表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
157/277

黒魔女メウの尋問

私たちはコテージの玄関から外へ出た。

メウの家はここからなら歩いてすぐらしい。


「ミリ」


オルフェ王子は私を隣に呼ぶと当たり前のように手を繋いだ。

なんか…嬉しいけど恥ずかしくて落ち着かないぞ。

私は誤魔化すように話題をふった。


「それにしてもオルフェ王子がここに住んでいたなんてまだ信じられません」

「そうだろうな」

「王子から見てあの人達はどんな人なんですか?」


オルフェ王子は少し考えた。


「母はここで共に過ごすことはなかったからな。皆保護者代わりといったところか」

「保護者、ですか」

「代わる代わる俺の世話をしていたように思う。俺はしょっちゅう抜け出しては雪オオカミとドラゴンの巣へ行っていたからな。よく皆に怒られてた」

「王子がですか?」


何だか意外だ。

王子にもちゃんと子ども時代ってあったんだな。


「オルフェ王子のお母様はどんな人だったんですか?」

「母は…そうだな。優しすぎる人というイメージだな」

「優しすぎる?」

「母は何不自由なく育ったせいか良く言えば純粋、悪く言えば流されやすい人だった。まぁユラ王の姪ともなれば仕方がないのだろう」

「え!?あのユラ王の!?」

「そうだ。ユラ王の妹君がレメカへ嫁ぎ、そこで生まれたのが俺の母ソニアだ」


ユラ王の姪…。

そんな人がスアリザ王と出会い恋に落ちたのか。


「経緯は知らんが母はここの者達に良く好かれていたな。あのメウでさえ母のことは慕っていたようだからな」

「メウさん…」


黒魔女だというメウ。

歳はネイカと変わらないくらいに見える。

右半分が闇のように真っ黒に染まり、すっぽりとかぶったフードの下からは金色の目が光っていた。


「ゴズさんはどうしてメウさんをあんなに怖がってるんですか?」

「メウは怖いぞ。それにここの最年長者でもある」

「最年長者…??」


私は一瞬誰の話か分からなくなった。


「メウはあれで婆の二倍は歳上だそうだ」

「え!?」


あのお婆さんの二倍!?

バカな!!


「え、でもだってメウさんは黒魔女なんですよね!?」

「その辺りの事情は知らん。なにせ俺も初めてメウが黒魔女だと聞いたくらいだからな」

「…」


短命なはずの黒魔女が少なくとも人以上に長生きしている。

一体どうして…。

ううん、どうやって…?


…。

…いや、やめよう。

きっとメウにはメウの事情があって、変に詮索したり期待を持ったりするのは失礼な気がする。

一人で悟りを開いていると、オルフェ王子がこんもりと雪が山形になったかまくらの前で足を止めた。


「着いたぞ」

「えっ」


軽くしゃがんでかまくらを覗くと木の扉がついていた。


「ここがメウさんの家ですか??」

「そうだ。昔は何とも思わなかったが今見れば小さいな」


王子がノックすると自動的に木の扉が内側へと動いた。

王子は屈みながら扉をくぐり、私もそれに続く。

思った通りというか、中は外見からは想像できないほど広い部屋だった。


「う、わぁ…」


そこは見事なほどの黒一色の部屋だった。

家具も、カーテンも、何もかもが落ち着いた黒だ。


「素敵…」


ここで一生を過ごせたらどんなに心落ち着くだろう。

やっぱ黒は最高だわ。

うっとり魅入っていると王子が面白そうに声をかけた。


「黒薔薇の間を思い出すな。今思えばあれは黒魔女の好みなのだな」

「そうかもしれませんね。ほんと、素敵」

「そんなに好きならミリの部屋はまた黒一色にすればいい」

「私の部屋?」


王子は私の手を軽く握った。


「ミリ、いつか二人でアルゼラで暮らそう」

「え…」


私の目はまん丸になった。

鈍くもどういう意味か聞こうとしたが、それはかしゃんと杖をつく音で止められた。

振り向けばいつの間にかメウが部屋の真中に立っていた。


「戯れ言だな。アルゼラにいても悪魔に取り憑かれていることに変わりはないぞ。そこの黒魔女も、お前もな」

「メウ…」


メウは手にした杖をオルフェ王子に向けていた。


「誰にも見抜かれぬとでも思ったか?オルフェ、お前は外で最もしてはならぬ禁を犯したな」

「…」

「何処ぞの悪魔の力を受け継いだのかは知らぬが禍々しい血が見えるぞ」


私は本気で驚いた。


「え…と、は…??あの、どういう事ですか?」


悪魔の力??

