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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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迎え

少し遡り数時間前。

私はまだ暗い山道を迷いに迷っていた。

ずっと逃げ通し歩き通しでもう疲労困憊だ。

背中で眠るオディもそこそこ重い。


「はぁ…、はぁ。この鏡、一体何映してんのよ」


鏡に見えるオルフェ王子の背景を頼りに進もうとしたのに、どうやらこれはリアルタイムで映るものではないらしい。

なんて当てにならないんだ。


「とにかく、頂上まで、はぁ、はぁ、行かないと。う…はぁあぁ。これ魔物出たらもう終わりだわ」

「…でないよ」


ひとり言のつもりだったが、背中からうにゃうにゃとオディが返事を返した。


「ぼくのお守りがあるから」

「オディ、起きたの?」

「うん」


オディは私の背中から降りるときょろきょろと辺りを見回した。


「さっきから何かきこえる」

「え?」

「ぼくをおこした声だ」


一応耳をすませてみたが全く何も聞こえない。

それなのにオディは山の向こう側一点を真剣な顔で見つめた。


「…ないてる。ミリをさがしてるよ?」

「私を??」

「みずがいるの?」


オディは一点を見つめたまま呟くと私に手を差し出した。


「みぃ、さっきのかがみかして」

「鏡?」

「うん。そのかがみは水でできてるから」

「??」


意味が分からん。

私は言われるがままに鏡を返した。


「…だれ?みぃはここだよ」


オディが鏡を撫でるとそこから蒼い光が溢れ出る。

それはまるで水のように跳ねると蛇の形になった。

私はあっと声を上げた。


「ウツボ!?もしかして、ネイカ!?」

「ミリ!!」


ウツボからは思った通りネイカの声がした。


「ミリ!!本当にミリなの!?まさか本当に繋がるなんて…!!」

「ネイカ、どこにいるの!?」

「ミリこそ勝手に一人でどこへ行っていたのよ!!私ずっと…ずっとミリを探し続けていたんだからね!!」

「ネイカ…」


私は泣きながら怒るネイカにとても反省した。


「置いて行ったりしてごめん」

「本当よ!!次したら許さないんだから!!」

「ご、ごめん」

「ミリ…、ここはパッセロの山の中よ。小さな泉があったからそこからミリを探していたの」


パッセロ…ということは王子ももうすぐそこにいるんだ。


「ネイカ、そっちでは何も起こってない!?オルフェ王子は!?」

「何も起こってないどころか天地がひっくり返る事態の真っ只中よ!!」

「えぇ!?」


ネイカは水を介して音を拾い、今現在オルフェ王子がこの山のどこかに逃げ出したことも把握していた。

パッセロで起こった事件と今の状況を聞いた私は青くなった。


「うそ…間に合わなかった!?」


王子に危険が迫っていると教えに行きたかったのにこれじゃ手遅れだ。

いや、でもまだ王子は生きている。

まだ間に合うかもしれない!!


