て行け。七日も居座られると迷惑だ」

「七日…?」


まだ現実に帰ってこないオルフェ王子にメウが冷たく言った。


「七日前、お前はユラ王に斬りつけ逃亡しただろうが。守護神グア四将はかんかんになってまだお前を探してるぞ」

「あぁ…」


王子は酷く痛む頭を押さえた。

メウは立ち上がると布を手に取り古びた杖を拭った。


「意識を体から切り離して死の川を探るなど、無駄に寿命を削られただけだ。どうせ見つかりはしなかっただろう?」

「いや、見つけた」

「何…?」


メウは手を止めた。


「見つけただと?」

「ああ。導かれた、とでも言うべきか」


メウは考え込みながらまた杖を磨いた。


「…婆が言うには、ミリの周りに守り人がついていたようだからな。それか」

「分からん」

「だが、見つけても結局助けることは出来なかっただろうが」


オルフェ王子は急に正気に返ったように顔を上げた。


「…スアリザだ」

「なに?」

「ミリは、スアリザにいる」

「…」


オルフェ王子はすぐにでも出ていこうと立ち上がったが、体はいうことをきかず床に片膝をついた。


「う…」

「無茶をするな。そのうち本当に果てるぞ」


メウは杖をテーブルに置くとその隣に置いていた呼び鈴を一つ鳴らした。


「大体、今アルゼラを出られる状況だと思うか?お前を捕らえるために四将だけでなく警備部隊全てが出払っている。いくらドラゴンを操ろうが流石に本気のユラ王からは逃れられんぞ」

