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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
159/277

スアリザの闇

「ミリはスアリザについてどれくらい知っている?」

「えっ」


話の出だしの質問から私は大きく詰まった。


「えと…。大陸南部で一番大きな国で、それなりに栄えています」


うわっ。

引く!!

自分で引く!!

子どもレベルの答えだぞこりゃ。

いかに興味ないか丸出しだな。

王子も流石に呆れた。


「お前…商売人ならもう少しくらい知っておけ。そんなんだから自国の王妃が変わっても知らないんだぞ」

「だ、だって。私、ほんっと引きこもってたんだもん」

「まぁ、そこまで何も知らんのなら逆に偏見や間違った知識はないな」


私は無知が恥ずかしくて両膝を抱えたが、王子は気にせず続けた。


「今でこそ大陸南部のサファイアと言われるスアリザだが、あそこは昔魔物の巣窟と言われるほど荒んだ地だったそうだ」

「そういえばミントリオでそんな話を聞いたような…」

「表の歴史では後にスアリザ人と呼ばれる者たちの手によって見事に開拓したとされているが、実はその手段などは一切言い伝えられていない」

「手段?」


王子は足元に寄ってきたドラゴンを手ですくった。


「俺は王宮で何度も調べてみたが、いくら古い書物を開いてもやはり手掛かりすらなかった。それもそのはずだ。スアリザが抱える闇の深部はその手段にこそあったのだから」

「闇の深部…」


何だか一気にきな臭い話になったぞ。


「ミントリオでバジリスクが人間の為に生贄にされていただろう?あれと似たようなものだ。いや、あれ以上の手段で今もスアリザは守られ続けている」


私はよく分からなくて首を傾げた。


「つまり、スアリザでも魔物を利用して国を守ってるってことですか?」

「魔物ではない。もっと上だ」

「…上」

「そうだ。ミリもよく知っているだろう?」

「まさか…」


ひきつる私に王子は頷いた。


「そう、悪魔そのものだ」

「えぇ!?まさか!!」

「王宮の地下には今でも悪魔が眠っている。封じた悪魔はスアリザに魔物を寄せ付けず、更に王家にだけ与えられたその力は現在も継承されている」


ま、待て待て待て!!

黒すぎないかスアリザ!?


「あ、その継承される力ってもしかして…」

「魔物を一瞬にして闇に返す、破魔の力だ」


やっぱり。

オルフェ王子の漆黒の剣だ。

あれはそういう事だったのか。


「本来ならばこの破魔の力は悪魔の秘密と共に後継者である長兄のみに引き継がれるのがセオリーだそうだ」

「じゃあ、どうしてオルフェ王子が?」

「俺は六歳の時に自力でそこにたどり着いてしまった」

「え…」

「声が聞こえたからな」

「あ…」


そうか。

王子には悪魔の声が聞こえるんだった。


「封印された悪魔が王子に力を与えたんですか?」

「いや。悪魔は眠ったままだった。俺に力を与えたのは悪魔の…代行人てとこだな」

「代行人?」


私は首を傾げたが王子はそれには答えずに続けた。


「それも成り行きのようなものだ。俺が力を得たということは現王から力が消える。父はすぐに気付くと俺の元へ飛んできたぞ」

「破魔の力が得られるのは一人だけなんですね」

「そうだ。本来なら王位継承の儀式の後で破魔の力も引き継ぐのが手順だそうだが、俺のせいでそれがすっかり狂ってしまった」

「オルフェ王子が力を得たんですから、そのまま正式な王位後継者にならないんですか?」

「悪魔の存在は公にできない。正当な理由が言えないまま俺が王位を継ぐなどと言えば周りが黙ってはいないだろう」

「…なるほど」


やっぱりややこしいぞ、スアリザ。


「父は悩みに悩んだ末に、俺の破魔の力は伏せたまま歪みあうセシルとブレンにも悪魔の存在を知らせることにした」

「えっ」

「実力や功績だけでなく、その存在を知った上で俺たちがどう動くのかを見たかったのだろう。破魔の力の問題は二の次にしたわけだ」


なるほど。

現王もなかなか大変そうだな。


「セシルとブレンの意見はここでも真っ二つに割れた。セシルは悪魔の存在は今まで通り伏せ、出来るだけ人の力でスアリザを守るべきだと言った。代わってブレンはそんな大きな力があるのなら、こそこそ隠したりせず更に有益に使うべきだと主張した」

