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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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ユイオン

夜空まで震撼させる不気味な咆哮はその場にいる人間を残らず凍りつかせた。


「な、なんだ!?何事だ!?」

「魔物か!!」

「いや、あれを見ろ!!」


厚くかかっていた雲が切れ、満月を背負い姿を見せたのは二俣の首を持つ巨大なドラゴンだった。

兵たちは恐ろしさのあまり腰を抜かした。


「ど、ど、ドラゴン!!」

「まさか!!こんな場所になぜ!?」

「ひいいぃ!!」

「なんて異形な姿だ!!」

「手を出すな!!間違っても怒らせるなよ!!」


ドラゴンは騒ぐ人々をものともせずに地上へと降り立った。

私ももれなく腰を抜かしながら後ずさろうとしたが、オルフェ王子の腕がそれを許してはくれない。

王子は目の前に降りたドラゴンを真っ直ぐに見上げ、笑みを浮かべていた。


「随分立派になったな」


声をかけると二つのドラゴンの顔がぬっとこっちに迫った。


「お、おおおお王子!!」

「心配するな。これは俺の友だ」

「トモ!?!?」


は!?

何言ってるんだ王子は!!

私が口をパクパクしていると、後ろからオディが叫んだ。


「ユイオン!!」

「え…」


ユイオン…。

どこかで聞いた名だぞ。

オディは二俣首のドラゴンに走り寄った。


「やっぱり森からでてきちゃったの!?むかえにきたかったのはこの人なの!?」


ドラゴンは目だけでオディを見ると低く喉を鳴らした。

オルフェ王子は驚いてオディに声をかけた。


「お前も…聞こえるのか」

「おにいさんも!?じゃあまちがいなくユイオンはおにいさんをむかえにきたんだね!!」


オディはユイオンに小さな両手をかざした。


「ユイオン、みんなをのせるね!」


ドラゴンが二つの頭を地面まで下げると、突然私の体がふわりと浮いた。


「わわわ!?」


見ればネイカとコールも浮いている。


「お、オルフェ王子!!」

「ミリ、掴まっていろ」


王子だけは自分の体が浮いても落ち着いていた。

必死にしがみついていると、私たちはユイオンの背中の上に降ろされた。

巨大なドラゴンは騒つく人間に一声吠えるとすぐに大きな羽を広げ空へと舞った。

誰も何もできないうちにその姿は夜の闇の中へと消えていく。

残された者たちは蒼白な顔でただ空を見上げていた。


「なんだ…なぜドラゴンがオルフェを連れて行く!?」


ロレンツォは震える拳を地面に叩きつけた。

カウレイも剣を鞘に収めた。


「これではオルフェを始末したことにならんぞ」

「北の果てでドラゴンが絡んできたとなれば行き先はアルゼラに決まっている!!偵察を送り込みオルフェを探させろ!!」


喚いていると近くにいたパッセロ兵が皮肉な笑い声をあげた。


「お前ら、何も知らないのか。この山の先へ行ってもアルゼラなんてありはしないぞ」

「何!?」


ロレンツォは苛立たしげに振り返った。


「ないとはどういうことだ!!」

「アルゼラが幻の国だと言われる所以も知らんのか。あの地は確かに存在するはずなのに誰も辿り着くことが出来ん。

この先にあるのは国どころか雪に覆われた大地ばかりだ。嘘だと思うならお前が自分で行って確かめてみればいい」

「このっ…!!」


ロレンツォはパッセロ兵の胸ぐらを掴み上げたが、後ろから鋭い声がした。


「やめろっ!!」


ロレンツォだけでなくカウレイもはっとすると振り返った。

その声の主は灯りを避け木の陰からわずかに姿を見せている。


「二人とも…騒ぎすぎですよ」


ロレンツォはパッセロ兵を離すとその木に近寄った。


