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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
ミリとオルフェ
156/277

聞こえる者

騒ぎながら部屋に入って来たのは老婆と共にいた大男と蛇女だった。


「お嬢ちゃん!!無事に戻って来たんだってな!?よかったなぁ、俺は心配してたんだぞ!!」


大男は隣に立つオルフェ王子の肩に腕を乗せた。


「しかもその相手があのチビのオルフェだったんだって!?いやぁ、これはもう運命を感じるな!!」


オルフェ王子は大男の手を払った。


「ゴズ、俺はもう五歳の子どもじゃないぞ」

「全くだな。あの頃はどんなに生意気でも可愛かったのにただの男になりやがって!!」


嘆いていると後ろから蛇女の蹴りが入った。


「邪魔だよ。いつまでそこで喚いてるんだ。早く中へ入ってよ」

「痛ぇなシシルブ!!」


ゴズは蛇女に怒ったがその隣にいるメウと目が合うとそそくさと部屋の中へ入った。


「みぃ!!」

「あ、オディ」


大人の間を縫ってオディが私に飛びついて来た。


「みつけた。みぃ、どうしてへやにいなかっの!?」

「ご、ごめん」

「いいよ!」


オディは嬉しそうに私の懐に顔を埋めた。

老婆は掠れた声で笑った。


「オディを見ていると昔のオルフェを思い出すの」

「おぉ、似てる似てる。オディの方が可愛げあるがな」


ゴズは大仰に頷きながらガハハと笑った。

人数が増えた部屋はごちゃごちゃとしたが、それぞれおもいおもいの場所に腰を下ろすと喋り始めた。


「えーと、あんた名前何だっけ?」

「え、あ、ミリ…です」

「ミリね。私はシシルブ。まだ言ってなかったよね?」


蛇女シシルブは勝手にお茶をいれながら王子の顔をまじまじと見た。


「いやぁ。昔から男前になるとは思ってたけど…オルフェ、あんた綺麗な顔のままだね。ほんとソニア様そっくり」

「シシルブは変わらないな」

「バカね!!よく見てよ!!ユンプトちゃんは死んじゃって、この子は二世なんだから!!」


シシルブに巻きつく大蛇が鎌首を上げてかぱりと大きな口を開けた。

私は首をすくめた。


「あれ?ミリは蛇が苦手?」

「いや、その、……はい」

「黒魔女なんか蛇よりよっぽど怖いもの飼ってるじゃないの」


飼ってる…。

もしかして悪魔か。

悪魔のことなのか。


「それにしてもソニア様がお亡くなりになっていたのは本当に残念だわ。あの方だけは私たちに何の偏見もなく接してくださったのに…」


シシルブが言うと全体的に少し沈んだ空気になる。

ゴズは頭をかきながらため息をついた。


「全く…ここから出られるならあの時俺もソニア様を護衛しに行ったのによぉ」


私はずっと気になっていたことを口にした。


「あ、あの。今こんなことを聞いていいのかは分からないんですけど…」


全員の目が私に集まる。

私の顔にみるみる血が上った。


「え、えと。この場所は一体何なんですか?あなた達は、一体…」


私の質問に更に空気が重くなった。

えと。

やっぱり聞いちゃいけなかったか。


「すみません…」


謝りながら小さくなると、老婆が首を横に振った。


「謝ることは何もないわい。それに隠すことでもない。わしらはな、一言で言うと聞こえる者の集まりじゃ」

「聞こえる者…」


私は腕の中のオディを見下ろした。


「そう。魔物やドラゴン、それから闇に悪魔。わしらは魔に属する者達の声が聞こえるんじゃ」

「…そうなんですか」


私があっさり頷くと皆揃って驚いた顔になった。

え、なになに。

だってアルゼラ自体がもう魔法みたいな国じゃないか。


「ミリ、これはアルゼラでも問題視されるほど危険な事なんだよ」


シシルブは焼き菓子をつまみながら言った。


「魔物やドラゴンと交流出来るんだ。私たちがその気になればこんな世界、あっという間にどうとでもなる」

「えっ」

「いや、しないけど。っていうかしない為にここに閉じ込められてユラ王に管理されてるんだけどね」

「え…」

「ここはアルゼラであってアルゼラでない場所。ただの地上だよ」


へ??