「…なんか、性格が出ますね」

「そうだな」


私はちらりと王子を見た。


「オルフェ王子は?」

「ん?」

「王子は、なんて主張したんですか?」

「…」


王子は少し考えてから言った。


「何も」

「え?」

「俺は無関心を貫き通した」


二人の兄から見ればこの三男はさぞ覇気もやる気もないぼんくらに見えただろう。

いや、もしかしたらスアリザ王もそう思ったかもしれない。

…でも私は騙されないぞ。


「そういえば王子の最終目標は何かの解放、そう言ってましたよね。それってその悪魔のことですよね?」


悪魔を解放する。

そんなこと一言でも言えば一生幽閉されてもおかしくないだろう。

王位継承権に微塵も興味がないのなら、王子の態度はある意味一貫している。

ここで私は疑問を口にした。


「王子はどうしてそこまでして悪魔を解放したいんですか?」

「…」

「約束した友って…?」

「それは…」


オルフェ王子は曖昧な笑みを浮かべた。


「言えない」

「えっ」

「すまない」


こうはっきり言われては追求は出来ない。

私はちょっぴり不貞腐れたが今は大人しく引いた。


チビドラゴンたちはよちよち歩きながら代わる代わる私の足を登ってくる。

何度かそれを地面に返しながら私は続きを促した。


「で、ブレン王子とセシル王子は現在も反発しながら王位継承権を争ってるってわけですね」

「そうだな」

「オルフェ王子はセシル王子派なんでしょう?」

「表向きはな。だがやはりというか、向こうから先に裏切ってきたからな」

「へ?」

「俺がパッセロで追われる身となったのはセシルの命令があったからだ」


オルフェ王子は簡単にパッセロでの出来事を話した。

やっと王子が追われていた事情を聞いた私はもれなく憤慨した。


「オルフェ王子がシウレ姫殺しの真犯人!?しかも黒魔女を使って王座まで狙ったですってぇ!?そういえば王子としての肩書きは失うって…そういうことだったんですか!?」


しかもそのせいでコールまで追われる身となったと言うのだからこっちとしては申し訳なさと怒りしかない。


「王子、レイは!?」

「…」

「レイはどうして王子の無罪を主張しなかったんですか!?」


オルフェ王子の瞳に初めて翳りが落ちた。


「レイは…あれはあれで仕方がないんだ」

「え…?」


王子の言葉にどきりとする。

老婆の鏡に映ったレイ。

王子の危機の、元凶…?

私は気になって仕方がなかったが、王子の態度はこれ以上聞かれることを拒否している。


レイ…。

どうしちゃったのよ。

セシル王子に裏切られるよりレイに裏切られる方が、オルフェ王子はよっぽど辛いじゃないか。

重い空気になったが、王子は気を取り直すと顔を上げた。


「とにかく、簡単なスアリザの裏事情はざっとそんなもんだ」


私もここは王子に合わせた。


「色々黒いですねぇ」

「まぁ、事情は異なれど王族などどこでも揉め事の宝庫だからな」

「うわぁ。やだやだ」


私は色々考えを巡らせながらふと気になった事を口にした。


「でもオルフェ王子。それなら王子が相手にしてるのは一体誰なんですか?」


王子の目は途端に鋭くなった。

私は気付かずに感じた違和感をそのまま話した。


「セシル王子もブレン王子も、向こうはオルフェ王子のこと敵認定してても王子は違いますよね?」

「…」

「でも王子はスアリザに揺さぶりをかけたと言っていました。それは誰に対してなんですか?」

「…」


私は王子が答えなかったので振り向いた。

王子は私と目が合うと何故かそっとキスをした。


「…ミリは、本当にそういうところが鋭いな」

「へぁ…!?」


不意打ちに固まっていると、上空から大きな羽音が近づいて来た。


「はわわ!!ドラゴン!!」


一際大きなドラゴンが私たちの目の前に舞い降りる。

そこから転がるように降りて来たのはオディだった。


「みぃ!!おにいさん!!」

「オディ、そんなに慌ててどうしたの!?」


オディはオルフェ王子に飛びついた。


「おにいさん、たすけて!!ユイオンが…ユイオンが!!」

「ユイオン?」

「ユイオンが、ころされちゃう!!」

「なに…」

「いいからきて!!」


オディは泣きながら懸命に叫んでいる。

私たちはオディのドラゴンで急いで森へ向かうことにした。

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