「…オルフェを逃した。この先はどうすればいい」

「今は大人しく周りに合わせていてください」

「だがオルフェを始末し損ねたと知ればあのお方は…!!」

「…また連絡を入れます」


影は木の後ろへ入るとそのまま夜の闇に紛れて姿を消した。


「くそっ。あと一歩というところを!!」

「ロレンツォ、いつまでも引きずるな。それにオルフェと黒魔女を逃したとなればパッセロももう黙ってはいまい。我々は責任追及に追われるぞ」

「ちっ。面倒なことだ!!」


だが怒れるパッセロにここで対処を誤ると今度はこっちの身が危ない。

二人はソランたちと合流すべく来た道を引き返した。


一連の流れを、少し離れた一本の高い木の上から見下ろしている者がいた。

満月の明かりに照らされたその姿は少年のもの。


握りしめた拳からは血が流れ、くいしばり過ぎた口元はまだ僅かに震えている。

胸に揺れるのは精緻な金で小さな五芒星が刻まれた荒削りな黒水晶のペンダント。


「オルフェ様…」


ドラゴンが飛び立った空の先を見つめていたレイは、無表情になると地上へと戻って行った。




ーーーーーーー




双頭のドラゴン、ユイオンはぐんぐん高度と速度を上げていた。

生身でいては凍え死ぬ温度のはずなのだが不思議と寒くはない。

それどころかこんなに速いのに風すら感じない。

飛ぶように後ろへ走って行く雲を見上げていると、体にまた何かを通り抜けた感覚がした。


「アルゼラに入った…?」


無意識に声にすると私がずっとしがみついていた王子から力が抜けた。


「あ、オルフェ王子!?」


私は支えきれずに王子と一緒にその場に崩れ落ちた。

王子は浅い呼吸を繰り返し肩を押さえている。


「王子!!王子!!やっぱり酷い怪我してるんじゃないですか!!」


ネイカを看ていたオディはこっちに飛んで来た。


「みぃ、うごかしちゃダメ!!このおにいさん、ケガだけじゃなくて何かにからだをやられてるみたい」

「何かって!?」

「わからない」


ネイカを膝に乗せていたコールがはっとした。


「もしかして、破魔の剣を使っていたせい!?オルフェ王子、確か多用はできないって言ってたわ!!」


オディは既に意識のない王子のおでこに手を置いた。


「た、たいへんだ。はやくママのところにつれていかないと!!ユイオン、町におろして!!」


ドラゴンはオディに頼まれると夜中でも明かるい町へと進路を変えた。

町に近づくほどはっきりと周りが見えてくる。

王子を支える私は血で真っ赤に染まっていた。


「王子…!!」


泣きそうになりながら名を呼んでいると、腕の中の王子がいつもと何か違うことに気がついた。


「え…」


髪が、黒い。

いつも柔らかな茶金に揺れていた髪が。

オディも目を見張った。


「このおにいさんもだ」

「え?」

「みぃとおなじ」

「へ??」


心配そうにこっちを見ていたコールが声をあげた。


「み、ミリ!?」

「え…」

「ミリなの!?」


私はコールの反応でまた元の自分の姿に戻っていることに気付いた。


「あ、そっか。アルゼラに入ったから…」


ということは…。


「オルフェ王子も、姿変えの呪いを受けている…?」


でも私のようにがらりと姿が変わったようには見えない。

せいぜい髪の色が変わった程度だ。

でも何故、スアリザ育ちのオルフェ王子が??


混乱する私をよそにユイオンは一声鳴くと町中へと降り立った。

町の人たちは驚きはしたがドラゴンに慣れがある為か騒ぎにはならない。

オディは急いでユイオンから飛び降りた。


「みぃ、ここでまってて!!ママよんでくる!!」

「あ、う、うん!!」


何にしても今はとにかく王子の手当とネイカの休息が最優先だ。

私はまだ肩から赤い血を流し続ける王子を震えながら抱きしめなおした。

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