表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
179/277

監獄の争い

何年も争っていただけありコウモリは黒魔女たちの力を熟知していた。

個人戦になれば勝ち目はないが、数の強みで魔力が尽きるまで粘るか、もしくは接近戦に持ち込めば勝てない相手ではない。

コウモリは魔力を練りこんだ武器を手に、出足から怒涛の勢いで攻めに入った。


「ほらほらどうした黒魔女さんよぉ!!今日こそお前ら全員死の川に沈めてやるぜ!!」

「しゃらくさいわ!!」


黒魔女たちは個々に散ると四方八方からそれぞれ攻撃を仕掛けた。

氷の刃は雨のように降り、巻き起された風が勢いを更に強くする。

厄介なのは攻撃の前触れが読みにくいことだ。


「リーダー!!」

「慌てるな!!土蛇を盾に攻撃を防げ!!三番隊は背後へ回れ!!」


コウモリたちの強みは連携が取れていることだ。

黒魔女たちは少しずつ押され始めた。


「背後へ引け!!馬鹿に正面から挑むことはない!!」


距離を取ればこっちのものだ。

黒魔女はふわりと浮き、安全圏である川の上へと逃れた。

だがコウモリはこの機を待っていた。

潜ませていた土蛇を地面からぼこりと出現させ、黒魔女の一人に高速で激突させた。


「な…!!」

「ほらよ、一匹上がりだ!!」


黒魔女は真っ逆さまに川へ落ちた。


「う、あ、あぁぁああ!!」


黒魔女は怒涛の勢いで現れた大量の白い手に掴まれると川の中へ引きずり込まれていった。

他の白い手もまるで嬉々として次の獲物を待ち構えるかのように水面の上をゆらゆら揺れている。


「次はどいつだ!!」


コウモリが吠えると仲間たちが揃って歓声をあげた。


「おのれ…」


黒魔女は怒りの形相で杖を掲げた。


「調子に乗るんじゃないよ!!」


あちこちで何の前触れもなく急に爆発が起こる。

その威力は凄まじく、まるで積乱雲の中にでも迷い込んだかのような激しさだ。

直撃した者たちは悲鳴をあげて何人も倒れた。


「コウモリ!!次は貴様が川に落ちる番だ!!」

「へっ、どうだか!!おいよく聞け!!この連続攻撃を凌げば黒魔女どもはしばらく魔力を使えない!!今日こそは誰一人逃さず皆殺しにするぞ!!」

「おぉ!!」


今はコウモリたちに勢いがある。

黒魔女たちは不利になるといつも空へと逃げるが、コウモリはその隙も与えないほど攻め立てた。

高みの見物を決め込んでいたフェヴリエンスは劣勢に顔を険しくした。


「全く…使えない子たちだ」


コウモリは動き出したフェヴリエンスに目ざとく気付いた。


「フェヴリエンスに魔力を使わせるな!!」


その叫びに応え、近くにいた者は一斉に襲いかかった。

だがいくら攻撃を仕掛けてもフェヴリエンスに当たる手前で全て弾かれる。

フェヴリエンスは不気味に笑うと杖を一振りした。

すると闇色の光が舞い、周りの者は一瞬で粉々に吹き飛んだ。

コウモリは舌打ちをした。


「ちっ。やはりあいつだけは格が違う!!」

「リーダー、どうする!?」

「俺が行く!!半獣どもはこっちへつけ!!」


コウモリは三十人ほどいる半獣を従えながら土蛇で襲いかかった。

スピードを生かし一気に接近する。

だがその一歩手前でフェヴリエンスは目を光らせ杖を空へと向けた。

杖を中心に現れたのは黒い竜巻だ。

まんまとそれに突っ込んだ半獣は次々と巻き上げられた。


「うがっ、ぐあぁあ!!」

「ぎゃあぁあ!!」


激しい風が乱流する中で体がバラバラに引き裂かれる。

辺りには血の雨が降り、相次いで断末魔の悲鳴が上がった。

土蛇を犠牲にして辛うじて逸れたコウモリは流石に冷や汗をかいた。


「くそっ!!厄介な悪魔め!!」

「ふっ。お前たち、本気で私に勝てると思ったのか?」


フェヴリエンスだけは手の打ちようがない。

コウモリは一旦引くと出来るだけ距離をとった。


「くそっ…、くそぉ!!やはり奴を殺れるのはベリサしかいねぇのか!!」


背後を見れば仲間が黒魔女に何人も川へ叩き落とされている。

優勢だったはずが、フェヴリエンス一人のせいで一気に流れは変わった。

コウモリは仲間に向かって叫んだ。


「ベリサだ!!先にベリサを探せ!!このすぐ近くにいるはずだ!!ベリサがフェヴリエンスさえ倒せば後は何とでもなる!!」


