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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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ビガ山の争い

一寸先すら見えない藪の中は逃げ場としては最悪だった。

目の前に次々と現れる木々に全く対応出来ない上に足元は派手に音を立てる。


「これじゃあすぐに囲まれるし魔物に襲われても分からないわ!!」


コールは焦燥に駆られながらも懸命に前に進んだ。

オルフェ王子はコールを後ろへ下げた。


「魔物の気配なら俺が分かる。はぐれるなよ」

「え…」


どれだけ音に集中しても分からなかったのに、王子は言葉通り的確に襲い来る魔物を蹴散らした。

オルフェ王子にとって厄介なのは魔物よりも人だった。

特にパッセロ兵だけは手を出すわけにはいかない。

何とか逃げに徹していたが、多勢に無勢なのもありじわじわと追い詰められ始めた。


「オルフェ王子…!!もう捕まるのは時間の問題だわ!!私がパッセロ兵を何とか説得するからもう逃げるのはやめましょう!?」


王子は流れる汗をぬぐいながらコールを振り返った。


「話して分かるならとっくにそうしている」

「でも!!」


揉めている間に一斉に周りからパッセロ兵が姿を現した。


「追い詰めたぞ!!」

「もう逃しはしまい!!」

「誰でもいい!!その男を殺せ!!」


コールは王子の前に立ち両手を広げた。


「やめて!!」

「コール!!」


王子は流石に声を荒げるとコールの肩を掴んだ。


「俺を庇うな!!」

「でも!!」

「共に葬られるつもりか!!」


パッセロ兵たちは雄叫びを上げるとオルフェ王子に斬りかかってきた。

王子はコールを突き飛ばすと降り注ぐ刃を手持ちの剣で幾つも弾き返した。

だが抵抗できるのもここまでだ。

勝利を確信したパッセロ兵たちは喜び勇み、再度オルフェ王子に襲いかかろうとした。

だがそこに別の集団が騒々しく割り込んできた。


「いたぞ!!パッセロ兵をオルフェ様に近付けるな!!」


オルフェ王子は松明の火に映し出された見慣れた鎧にすぐに気付いた。


「セスハ騎士団!!」

「オルフェ様、お待たせいたしました!!」

「グレイヴか!!」

「はっ!!」


駆けつけたのはセスハ騎士団と、団長だった。

オルフェ王子はパッセロ兵を払いながら声をあげた。


「グレイヴ!!リヤ・カリドは俺を捕まえるか殺すようお前に命じたのではないか!?」

「その通りです!!」

「表立って背けばお前が重い処分をされるぞ!!」


セスハ騎士団長、グレイヴは怒りに顔を赤く染めた。


「私は初めからリヤ・カリドやソランからオルフェ様をお守りする為に旅の終わりまで騎士団を引き連れてきたんです!!」

「俺はてっきりセスハ騎士団に俺を始末させる為に連れてきたのかと思っていたぞ!!」

「貴族騎士の誰かはそのつもりがあったのかもしれませんが、私がそんな事をさせるはずがありませんでしょう!?」


グレイヴは王子の周りの兵を残らずなぎ倒し、振り返った。


「王子、行ってください!!」

「グレイヴ…!!」


グレイヴは精悍な顔で頷いた。


「三年前の恩は、今こそ返させて頂きます!!」


グレイヴの故郷はスアリザの外れにあった。

三年前、領主は貧困に喘ぐ村人を守るどころか絞れるだけ搾取しては死に追いやる日々が続いていた。

辺境の地である為、グレイヴが何度王宮に訴えても歯牙にもかけてもらえなかった。

誰からも見放され涙を飲む日々だったが、そんな自分に話を聞きつけ声をかけたのが他ならぬオルフェ王子だった。

王子は自ら足を運んでは現地を視察し、一人一人に話を聞き、遂には領主の権限を剥奪し追い出した。

おかげで故郷は今も平和の中存在している。


「オルフェ様、お早く!!」


王子は躊躇いを見せていた。

ここで逃げればグレイヴを見捨てることになる。

判断に迷っているとパッセロ兵を叩き伏せたセスハ騎士団の者が声をあげた。


「王子!!団長の事は俺に任せて行ってくれ!!」

「ズー伯爵か!?」

「はい!!これでやっと何で俺たちがここまで引っ張り出されたのか納得出来ました!!」