「ネイカ!!前みたいに私をそっちへ引っ張り上げられる!?」

「出来るわ」

「じゃあ今すぐお願い!!オルフェ王子を助けに行かないと!!」


鏡から畝り出るウツボはすぐに光りだした。


「分かった。じゃあこっちじゃなくて王子に一番近い池に飛ばすわ。私もそっちへ行く」

「ありがとう!!お願い!!」


私は目を丸くしているオディを抱きかかえるとウツボに触れた。

すると私たちの体は小さなエアラに吸い込まれるように消えた。


こうして無事私とネイカは合流出来たわけだが、喜んでいる暇は一秒とてなかった。

何せすぐそばでは騎士団や兵たちのけたたましい声や、王子を殺せとかいう聞き捨てならない声が引っ切り無しに聞こえていたからだ。


「王子…オルフェ王子はどこにいるの!?」


こう暗くてごちゃごちゃしていたら人の顔なんて一々判別できない。

闇雲に探しているとオディが私の手を引いた。


「あっちだよ、みぃ!!」

「え!?」


何故分かるのかなんて聞いている暇はない。

オディの指差す方は一番人が多く争いの激しい藪の中だ。


「ミリ待って!!危険すぎるわ!!」

「待てない!!」

「無謀に突っ込んでも死ぬだけでしょう!?」

「でも!!」


振り返るとネイカが杖を一閃させていた。

宙についた傷口から大きなエアラが姿を現した。


「乗るわよ!!こっちへ来て!!」

「ネイカ!!」

「早く!!水の力も借りずにこのエアラは長い時間維持できないのよ!!」


ネイカは既にガタガタと体を震わせている。

相当負担を強いられているようだ。

私はオディを抱き上げると急いでネイカの隣まで戻った。

エアラは私たちを飲み込むとそのまま体の中を伝って頭のてっぺんまで押し上げた。

視界が一気に高くなった私はすぐに騒ぎの中心を見つけた。


「オルフェ王子!!ネイカ、あそこ!!」


ネイカは返事も出来ずに杖を持ったまましゃがみこんでいる。

だがその代わりにエアラは私の声に反応し従った。

すぐにぐっと王子の姿が近くなる。

見えたのはオルフェ王子と何故かコールに向けてロレンツォとカウレイが剣を振りかぶった瞬間だった。


「だ、だめ!!」


私の心に同調していたエアラは刹那の間に王子に迫るとその体で取り囲んだ。


「コール、オルフェ王子!!」


懸命に叫ぶとオルフェ王子はすぐに反応した。


「ミリ!!」

「王子、こっちです!!」


振り返った王子と目が合うと、私の目にみるみる熱いものが浮かび上がった。


生きてる!!

まだ、生きてた…!!

王子の隣でコールが私に手を伸ばした。


「…っ、ミリ!!」

「コール!!今助けるから!!」


エアラはかぱりと大きな口を開けると王子とコールを丸呑みした。

二人は私と同じようにエアラの体を伝って頭のてっぺんまで押し出された。


「王子!!コール!!」


私はぼろぼろの格好の二人に飛びついた。


「よ、よかった…。間に合って本当によかった!!」

「ミリ…!!」


王子より先にコールが私を抱き寄せた。


「ミリ、ミリ…!!」

「コール、とりあえずここから逃げるけど、いいよね!?」


コールは私にしがみつきながら何度も頷いた。

ふと顔を上げると王子と目が合う。

王子は何か言おうとしたが私は思い切り顔を背けた。

今は心乱れている場合ではないのだ。


「ネイカ!!このまま逃げられる!?」


振り返ると、ネイカを支えていたオディが首を横に振った。


「みぃ、だめだよ!!もうこのおねえさんの力がもたない!!」

「え!?」

「これ以上マリョクつかったら死んじゃうよ!!」

「ネイカ…!!」


ネイカはオディに杖をひったくられるとびっしょり汗を落としながら崩れ落ちた。

それと同時にエアラが急激にしぼみ消えた。

高度こそ下がっていたものの、私たちは再び地面の上に投げ出された。


「うわっ!!」

「うっ…」


落ちた場所はまだ争いの場より目と鼻の先だった。


「いたぞ!!こっちだ!!」


すかさず追っ手の声が聞こえ大量に人が流れてくる気配がする。

コールは剣を手に立ち上がった。


「駄目だわ!!このままじゃ何も状況が変わらないわ!!」

「そんな…!!」


助けに来たのに結局何も出来ないままなんて…!!

どうすれば…どうすればどうすればいいの!?


私の脳裏に緋く光る目がふっと浮かんだ。

ルシフ…。

ルシフなら、もしかして…!!

私は意を決しその名を呼ぼうとした。

だがその手前でオルフェ王子が私の腕を掴んだ。


「ミリ…呼ぶな」

「王子!!でも!!」


王子の手を掴み返すと、ぬるりとしたものが指に絡んだ。


「血…!?王子、怪我してるんですか!?」

「大丈夫だ」

「で、でも!!」


オルフェ王子は私を抱き寄せた。


「お陰で間に合った」

「え?」

「迎えが来た」


王子が言うと同時に、夜空の中から凄まじい咆哮が山中に轟いた。

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