あちこちで応えるように声が上がった。


「ベリサ!!ベリサを探せ!!」

「ベリサは何処だ!!」


コウモリは荒れ狂う戦地の合間を縫い躍起になってベリサを探した。


「ちっ…!!こんなことならあんな小さな猫にするんじゃなかったぜ!!」


撒き散らされた粉塵が邪魔でどこを見ても視界が効かない。

もたついていると後ろから黒い風の攻撃が放たれた。


「フェヴリエンス!!」

「ベリサを元の姿にされてなるものか!!」


コウモリの周りに他の黒魔女たちも集まってきた。


「リーダー!!」

「来るな!!とにかくベリサだ!!ベリサを探せ!!」


コウモリは自分を囮にして土蛇で走り回った。

他の者たちはその隙に血眼になってベリサを探した。


「ベリサを見つけるんだ!!黒猫の姿をしているはずだ!!」

「ベリサは、ベリサは何処だ!!」

「早くベリサにフェヴリエンスを殺させろ!!」

「ベリサ!!とっとと出てこい!!」

「フェヴリエンスを殺せ!!」

「殺せ!!」

「殺せぇ!!」


怒号と共に放たれる声はもはや狂気を孕んでいた。

岩陰に隠れ、ずっと身を縮めていた私はその異様さに戦慄した。

腕の中にいるベリサの体も僅かに震えている。


「ベリサ…」

「ミリ、私を離して。…行くわ」

「え!?」

「私がやらなければ」


ベリサは腕から出ようとしたが、私は逆に力を込めた。


「ミリ?」

「だ、だめ…。だって、何でベリサがあの中に行く必要があるの?」

「フェヴリエンスを倒すことが出来るのは私だけだからよ」

「じゃあ、出来るからってなんでベリサがしなければならないの!?」

「それは…」


ベリサは戸惑いを見せた。


「私の存在意義は、もうフェヴリエンスを倒すことくらいしかないのよ」

「それ、誰が言ったの!?」

「え…」

「そんなのおかしいよ!!ベリサにそう言い続けたのは、どうせコウモリたちなんでしょう!?」

「で、でも…」


だめだ。

行かせちゃ駄目だ。

こんなの利用されてるだけだ。


「ベリサ、私は目を血走らせながらベリサに殺させろと叫ぶ奴らに命を賭ける必要はないと思う。そんな馬鹿げた存在意義なんて、その辺の虫くらいどうでもいいよ」

「ミリ…」

「命をかけるって、きっと自分が大切だと思うものを守りたい時にするんだと思う。それを決めていいのは他人じゃない。ベリサ自身なんだよ」


ベリサは明らかに動揺した。

こんな言葉なんて、かけられたことがないからだ。


「いたぞ!!あの岩陰だ!!」

「あの黒魔女が持つ猫がベリサだ!!」


コウモリ一派が大声で叫びながらこっちを指差した。

その声を聞きつけ、他の者も黒魔女たちも一斉にこっちを目指して飛んで来る。


「やばっ!!見つかった!!」


私はベリサを抱え直すと勢いよく立ち上がった。


「ミリ!!このままじゃ貴女が危ないわ!!お願いだから離して!!」

「駄目!!」

「私は悪魔よ!!簡単に死んだりはしないから離しなさい!!」


私はそれでもぶんぶんと首を横に振った。


「そんなの関係ない!!行かないでベリサ!!」

「ミリ!!」


ベリサを抱きしめる私に無数の攻撃が襲い来る。

私は無意識に結界を張ったが、何度も吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ベリサを寄越せ!!」

「させるものか!!ベリサをこのまま殺してやる!!」

「どきやがれ!!」


私の周りで激しい衝突音が連発した。

熾烈な争いが間近で延々と続く。

あちこちに煽られぼろぼろになったが、それでも私はベリサを離さなかった。

本気でこのまま死ぬなと朧げながら思っていると、突然今までにない恐ろしい雄叫びが谷中に響き渡った。


「なっ!!なんだ!?」

「今の声は…!!」


争いに迷いが生じる。

周りは一斉に空を見上げた。


「あれは…まさか…」

「な、何故あんな恐ろしい生物がこんな場所に!?」


私はハッと顔を上げた。

砂煙で視界は悪くここからはまだ何も見えない。

でも、でももしかして…!!


震える指を咥えると、私は力を振り絞り空に向けて指笛を鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