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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
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ユイオンの異変

オディのドラゴン、ミランは私たちを乗せてものすごい勢いで森に向かっていた。

オディはその間オルフェ王子の腕の中でずっと泣いていた。


「オディ、オディちゃんと話せる?泣いてちゃ分からないよ」


私が背中をさすりながら声をかけると、オディはめそめそと顔を上げた。


「ゆ、ユイオンが…悪くなっちゃった。今もあばれてるの」

「暴れてる?」

「うん。ぼくの声もきいてくれない」


王子はそれだけで事態を悟った。


「そうか。俺を迎えに来た時に外の瘴気に当てられたのか」

「ユイオン、ずっとがまんしてたんだけど、もうムリって…」

「分かった。俺が相手をする」


ミランは森が近付くと一気に高度を下げた。

だんだん地上が近付くと、森の切れ目に沢山の人と縄に絡め取られた双頭のドラゴンが見えてくる。

ユイオンは自由を奪われ狂ったように暴れていた。


「ユイオン!!み、みんなやめて!!」


オディは上空から叫んだ。

ユイオン捕獲の指揮をとるゲグド隊長が振り返った。


「オディ!!これ以上邪魔をするな!!」

「でも…!!」

「これはユラ王のご判断だ!!町に被害が出てからでは遅いのだぞ!!」


オディは涙がいっぱい溜まった目でオルフェ王子を見上げた。


「おにいさん…!!」

「お前らはここで待ってろ」


オルフェ王子は一人ミランから飛び降りた。

そのまま暴れるユイオンの背に降り立つ。


「オルフェ王子!!」


私はミランから身を乗り出した。

あんなに暴れるユイオンをたった一人で抑えられるはずがない。


「王子!!私も…!!」

「まって、みぃ」

「え…」


オディは食い入るようにオルフェ王子を見つめている。

ユイオンはまだ狂ったように暴れていたが、少しするとその動きが徐々に鈍り始めた。


「なに…?」


驚愕に目を見張ったのは、ゲグド隊長を始めユイオンを押さえにかかっていた者たちだ。

今の今までどれだけ手を尽くしても暴れていたのが嘘のようにユイオンは動きを止めた。


「いい子だ」


オルフェ王子はユイオンの頭を撫でるとそこから飛び降りた。


「すまないが縄を解いてくれ」

「あぁ!?」

「元に戻るまで俺が預かる」

「お、お前何言ってやがる!?そんな勝手なこと…!!」


ゲグド隊長は食ってかかったが、王子のアンバーの瞳と目が合うとぎくりとした。

王子は至って冷静に話した。


「ユイオンは地上の瘴気にあてられ苦しんでいるだけだ。時間が経てばちゃんと落ち着く」

「しかし、双頭竜は凶暴な異形種だぞ!?正気に戻るまで待っていれば甚大な被害がでる!!」

「だから、そうならんように俺がウダムへ連れて行くと言っている。それにユイオンは確かに双頭竜だが元は凶暴ではないぞ」

「お前に何が分かると言うのだ!!」

「分かるさ。俺が育てたからな」

「は!?」


王子がゲグド隊長と言い合っている間に私とオディも地上に降りた。

ユイオンを間近で見ると、その目は血走り息は荒く、ぼたぼたと牙の間からよだれを垂らしている。

これは確かに異常っぽい。


「ユイオン、ユイオン!!ぼくがわかる!?」


オディが両手をいっぱい伸ばすとユイオンは絞り出すように小さな鳴き声を出した。


「よかった…へんじしてくれた!!」

「まだ安心は出来ない」


オルフェ王子は私を振り返った。


「ミリ。俺は少しここを離れウダムへ行く」

「私も行きます!!」

「ウダムはアルゼラでも特殊な地域だが…」

「行くったら行きます!!」


私は王子の服の裾を掴んだ。

次に何があるか分からないのに、離れたくなんてない。

オルフェ王子は少し笑った。


「ちゃんと話を聞け」

「え…」

「ウダムは特殊な地域だが、それでもいいか?」


王子と目が合うと私はぱっと手を離した。

な、なんだ。