ズー伯爵ことビオルダはにやりと不敵な笑みを浮かべた。


「俺はリヤ・カリドの奴より団長を支持する!!ここまで来た理由が胸糞の悪いもんじゃなくてむしろスッキリしたぞ!!」


ビオルダが叫ぶとその隣にいた赤髪の若い騎士が声をあげた。


「オルフェ王子!!フィズ…イザベラ姫を頼みましたよ!!絶対に守ってくださいよ、こんちきしょー!!」

「ベッツィ、危ねぇ!!集中しろバカ!!」

「んなこと言ったってよぉ!!うおっ!!」


ベッツィは振り上げられた剣を寸前で躱しながら飛び退いた。

反対側からはもっと年若い騎士が飛び出した。


「オルフェ様!!」

「ユセか!!」

「はい!!」


ユセは声を張り上げた。


「この先へ!!早くしないと争いが激化します!!」


ユセの言う通り、ここで自分がぐずぐずすればセスハ騎士団とパッセロ兵の激突が激しくなるばかりだ。

オルフェ王子は意を決するとコールの手を掴んだ。


「行くぞ」

「オルフェ王子…でも…!!」


王子は有無を言わせず走り出した。


「敵が逃げるぞ!!追え!!」

「はっ!!」

「行かせるか!!」

「邪魔だ!!どけ!!」


何とか隙を探し混戦の場を抜けようとしたが、厄介なことにここで馬にまたがったロレンツォとカウレイが姿を現した。

ロレンツォは真っ先に反応すると馬から飛び降り、オルフェ王子に突撃した。


「見つけたぞオルフェ…!!覚悟!!」


オルフェ王子はコールを抱き上げると無理やり横に飛び退き躱した。


「貴様の命運もここまでだ!!その命、このロレンツォが頂いた!!」


ロレンツォは剣を振りかぶり再度襲いかかったが、そこへ動物の群れが木々の間から突如として現れた。


「魔物!!」

「うわぁ!!魔物だ!!」


争っていた人々は戦う相手を魔物に切り替えたが、その数は昼間の比ではない。

このままでは多くの者がやられ下手をすればそこに魔が取り付いてしまうだろう。


甚大な被害が出ると判断したオルフェ王子は、標的を魔物に定めると闇色に光る剣を振りかぶった。

破魔の剣はその威力を最大に発揮し、王子が放った波動は半径数キロ内に現れた魔物を瞬殺で粉砕した。


「す、すごい…!!」


破壊力は恐ろしいほどだったが、何より人間には傷一つ与えていない。

コールの口からは無意識に感嘆の吐息がもれた。

だが完全に意識が魔物に集中した瞬間を狙ったかのように、オルフェ王子の体に衝撃が走った。


「ぐっ…」

「オルフェ王子!!」


隙のできた王子の左肩に深く突き刺さっていたのは、ロレンツォの剣だった。


コールは真っ青になり叫んだ。


「王子!!オルフェ王子!!」


ロレンツォが剣を引き抜くと、オルフェ王子の肩から夥しい量の血が流れ落ちた。

ロレンツォはとどめを刺すべく王子に近付いたが、コールはオルフェ王子の前に立ち剣を構えた。


「そこをどけ、小娘!!」

「嫌よ!!」


コールは剣を振り上げたが、それは後ろから弾き飛ばされた。


「なっ…!!」

「どけ。とどめは俺が刺す」


背後から迫ったのはカウレイだ。

前にも後ろにももう逃げ場はない。

オルフェ王子は左肩を押さえながら空を見上げた。


「まだか…!!」


何かを求めるように声を絞る。

だがそれに応えるものはなく、オルフェ王子に刃が振り上げられた。


「王子!!」


コールは数秒先に起こる端末に戦慄し、ぎゅっと目を閉じた。

誰もがオルフェ王子の死を思ったが、その時巨大な蛇のような魔物が全てを蹴散らしながら王子の体を包み込んだ。


「な、なんだ!?」

「魔物!!」


突如現れたそれに辺りは騒然とした。

なぎ倒されたロレンツォとカウレイもこれには仰天したが、オルフェ王子には見覚えのあるものだった。


「コール!!オルフェ王子!!」


姿が見えなくともこの声を聞き間違えるはずはない。

王子はすぐに反応した。


「ミリ!!」

「王子、こっちです!!」


巨大ウツボの頭には思った通りミリがいた。

そしてその隣には城にいたはずのネイカもいる。

コールは泣きそうに顔を歪めながら手を伸ばした。


「…っ、ミリ!!」

「コール!!今助けるから!!」


その声に反応したエアラは大きくうねるとコールとオルフェ王子をばくりとひと飲みにした。

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