「…」

「それにもしアルゼラを出ても外の耐性の無いドラゴンは瘴気にやられる」


メウの言葉が重く響く。

それでもオルフェ王子の目は微塵も諦めていなかった。

メウがやれやれと肩をすくめていると、音を立てて玄関扉が開いた。


「何だよメウ!!いっつも呼び鈴一つで呼びつけやがって!!薪割りか!?それともまた部屋掃除を手伝えとか…」


騒がしく入って来たゴズは、オルフェ王子を見つけるとその場に凍りついた。


「おぁ!?だっ…、え、オルフェ!?」

「ゴズ、手を貸してやれ。一人じゃまだろくに立てぬようだからな」


ゴズは慌てて扉を閉めるとオルフェ王子に走り寄った。


「おまっ、こんな所で何やってんだよ!?今城中で皆血眼になってお前を探してるんだぞ!?ユラ王に斬りつけたってのは本当なのか!?」

「斬って捨てたのはユラ王の分体だ」

「それでもあのユラ王を斬るなんて…お前正気かよ!?」


オルフェ王子はまた寝床に戻されて不満そうにした。


「悪いが寝ている場合じゃない」

「馬鹿野郎が!!そんなフラフラで何言ってやがる!!一体どうしてメウの所にいたんだよ!?予想外すぎるだろうが!!」


これにはメウが答えた。


「そこの馬鹿は幽体分離の術を受けにきたのさ」

「幽体分離ぃ!?超高等黒魔術じゃねえか!?しかもやばい系!!そんな事して何を…」


言いかけてゴズははっとした。


「お前…まさか死の川へ…?」


オルフェ王子は答えなかったが、ゴズは天井を仰いだ。


「相変わらずなんて無茶な奴だ。一体何日ここにいたんだ?」

「今日で七日目らしいな」

「七日!?お前七日も体から離れててよくまだ動けるな!?えぇ!?」


ゴズは腕を組むとうろうろと部屋の中を歩き回った。


「でもこれはまずい事態だな。ここにいちゃ必ずそのうちユラ王に見つかる。オルフェならウダムまで行けば逃げ切れるだろうが森はもう押さえられているしな…」


何とか逃げ延びる案はないかと真剣に考えるゴズに、オルフェ王子は少し笑みを浮かべた。


「ウダムには行かない。俺はアルゼラを出る」

「は、はぁ!?お前簡単に言うがなぁ!!」

「ゴズ、最後に頼みがある。俺と一緒に来た者たちを頼みたいんだが…」


ゴズはむっと眉を寄せた。


「最後って言うな。大体お前の連れって…」

「一人はウダムに置いてきた。それから…」

「知ってる。ネイカとコールだろう?二人は今ばっちゃんの家にいるんだぞ」

「婆の家に?」


これにはオルフェ王子が驚いた。


「おうよ。ネイカはお前、とっくにオディがウダムで見つけて拾ってきたぞ」

「オディが…」

「おう、覚悟しろよ。ネイカも四将に負けねぇくらいかんかんに怒ってるぞ。それからお前が追われる身になったってんで、ネイカの頼みでコールもここに匿うことにしたんだ」

「そうか…」


オルフェ王子はいくらか荷が下りた気がして安堵の吐息をこぼした。

正直、ミリを見つけてやっと冷静に周りのことを考え始められた。


アルゼラを無理やり出るリスクを思うと、やはりコールとネイカを一緒に連れてはいけない。

自分と関わりさえなくなればユラ王が二人を執拗に狙うこともないはずだ。

婆が匿ってくれているのなら、もうしばらくはそのまま預けておくのが最善だろう。


スアリザへ手っ取り早く帰る手段は考えてある。

後はやはりいかにしてユラ王の網をくぐり抜け、アルゼラの結界を抜けるかが問題だ。

考え込んでいるとゴズが訝しげに言った。


「…お前、まだ何かする気だな?」

「何もしなければ一生ここから出られないだろうが」

「俺が言いたいのは無茶するなって事だ!!俺はお前のことを本気で心配してるんだぞ!!」


オルフェ王子は軽く目を見張った。

ゴズは意外そうな顔をする王子に心底腹を立てた。


「お前らはそんなことちっとも思ってないかもしれんがな!!俺はやっぱりお前たちを唯一無二の仲間だと思ってんだ!!お前が何と言おうと俺はお前の兄貴分なんだよ!!」


王子は珍しいものを見るかのようにまじまじとゴズを見た。


「…なんだよ!!」

「いや、ゴズがそんな仲間意識を持っていたなんて初めて知った」

「お前、そういう淡白なところはほんとメウそっくりだな!!」


ゴズは拗ねたように床に座り込むと背を丸めた。

オルフェ王子はずっと厳しい色を浮かべていた瞳を緩めた。


「ゴズの気持ちは有難いが、これは俺の問題だからな。これ以上巻き込むわけにはいかない」

「…」

「俺は何としてもアルゼラを出る。ここに二度と戻ってこられなくともな」


ゴズはオルフェ王子を睨みながらずっと手に持っていた巻貝を見せた。


「…これはここに来る前にばっちゃんに持って行けって言われた通信貝だ。悪いがここの会話は今ばっちゃんの所に筒抜けだぞ」

「…」

「あっちで話を聞いてたのなら、そろそろ来るんじゃねぇか?」