な、何言ってるんだ??

メウの迫力は恐ろしいほどだが、王子は至って冷静だった。

それどころか不敵な笑みを浮かべると悠々と腕まで組んだ。


「メウが黒魔女だとは予想外だったな。ユラ王以外に見破られるとは思わなかった」

「おのれ…憎きスアリザ王の息子よ。ソニア様の面影が無ければ八つ裂きにするところだ」


メウの気配が更に物騒なものへと変わる。

私は慌てて二人の間に割って入った。


「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「ミリ、前に出るな」

「出ますよ!!王子!!まだ私に隠してることがあるんですね!?」


私は眉をつりあげると王子に食ってかかった。


「悪魔の力ってなんなんですか!?オルフェ王子は私の悪魔を見たときは驚いてましたよね!?もしかしてあれはふりだったんですか!?」

「お、おい。落ち着け」

「落ち着けるわけないでしょうが!!」


私はメウを振り返った。


「メウさん、ちょっと待っててください!!どういう事か私がきっちり絞って聞きますから!!」

「…」

「あ、メウさんを信用してないわけじゃないんですよ!?オルフェ王子はすぐに誤魔化したり上手くはぐらかしたりするから、慣れてる私が全部吐かせます!!」


息巻いて言ったが、メウは無表情のまま私を眺めているだけだ。

部屋の中はしんと静まり返った。


あ、あれ。

なんか間違えたのか、私。

空気のおかしさに困惑していると後ろからオルフェ王子の吹き出す声が聞こえた。


「え、え??」


メウは小さく肩をすくめると杖を下ろした。


「…ふん。気が削がれたわ」

「へ?」


私は笑いを堪えている王子を振り返った。


「王子…何でそんな笑ってるんですか」

「いや、お前はすごいな」

「…。絶対馬鹿にしてますよね??」


王子は笑いながら私をぎゅっと抱きしめた。

メウは杖を持ったままどさりと長椅子に腰かけた。


「オルフェ。その穢れた血ではどのみちアルゼラで暮らすことは出来まい。どうするつもりか」

「決着はつけるつもりだ。折を見て俺は一度スアリザへ帰る」


え。

スアリザへ?

オルフェ王子は微塵も揺るがない瞳で続けた。


「あっちにもそれなりの事情がある。大きく揺さぶりはかけた筈だから俺が戻る頃にはスアリザも相当荒れているだろう」

「…」

「俺の力の源はスアリザの王宮に眠っている。混乱に乗じてアレを解放するのが俺の最終目的だ」


黙って聞いていたメウは恐ろしいほどの眼光で王子を睨んだ。


「…下手をすればその国ごと消滅しかねんぞ」

「…」

「それにそんなことをしてもお前自身がどうなるか保証もない」


王子は静かに頷いた。


「それでも俺はアレをこのまま眠らせてはおけない。それが友との約束でもあるからな」


メウは唸るように喉を鳴らした。

杖についた装飾がかちゃりと音を立てる。

部屋の空気がメウを中心に不穏に揺らめいたが、やがてそれは徐々に落ち着いた。


「…勝手にしろ。ユラ王にはお前からちゃんと話すんだな」


メウは立ち上がるとそれだけを言い残して消えた。

メウがいなくなると、私は自分が汗をかいていることに気付いた。

威圧感は半端なかったようだ。


「お、王子…」


オルフェ王子も吐息をこぼすと力を抜いた。


「とりあえず、難関は一つクリアしたか」

「へ…?」

「ミリのおかげだな」


王子は私の頭にぽんと手を乗せた。

私は今聞いた会話に到底納得いかなかった。


「オルフェ王子…」

「ん?」

「ちゃんと、私にも分かるように説明してください」

「…」

「王子は一体、何を考えているんですか?」


近付いたと思ったのに、遠い人。

王子はまだまだ私の知らない事を沢山抱えているんだ…。

私が硬い顔をしていると、むにとほっぺを摘まれた。


「ミリ、今度ドラゴンの巣を見に行こう」

「…」

「それからせっかくアルゼラまで来たのだから他の地域も見て回ろうか」

「王子…」


私が怒った顔になると王子はいつもの美しい笑みを浮かべた。


「そう恐い顔をするな。急ぐ事はないだろう?ちゃんと話すから」

「…本当ですか?」

「本当だ」


あやしい。

もう何度王子を信用しかけて裏切られたことか。

私はまだ疑り深い目をしていたが、結局この日は王子からこれ以上何も聞き出すことは出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