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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
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二つの指輪

私たちは片付けをすませると玄関口へ向かった。


「そういえばユイオンが到着するまで外には出られないんですよね?」

「ウングルンドならもうユイオンを察知しているだろう」


王子は扉の取っ手を掴んだ。

軽く力を込めると扉は音を立てながらもすんなり開いた。


「…出られそうですね」


私は王子に続いて久々にミズリィの工房を出た。

外は相変わらず薄暗く不気味に枯れ果てていて、外に出た!という開放感は微塵もない。


「何だか…今すごく青空が見たくなりました」

「スアリザはいつも濃く透明な青空だったからな」


王子の口からスアリザと聞くだけでどきりとする。

私は王子の手を握った。

胸中は不安でいっぱいだったが、温かい手が力強く握り返してくる。

私はそれだけで少し落ち着いた。

王子は目を細めながら暗い空を仰いだ。


「…近いな」

「ユイオンですか?」

「ああ。呼び続けているんだが初めての場所で迷っているのかもしれん。何か合図を送れればな」

「合図…」


私は指を咥えると空に向けて思い切り指笛を鳴らした。

澄んだ音が魔力に乗って遠く響く。


ユイオン。

オルフェ王子はこっちだよ。

ダメ元でやってみたのだが、少しすると羽音が聞こえて来た。


「あ…ユイオン!!オルフェ王子、あれユイオンですよね!?」

「ミリの指笛に反応したみたいだな」


オルフェ王子が手を伸ばすとユイオンは嬉しそうに降りて来た。

それと同時に私たちの後ろで叫び声が聞こえた。


「はわわわわわ!!ど、ドラゴン!?」


いつの間に出て来たのかミズリィが真っ青になりながら尻餅をついている。


「ここ、これがウングルンド様がおっしゃっていた双頭竜ですか…!?」


オルフェ王子はユイオンにじゃれつかれながら振り返った。


「ウングルンドから話は聞いたのか?」

「は、はい。わ、わ、わ、わたしが管理しろって…。いや、いやいやいや、これ無理すぎますよね!?」


オルフェ王子はユイオンを少し離させた。


「管理などと考えなくていい。ウダムへ行きたくなった時にユイオンに頼めばいいだけだ」

「た、頼むって、どうやってですか!?」

「そうだな…」


王子はちらりと私を見た。


「何か笛のような物はあるか?」

「え?ふ、笛ですか??」

「出来ればウダムの水晶を使った物がいい」


ミズリィは急いで家に戻ると派手な音を立てて探し始めた。

しばらくすると今度は転がるように出てきた。


「こ、これでしたら、ありますけど!!」

「オカリナか。何でもいいから音を鳴らしてみてくれ」


ミズリィが震えながらオカリナを吹くと、ユイオンがぴくりと反応した。


「悪くないな。よし、このまま一度ミズリィもウダムへ行くか」

「えぇ!?」


オルフェ王子はユイオンの尾の辺りを指差した。


「ここから乗るんだ」

「ひぇ!!む、無理ですよぉ!!」

「ミリ、先に乗ってやれ」

「えっ」


私の顔は思わず引きつった。

ミズリィの手前無理とは言えない。

だが何とか頑張ってみたものの、結局私とミズリィは王子の手を借りながらよじ登った。


「ユイオン、元気になったんだね」


私はユイオンの右の首を撫でながら話しかけた。

ユイオンは私の声には反応しなかったが、オルフェ王子が声をかけ、とんと背中を叩くとすぐに空へと舞い上がった。


「うひゃあぁ!!み、ミリさん!!」

「だ、大丈夫…。ほら、ユイオンの結界のおかげでそこまで揺れを感じないし」


オルフェ王子は眼下に見える黒い屋敷を見下ろした。


「…ウングルンドだ」

「え!?」

「あの一番上の窓だ」


私には分からなかったが、オルフェ王子はその一点をじっと見据えていた。

その屋敷もみるみる遠ざかって行く。

ユイオンはぐんぐん高度と速度を上げ始めた。


「は、速い…」

「この分だとウダムまでは一時間ほどで着くな」


ミズリィは不安そうに王子を見上げた。


「あの、採掘の為にウダムへ着いたとしたら、その後はどうすればいいんでしょう?」