オルフェ王子は嫌な予感に立ち上がろうとしたが、それと同時にまた扉が吹っ飛ぶ勢いで開いた。


「大当たりよ!!オルフェ王子!!ずっと放置されてるこっちの身にもなりなさいよぉ!!」


大音量で入ってきたのはコールだった。

その次にネイカも眉をつりあげて叫んだ。


「オルフェ王子!!あんなドラゴンだらけの場所に置いて行くなんて酷いじゃない!!」


詰め寄るコールとネイカの後ろから老婆とシシルブも入ってきた。

オルフェ王子は頭を抱えたくなった。


「メウ。俺がここにいることを婆には…」

「まだ話してないぞ。婆の鏡には映っていたかもしれんがな」


シシルブは仁王立ちしながら呆れて言った。


「まったく!!メウも婆も秘密主義なんだから!!オルフェがいるなら私たちにも教えときなさいよ!!」


コールとネイカはオルフェ王子を逃さないように腕を掴んだ。


「オルフェ王子、この先どうするつもりなのかちゃんと話してよね!!」

「私たちを置いて行ったら承知しないですよ!?大体ミリはどこにいるんです!?」


二人の剣幕はさすがの王子でもかわしきれないほどだ。

ここは素直に答えた。


「ミリはスアリザにいる」

「スアリザ!?どうして!?」

「ミリの悪魔に連れ去られた」

「えぇ!?」


コールとネイカの声が重なる。

王子は頷くと集まった全員を順に見た。


「俺は何としてもスアリザに戻る」


メウは顔をしかめた。


「お前がどれだけ足掻いたところでミリの運命は変わるまい」

「それでも構わない」

「…」


メウはきっぱり言い切る王子を無機質な目で見つめた。


「何故そこまでする。黒魔女に固執したところで、お前に利はないぞ」

「そんなことはどうでもいい。たまたま愛した女が黒魔女だっただけの話だ」


メウの表情がここで初めて変化した。

泣きそうに歪んだ顔を伏せるとふいと王子に背を向けた。

居合わせた女性陣はオルフェ王子の堂々たるセリフに揃って赤面していたが、当の本人はどこ吹く風で声をかけた。


「コール、ネイカ、今俺と共にアルゼラを出るのは危険だ。悪いが今俺は二人を守ることまで気を配れない」


ネイカはすぐに抗議しようとしたが、それをコールが遮った。


「…分かったわ」

「コール!?」

「ネイカ、私たちは足手まといになるのよ。オルフェ王子は一刻も早くスアリザに戻らないと」

「…」


ネイカはぐっと押し黙った。

コールは真っ直ぐに王子を見つめた。


「そのかわり半日だけ時間をちょうだい。私たちは私たちなりに出て行く方法を考えていたのよ」


王子は苦笑した。


「…無茶はするなよ」

「あなたにだけは言われたくないですから」


まとまりかけた話に、ゴズが物申した。


「待て!!おまえら簡単に言うがなぁ、まずオルフェがアルゼラから抜け出すのが一番の難関なんだぜ!?どうするつもりなんだよ!?」

「何とかするさ」

「お前絶対力技で無理やり抜けるつもりだろう!?そんなことして無事で済むかこの野郎!!」


振り出しに戻った話にぎゃあぎゃあ騒いでいると、メウが一歩前に出た。


「私が出してやる」

「メウ!?」


これには婆が口を挟んだ。


「…ミリの時とは話が違うぞ。今はユラ王自らの意思でオルフェを探しとるゆえ全力で潰しにかかってくる」

「分かっている。婆、シシルブ、ゴズ、今度はお前たちも力を貸してくれ」


ゴズは唾を飛ばしながら両手を広げた。


「だっ、おま!!前に俺にユラ王に逆らうなとか説教したよな!?」

「私は別にユラ王に逆らうのではない。巨大な結界に小さな小さな穴をあけるだけだ」

「いや、そんなの屁理屈じゃ…!!」


メウは喚くゴズを無視してオルフェ王子を睨みあげた。


「オルフェ」

「…」

「手を貸すのはこれきりだ」


メウは王子の首元に螺旋状に広がった黒い痣を見つめ苦笑した。


「馬鹿な奴だな、お前は」

「…」


オルフェ王子は黙って頭を下げた。

ゴズはまだ何か言おうとしたが、その腕をシシルブが思い切り引っ張った。


「な、何だよシシルブまで!?」

「馬鹿!!分かんないのかい!?オルフェの愛がメウの心まで動かしたんだよ!!」

「あいぃ??」

「もう!!あんたは黙ってな!!私はメウに協力するよ!!」

「あん??」

「あんたも協力するんだよ!!」


うるうるしながら言われたものだから、ゴズはますます首を傾げながら頭をかいた。


オルフェ王子は左手の指輪を外すと手の中に握りしめた。


「ミリ…」


スアリザへ行く。

ミリを取り戻すため。

そして…もう一人。


「スアリザにも最後の決着をつけに行かなければな」


オルフェ王子は手を緩めると指輪を内ポケットの中へ入れた。

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