ただの地上の意味が分からん。

今度は王子が説明してくれた。


「俺たちは国を渡り歩きパッセロまで来た。だがそこから先ビガ山を乗り越え北上しても実はアルゼラに辿り着くことは出来ない」

「えっ??どうしてですか??」

「アルゼラという場所は地上にはないからだ。アルゼラは、地上と魔が存在する空間の狭間に漂っている」


んー…。

………。

ダメだ。

頭がついてこないぞ。


「えーと…?」

「つまり別次元に存在している。アルゼラから出入りする時、体に違和感がなかったか?」


あ、あった!!

それはあった気がする!!

なるほど、あれはその別次元を行き来するからだったのか!!


「でも、私別に普通にアルゼラへ入れましたけど…」

「まぁ、入れないこともない」


オディが私を見上げて言った。


「正しい道をとおるんだよ。マリョクもないとダメ。あとはわるい心だと王さまに見つかっちゃうの。それからぼくがいれば夜になるといっしょにアルゼラへとべるよ」


分かるような、分からないような。

とにかく普通の人間には不可能ってことか。

それにしても凄いな、ユラ王。

王子は続きを話した。


「本物のアルゼラと何もない地上のアルゼラを自由に行き来出来るのはドラゴンだけだ。頭のいい彼らはあえて地上を繁殖地に選び大人になればアルゼラへ帰ってくる」

「地上の方が安全なんですか?」

「地上だと吸い上げられる魔力が圧倒的に少ない。だが逆を言えば襲ってくる敵も弱い物ばかりだ」


ドラゴンにも敵がいるのか。

いったい誰があんな恐ろしい生物を襲うのか気にはなったが、あまり話の腰も折れないので聞くのはやめた。

シシルブはピンクの飴を口に放り込みながら言った。


「ま、私たちも同じ理由でこの地上に閉じ込められてるのよ。ここじゃ使える魔力もたかが知れてるし、魔物も悪魔も少ないしね」


少ない。

アルゼラから見たら地上の魔物は少ないのか…?

規模が読めん。

シシルブは王子とオディを順に指差した。


「私たちの中でも、オルフェとオディみたいにドラゴンの声まで聞こえる人は本当に希なのよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。ドラゴンと交流出来る者は年齢問わずドラゴンの管理者に任命されるわ。オディなんか三歳から任されてるんだから」

「三歳!?」


オルフェ王子はオディの頭を撫でた。


「出来ぬことではない。俺たちは生まれた時からありとあらゆる声を拾う為か精神発達が異常に早いと言われている」

「いや、早くても三歳なんて…」

「俺もそれくらいから管理者としてユラ王に任命された覚えがある」


王子がドラゴンの管理者??

ピンとこないが、分かるところもある。

サクラの事だ。


王子は何としても無事にサクラを卵から孵そうとしたという。

ドラゴンを手中に収める為ならば分かるが、王子は別に権力に固執していないし何ならサクラを自然に返すことに協力的だった。

サクラはサクラで、初めからずっと王子には懐いている。

ミントリオでは身を呈してまで王子を助けようとしていた。


「王子には、ずっとサクラの声が聞こえていたんですか?」

「明確に聞こえていたわけではない。サクラはまだ幼いからな。それでも感情くらいは読み取れる」

「…」


ここへきて私は今までのオルフェ王子の行動や言動が急に理解できる気がしてきた。

王子の基本は、きっとこのアルゼラにあるのだ。


「オルフェ王子がスアリザで馴染まない理由が分かりました」

「馴染んでないか?」

「はい。器用に渡り合ってますけど、なんか違いますもん。そりゃ変わり者だの食わせ物だの言われますよ」

「ミリには言われたくないぞ」

「ぐっ…。悪かったですね」


私はメウと目が合うと王子に向かって唇を尖らせた。


「そういえば王子、私のこと黒魔女だって珍しがってましたけど身近にいたじゃないですか」

「なに?」

「メウさんなんて私よりよっぽどちゃんとした黒魔女じゃないですか」


この発言には周りが揃って飲んでいたお茶でむせた。

ゴズなんかはメウに見えない場所から大慌てで両手でばつ印を作っている。


え、なに?

メウにはあまり触れない方がいいのか…?

オルフェ王子は驚いた顔でメウを見つめた。


「…黒魔女?」


私はきょとんとした。


「え、もしかして知らなかったんですか?」

「…」


メウはすっと立ち上がると私たちに背を向けた。


「オルフェ」

「…」

「後でこっちにも顔を出せ」


それだけを言い残すとメウは部屋を出て行った。

王子は私の頭に手を乗せた。


「ミリも付き合え」

「え」


私は戸惑ったが、黒魔女メウは気になる存在だ。

ゴズたちはやめておいた方がいいと散々止めたが結局オルフェ王子とメウの元へ行くことにした。

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