「帰るときにそのオカリナで呼べばまたユイオンが来る。ユイオンのことは単純に移動手段と思えばいいさ」

「移動手段…」

「逆を言えばそれ以上とは思わない方がいい。下手に手懐けようとすれば牙を剥くぞ」

「ひぇっ…」


ミズリィはとんでもない物を任されて青くなった。

…その気持ち、分かる。


程なくしてユイオンは無事にウダムへと到着した。

うようよと空を飛ぶ野生のドラゴンにミズリィはまた真っ青になった。

ドラゴンたちは以前とは違いユイオンを認識すると特に取り囲んではこなかった。


「本当に顔なじみになってる」

「本来なら双頭竜はドラゴンの中でも上位の存在だ。敵ではないと分かれば彼らも近づいてはこないさ」


なるほど。

それなら確かにユイオンでここへ来るのはそんなに危険ではないかも。

ユイオンは高度を下げるとあの憩いの洞窟へと身を滑らせた。

ミズリィは怯えに怯えていたが、エメラルドに輝く洞窟に入ると目を輝かせた。


「う、わぁ…なんて神秘的なの!?すごい…!!」

「ミズリィ、あんまり乗り出したら落ちるよ」


私はミズリィを支えながら前を覗き込んだ。

するとこっちに手を振る人がいることに気づいた。


「みぃ!!」

「あ…、お、オディ!!」


泉のそばにいたのはオディとドラゴンのミランだった。

ユイオンはミランのそばに着地した。


「みぃ!!おかえり!!」


オディは身軽にユイオンに登ってくると私に抱きついた。


「オディ、ずっとここに居たの!?」

「ううん。さっきミランといっしょにここまできたの」

「わざわざ迎えに来てくれたの?」

「うん!!」


オルフェ王子はユイオンから飛び降りた。


「ミランを連れて来てくれたのは助かるな。ユイオンをここでミズリィとウェバへ返せる」


ミズリィははっとすると慌てて私の手を掴んだ。


「ミリさん、一緒に降りてくれますか?」

「あ、うん」


私はミズリィと一緒になんとか尻尾を伝いながらユイオンから降りた。

ミズリィは私の手を引いたままオルフェ王子の元まで連れて来た。


「ミリさん、オルフェ様。お別れする前にお渡ししたいものがあります」

「渡したいもの?」

「はい」


ミズリィはポケットから小さな木箱を取り出し、私に渡した。

私がその蓋を開くと、中には淡く輝く指輪が二つ入っていた。


「オルフェ様、これをミリさんに」


ミズリィは小さい方のリングを王子に渡した。


「どうか思いを込めて、指に通してあげてください」

「思いを…」

「はい。この指輪は今お二人が共にいる証です。この先、何があってもこの指輪だけはお二人のことを忘れないでしょう」

「…」


オルフェ王子は躊躇わずに私の左手をとると、ゆっくり薬指に通した。


「お、オルフェ王子…」


流石にその意味は私でも知っている。

私は真っ赤になって俯いた。


「ミリさん、次はミリさんです」


私はミズリィに渡されたリングを見つめた。

銀色に輝くプラチナに、よくぞここまでと思うほど細かい水晶が散りばめられている。


「…もしかしてミズリィ、ずっとこれを作ってくれていたの?」

「は、はい。この指輪には沢山魔力を織り込みましたので、例え業火の中へ放り込まれても壊れたりしないんですよ」


オーロラの下で泣きじゃくった私の為にミズリィが作ってくれたのは、決して消えることのない今という時間の証…。

私は胸が詰まるとぼろぼろと涙がこぼれた。


「み、ミリさん!?」

「ごめ…、最近涙腺が…おかしくて」

「な、な、泣かないでください。私、ミリさんに笑ってもらおうと…!!」

「うん、うん。ありがとうミズリィ。すごく嬉しい」


私は涙を拭うとオルフェ王子の左手を取った。


「オルフェ王子…」

「…」

「ほ、本当に私でいいんですか??」


王子は流石に呆れた笑みを浮かべた。


「俺はもうミリに指輪をはめ終えたんだぞ」

「はうぅ…」


せっかく拭った涙もまた止めどなく流れ落ちる。

私は鼻水をすすりながら王子の薬指に指輪をはめた。


…。

…母さん。

この先私がどうなっても、私は本当はこの人の花嫁だって、母さんには言ってもいいかな。


オルフェ王子は涙の止まらない私を抱きしめ、オディとミズリィはそれを心配しながらもずっと優しく見守ってくれていた。

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