王子は初めから私も連れて行くつもりだったってことか。

恥ずかしい…。


「オディ、ミランにユイオンの先導を頼んでくれ」

「わかった」


オディはすぐに走るとミランの背中に戻って行った。

ゲグド隊長は慌てて王子を止めようとした。


「ま、待て!!ここの責任者は私なんだぞ!!お前は一体誰なんだ!?」

「俺はスアリザのオルフェだ。ユラ王にその名を出せばお咎めを食らうことはないから安心しろ」

「スアリザ??」


王子は私を抱き上げるとユイオンの足の付け根まで持ち上げた。


「うわわっ」

「ミリ、登れ」

「は、はい!!」


私は骨ばったところに足をかけると何とか自力でよじ登った。

オルフェ王子はそれを見届けると自分は身軽にユイオンの背まで飛び乗った。


「不安定な飛行になるだろうからしっかり掴まっておけ」

「はい」


オルフェ王子はユイオンの背を軽く叩いた。


「あのオレンジのドラゴンについて行くんだ」


ユイオンは苦しそうに呻いている。


「ユイオン、苦しませてすまない。ウダムまでの辛抱だ」


王子が根気よく話しかけていると、ユイオンは動かしにくそうに翼を広げ始めた。

私は出足から激しく揺れる足元にすぐに立っていられなくなった。


「うわっ、とと!!」


王子は片手で私を支えながらオディに合図を送った。

オディはミランを空へ向かわせ、ユイオンはふらつきながらもその後について飛んだ。


「お、おぉ!!」

「馬鹿な!!まさかあの状態のユイオンが大人しく従うなんて!!」

「信じられん!!」


見守っていた人々の間からどよめきが起きる。

ゲグド隊長も唖然としながら飛び立つ二匹のドラゴンを見送った。


ぐんぐんと高度が上がるに連れ、私は体にかかる負担に耐えきれなくなっていた。

息もしにくいし何より寒い。


「お、オルフェ王子!!なんか、か、風当たりが強くないですかね!?」

「ユイオンに結界を張る力がないのだろう」

「な、生身で空なんか飛んだら、ま、ま、まずくないですか!?」

「ミリはオディのドラゴンへ移るか」

「え、王子は!?」

「俺はここでいい」


王子だって体は生身だ。

私と同じように呼吸は浅くなっている。

だがユイオンが心配で離れる気はないのだろう。


…ん?

待てよ。

そういえば確か寒い時には…。

私は自分の内側へ意識を集中してみた。

すると魔力が溢れるように流れ出してきた。


「うわっ!!ちょ、待って待って待って!!」


私は慌てて目を閉じると、なみなみと溢れる魔力を留めた。

そして私を中心に丸く広がるイメージを浮かべた。

それに合わせて呼吸が楽になっていく。


「ミリ…?」


目を開くと王子の驚いた顔が見えた。


「この結界はミリが張ったのか?」

「…上手く、いってます?」

「一体いつの間にこんなことを?」

「たった今です」


別に結果を作った意識はなかったが、どうやら私の魔力でちゃんと守れるらしい。


「アルゼラでは魔力が高まるって聞きましたが、本当ですね」

「いや、それだけでは急にここまでにはならないはずだ」

「え…」

「どこかでミリの本来の力が引っ張り出されたのかもしれない。心当たりはあるか?」


心当たり。

魔力が引き出された、心当たり…。


「…あ!!もしかしてユラ王!!」

「ユラ王?」

「あ、いえ…」


そうだ間違いない。

オルフェ王子を助ける時にかなりの魔力が私から引き出された。

思えばあの時から体の芯に感じる魔力が強くなっている。

私は難なく結界を作る両手を見つめた。


「…なんか、いよいよ黒魔女ですよね」

「そうか?ミントリオで見た姿よりはインパクトはないぞ」

「あれはただネイカのウツボに乗ってただけですし…」

「ウツボ?」


王子はエアラの姿を思い出すと笑いだした。


「お、王子??」

「あれをウツボ扱いできるのはミリだけだな」

「あ、しまった。ネイカには言わないでくださいね?」


私が慌てると王子はますます楽しそうに笑った。

私たちは危なっかしく飛ぶユイオンを励まし続け、時間をかけながらも何とかウダムに無事到着した。

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