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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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ユラ王

オディはクレレントを連れて急いで戻って来た。

クレレントはユイオンを見ると苦い顔になったが、すぐにその背に飛び乗るとオルフェ王子の状態を確認した。


「…確かにこの男から何かおかしな気配がするね。これは城に行かなきゃ手に負えないかも」


私は血が止まらない王子の肩を押さえながら泣きそうになった。


「何でもいいので早く手当させてください!!」

「分かってる。オディ、ユイオンにこのまま城まで運ばせて」


オディは頷くとぽんぽんとユイオンの首元をたたいた。

ドラゴンはそれだけで反応をすると羽を広げ再び空へと舞った。

町から城まではほんのひとっ飛びだ。


「全く…こっちもユイオンが森から出て行って大騒ぎになってたんだからね」


クレレントは厳しい顔で言った。


「オディ、あんたは管理者だ。ユイオンを勝手に動かしたとなると…」

「ぼくがよんだんじゃないよ。ユイオンはね、このおにいさんをむかえにきたんだよ」

「え…」


クレレントは目を見張った。


「詳しく聞きたいところだけど、もう着くか。後でちゃんと話してよ」

「うん。わかった」


ユイオンは城の三階にあるバルコニーに着地した。

クレレントは飛び降りるとすぐに馴染みの大臣を捕まえ、大至急救護班に来てもらうよう頼み込んだ。


私は目を閉じたまま動かないオルフェ王子をただ抱きしめていた。

とくん、とくんと手で押さえた傷口から命の色が落ちていく。

…何でもいい。

何でもいいから早く、早く誰か何とかして!!


よほど悲壮な顔をしていたのか、オディが慰めるように私にきゅっと抱きついた。


「みぃ、だいじょぶだからね」

「う、うん。…ネイカは?」

「あのおねいちゃんもだいじょぶ」


永遠に感じる時間に耐えながら救護班を待っていると、ユイオンの下からクレレントの慌てふためく声が聞こえた。


「ゆ、ユラ様!!」

「ユイオンがアルゼラの外まで出ていたらしいな」

「そ、それは…」

「あれは森から決して出すなと言いつけていた筈だ。お前の倅は何をしていた」

「申し訳ありません」

「今すぐに森へ返させろ。その後で話がある」


クレレントは身振りを大きくして男に訴えた。


「ユラ様!!その前に今はユイオンが連れてきた怪我人がいます!!先にその手当をお許しください!!」

「…」

「オディの話ではユイオンは自らその者を迎えに行ったそうです!!」

「…何?」


男は双頭竜、ユイオンを見上げた。

右手をかざすと体から青白い靄がゆらりと揺れる。

ユイオンの背にいた私たちの体はまた突然宙に浮いた。

何が起きたのか分からないうちに地上に降ろされる。

オディは目の前の男に首をすくめるとさっと私の後ろに隠れた。


「…おうさま」

「えっ」


王様!!

王様といえばアルゼラを出るときに追いまくってきた油人形を操る総元だよな。


思わず見上げると何とも迫力のある黄金の瞳と目が合った。

その人の貫禄と落ち着きが老成した雰囲気を醸し出している。

獅子のような髪は雪よりも白く、所々に見える逞しい肌にはびっしり刺青が入り、それは両頬まで続いていた。

私はその眼光だけで痺れたように動けなくなった。

なんていうか…恐すぎる。


ユラ王は何故かオルフェ王子を凝視したかと思うと低い声で言った。


「封じられたものが、解けかかっているようだな」

「え…」

「この男は私が引き受けよう」


クレレントもオディも目が落ちそうなほど丸くなった。

余程意外な申し出だったようだ。


「ゆ、ユラ様自らがですか!?」

「そうだ」

「ですが…!!」


ユラ王は王子に手を伸ばした。


「小娘、その男から手を離せ」


私は無意識に王子を引き寄せた。


「い、い、い、嫌です!!連れて行くなら私も行きます!!」

「…」


クレレントが慌てて私の隣にしゃがみ込んだ。


「ミリちゃん…!!」

「邪魔はしません!!ただ、今離れるのは…嫌なんです」


ユラ王は目を細めながら右手をかざした。

私が震えながらも抵抗の意思を見せていると、急に体が軽くなった。


「わわっ!!」

「みぃ!!」

「ミリ!!」

「ミリちゃん!!」


私とオルフェ王子の体がみるみる半透明になっていく。

私はコールを振り返った。


「コール!!ネイカをお願い!!」

「ミリ!!」


コールに叫んだのを最後に、私と王子は跡形もなくその場から消えた。



私はまたおかしな空間に入ったことを体で感じ取っていた。

流石にそろそろ慣れてきた自分がいる。

腕の中のオルフェ王子の体温を確かめてからそっと目を開いてみた。


ネイカの時は全部蒼い水の中のような空間。

クレレントに連れられた時は宇宙に似た空間。

アルゼラから抜け出す時はぐにゃぐにゃと薄暗く揺れる空間。

そしてここは、オーロラの中のような空間だった。


…綺麗。

ぼんやりと辺りを見回していると、突然目の前にユラ王が現れた。


「うわっ!!」


思わず悲鳴をあげたがユラ王は私など完全無視でオルフェ王子を見下ろしていた。


「…ソニア」

「え…」

「よく似ている」


似ている??

首を傾げているとユラ王は私を横目で見た。


「黒魔女よ」

「はっ、はい!!」


ばれてる!!

さすが!!


「ここへ来たからにはお前の力を使わせてもらうぞ」

「へ?」


ユラ王は私の腕を掴んだ。

すると途端に私の体の芯が熱くなった。


「うっ…!!」

「半人前か。未熟な魔力だが…」


私から風が巻き上がるように魔力が流れ出ていく。

それはオーロラを突き抜け、一回りするとオルフェ王子を取り囲んだ。


「あ、熱い!!」

「今夜一晩、ここでそれに耐えよ」

「えぇ!?」


これは正直かなりきつい。

まるで電流が何度も私の体を突き抜けていくみたいだ。

こ、こんなのを一晩中!?


「その者の目が開けば治癒の証だ。それまで耐えれんと言うのならば諦めても構わん」

「うぐっ…、あ、き、らめま、すぇん!!」


私がオルフェ王子を抱き直すと、ユラ王は薄い笑みを残してこの場から消えた。

気を抜けば意識を手放しそうなほどの負荷が襲い続けてくる。

私は一人になった途端早くも挫けそうになったが、その時オルフェ王子の指がわずかに動いた。


「お、うじ…」


私は王子の指を握った。


「おね、がいですから、さっさと目を開いて、くだ、さいよ!!」


私の声は言葉からすぐに呻き声に変わった。

七色に輝くオーロラは静かに揺れ、私たちを見守るかのようにただ優しい光で包みこんでいた。

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