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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
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ウングルンドの屋敷

びっしり浮いていたのは、黒くて半透明な死霊だった。

その形は皆いびつで腕が欠けていたり体の半分が溶けていたりしている。

目はなくただ黒く窪み、中から金色の光がぎょろりと私たちを見下ろした。


「お、お、お、王子…!」

「騒ぐな」


目の前には大きな螺旋階段がある。

見上げれば天井は見えないほど遥か上で、その螺旋階段が永遠続いている。


「の、登るんですかね」

「そうらしいな」


オルフェ王子はまだ仄かに黒く光る剣を軽く振った。


「王子、破魔の力は…」

「心配ない。ミリ、遅れるなよ」

「は、はい」


死霊は不気味に呻きながらうろうろと飛んでいたが、私たちが一歩踏み出した途端に一斉に襲ってきた。


「行くぞ!!」


オルフェ王子は自分から前に飛び出すと剣を閃かせた。

死霊を蹴散らすその手元が目で追えないくらい速い。

私は離れないように王子の後を追った。

螺旋階段に辿り着くと脇目も振らず駆け上がる。

だが二階を過ぎた辺りですぐに異変が起こった。

階段から降りた覚えはないのに、気がつけば私たちは暗い廊下を走っていたのだ。


「あ、あれ!?階段は!?」


走りながらきょろきょろと辺りを見回していると両サイドの壁から今度は大量の黒い手が飛び出して来た。


「ぎゃあぁあ!!」

「ミリ!!」


オルフェ王子の剣が眩しく空を裂く。

黒い手は粉々になると一瞬にして全て灰になった。


「王子!!」

「いいから止まるなっ」

「は、はい!!」


壁の至るところから死霊がまた次々と姿を現しては襲いかかってくる。

私は懸命に王子について走ったが、早くも息が上がってきた。


うう…苦しい…!!

イザベラ姫の体の時はもっと走れたのに!!

しかも水晶が重い!!

走る速度の落ちた私に気付いた王子は、左手で水晶ごと私をひょいと抱え上げた。


「王子!!」

「じっとしてろ」


動きが制限された分、オルフェ王子は剣に纏う漆黒の光を強めた。

その威力は絶大で、剣をひと振るいするだけで桁違いの量の死霊を砕いていく。


でもこのままじゃ駄目だ。

何にしても私がお荷物すぎる。

何か、何か出来ることは…!?

私の黒髪が焦る気持ちに合わせてふわりと揺れる。

私は両手に力を込めると、精一杯魔力を放出した。


「んん…行けぇ!!」


私を中心に熱を帯びた風が舞い上がる。

それに触れた死霊はジリッと焦げる音をさせながら次々と焼け消えた。

熱風はそのまま私たちを守るように取り囲んだ。


「ミリの結界か」

「や、役に、たちますか!?」

「充分だ」


死霊に邪魔をされなくなった王子は真っ直ぐに廊下を突き進んだ。

だが途中でまた急に視界が変わり、私たちは暗い部屋の中にいた。

すぐに廊下に出ると今度は階段が至るところに現れる。

動けば動くほど自分がどこにいるのか全く分からない。


「な、何よこれ!?これじゃどれが本物か分からないじゃない!?」

「魔力に対抗できるのは黒魔女だけだ。ミリ、何か気付く所はないか」

「何かって…」


私は辺りを見回したが、その途端結界が不安定に揺れた。


「あ、だ、ダメだってば!!」


何とか立て直すもこれじゃ気が散ってとても周りに気など配れない。

王子はちらりと横目で私を見ると下に降ろした。


「走れるか?」

「あ、はい。少し休めました!」

「俺がもう一度死霊の相手をする。ミリは何とかこの歪な空間を打破できる手がかりを探してくれ」

「わ、分かりました!!」


私が結界を解くとあっという間に死霊に囲まれる。

王子は走る速度を加減しながら次々と迎え撃った。


「えぇと、手がかり、手がかり…手がかりって何!?」


手当たり次第部屋を開け、階段を登り、廊下を走る。

だがやはり手がかりなんて一つもない。

右も左も前も後ろも分からなくなった私はついにパニックを起こした。


「お、王子ぃ!!何もないです!!何も見えないし分からないんです!!わ、私には無理です!!」


オルフェ王子は一通り周りを片付けると、泣き言を言う私の背中をぽんと軽く叩いた。


「目で見るなら俺でもできるぞ。気配を探るんだ」

「気配!?気配って何よ!?」

「焦るな。さっきから何度か空間を跨ぐ違和感があった。恐らく無限ループしてるだろうからその出口を探すんだ」


王子は流れる汗を雑に拭うと不敵な笑みを浮かべた。


「こんな事でめげるお前じゃないだろう?」

「だって…!!」

「俺はここで力つきるつもりはないぞ」


私ははっとした。

…そうだった。

私たちにはしなければならない事があるんだ。

私がすとんと我に返ると、オルフェ王子は軽くキスをした。


「それでいい」

「ちょ…」

「行こうか」


も、もう!!

こんな時に!?

こんな時にか!?

でも不覚にも完全に落ち着いてしまった…。

私はぶるぶると首を振り大きく息を吸った。

とにかく少しでも気になるところを探さないと。


空間の出口。

体に感じる違和感。

今私たちは、恐らく黒魔女の創り出した空間にいるはずなんだ。

黒魔女の…空間。

長い廊下を走りながら私はあることを思い出した。


「…アルゼラを出た時だ!!」

「なに?」


私は廊下の壁を指差した。


「あの半透明の黒い手がいっぱいある所!!あれがこの空間の出口よ!!」


そうだ!!

そうだよ!!

メウの時だってそうだったじゃないか!!

オルフェ王子はすぐに頷いた。


「分かった、行こう」

「はい!!」


私たちはもう何度か目にした壁から出る手が蠢く場所まで急ぐと、その勢いのまま手の中へ飛び込んだ。

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