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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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逃亡

城の外では、待機を命じられていたセスハ騎士団が暗い顔をしていた。


「まさか…こんな事になるなんてな」

「ああ。オルフェ様がシウレ姫殺しの犯人だなんて信じられない…」


あちこちで聞こえる声に、ベッツィは苛立ちを抑えきれずに土を蹴った。


「くそっ!!王子もだがフィズもどうなってるんだよ!!」

「大声を出すなベッツィ」


ビオルダは宥めるように言ったが、ベッツィはうろうろと歩きまわった。


「大体フィズは何だって俺に…俺たちに会いに来ようとしないんだ!?」


バジリスクの件が済んだ後、ベッツィは何度も城に足を運んでいた。

だが一向にミリには会わせてもらえなかった。

仕方なくミントリオ出発の時まで我慢して待っていたが、ミリは馬車にでも乗っているのか一度も姿を見せない。

不満に不満が溜まったままパッセロに着いたが、そこへきてこの騒ぎだ。


「フィズは悪事を企むような奴じゃない。きっとオルフェ王子に巻き込まれただけなんだ!!」

「ベッツィ、滅多なことは口にするな」

「ビオルダさんはフィズが心配じゃないのかよ!?」


ビオルダは鋭い眼差しでベッツィを射抜いた。

それは普段陽気なビオルダからは想像できないほどの鋭さだ。


「少し黙れよ。お前が騒げば周りにも動揺が広がるだけだ」

「う…」


ビオルダはベッツィを静かにさせると聳え立つ城を見上げた。


「それにこれで終わりとは限らんぞ」

「え…?」


どういう意味かと聞き返そうとしたが、その時リヤ・カリドが鬼のような形相で馬を走らせて来た。


「お前たち!!今すぐ出陣だ!!さっさと用意しろ!!」


着くや否や怒鳴り散らす。

その剣幕は異常なほどだった。


「団長はどこだ!!すぐに呼び出せ!!今からセスハ騎士団総員でビガ山へ向かうぞ!!」

「ビガ山へ!?こんな夜にですか!?」

「つべこべ言わずに隊列を組まないか!!」


その場にいた団員達は慌てて動き出した。

団長はすぐに騒ぎを聞きつけてこっちへ走って来た。


「リヤ・カリド様!?どうなされましたか!!」

「どうしたもこうしたもあるものか!!オルフェが城から逃亡した!!」

「何ですと!?」

「目撃情報からビガ山に向かったことは間違いない!!そのまま姿をくらませるつもりだ!!」


団長は事態を悟るとすぐに団員に命令を下した。


「全団員今すぐ隊列を組め!!見張りの者も食事中の者も呼び戻せ!!ウズラム!!お前の隊は遅れて来た者をまとめてから来い!!」

「はっ!!」


リヤ・カリドは怒りに顔をどす黒く染めた。


「スアリザの恥さらしめ…!!王子の身分でありながら刑執行前に逃亡するなどこれ以上ない王族への冒涜だ!!もはやオルフェに生かす価値なし!!」

「な、何ですと!?」

「お前たち!!見つけ次第オルフェを速やかに処刑しろ!!」

「リヤ・カリド様!!」


団長は流石に青くなった。


「そ、それは我々には荷が重すぎます!!罪人といえどオルフェ様は…!!」

「ええいうるさい!!我々とてセシル様に従い穏便に流刑で済ませようとしたのだ!!これはオルフェが自分で蒔いた種だ!!ここで逃せばスアリザは世の笑い物だぞ!!」


リヤ・カリドの怒りは収まりそうもない。

それに外も騒がしいところを見るとパッセロの兵たちも動き出したようだ。

団長は意を決すると逞しい腕に力を込め拳を握った。


「…分かりました。すぐに我々も森へ向かいます」

「そうしろ!!」


リヤ・カリドは馬頭を返すと来た時の勢いのまま城へと帰って行った。

やりとりを聞いていたビオルダは団長に詰め寄った。


「団長…まさか本気でオルフェ様を処刑になどしないだろうな!?」

「…」

「団長!!」

「口を出すな。お前たちはただ私の指示に従えばそれでいい」


団長は厳しく言い放つとセスハ騎士団をまとめにかかった。




ーーーーーーーーーー




オルフェ王子とコールは次々と襲いかかる魔物を撃破しながら山道を進んでいた。


「はぁ、はぁ…、どれだけいるのよ!?」

「夜は魔物の世界だからな。仕方あるまい」


オルフェ王子が闇色に光る剣を一閃させると魔物の群れは残らず消えた。


「破魔の剣…。本当にすごいわ!!」

「あまり多用はできんからな。急ぐぞ」

「急ぐぞって…この先にあてなんかあるの!?こんな軽装で逃げ出したんだから山で迷えば凍死は間違いないわよ!?」


騒いでいるとまた木の間からがさがさと何かが動き回る気配がした。

王子は咄嗟にコールの手を掴むと走り出した。


「わわっ!!」


自分たちがさっきまで立っていた場所に一斉に黒い何かが落ちてくる。

コールは流石に青くなった。


「オルフェ王子!!」

「走れ!!」


二人はほとんど道など見えない道を走った。

頼りになるのはコールの腰につけた小さなランプのみだ。

緊張を強いられ続けると体力のあるコールでも流石に息が上がる。

闇の気配が遠のくと王子の手を離しその場にしゃがみ込んだ。


「っはぁ、はぁ…、きびし…」


王子も乱れた息を整えながら元来た道を見下ろした。

暗闇の中殆ど何も見えはしないが、その向こうでいくつもの灯りがちらついた。


「追っ手か」

「お父様…」


コールは不安に胸を押さえた。


「オルフェ王子、これはどういうことなの?私にはさっぱり何が起こったか分からないわ」


黒魔女疑惑をかけられたコールは騒ぎが起きた直後から城の一室に監禁されていた。

ミリと間違われていることもオルフェ王子が嵌められたらしいことも分かるが、コールにとっては巻き込まれたに過ぎない。

怒りのままに部屋で暴れ倒していたが、しばらくするとそこにレイが現れた。

レイに連れられて廊下に出ればそこには見張として立っていたスアリザの者が何人も倒れていた。

後はわけも分からぬうちに城の外へと引っ張り出されてそこにいたオルフェ王子と逃げ出すことになったのだ。


「レイは今逃げなきゃ殺されるなんて言ってたけど、よく考えれば私が何で殺されなきゃならないの!?」


オルフェ王子はコールに歩くよう促した。


「俺が逃亡したとなると残された黒魔女は即処刑されても文句は言えないからな」

「だから、そもそも私黒魔女じゃないし!!」


風が茂みを揺らしがさがさと音を立てる。

二人は一度口を閉ざすとまた足を早めた。


「巻き込んですまない。まさかミリのことまで言い出すとは思っていなかったからな」


王子の物言いに聡いコールはすぐに疑問を持った。


「…それってオルフェ王子はまるで殺人犯として追われることは分かっていたみたいね」

「そうだ」


あっさり肯定されてコールは目を丸くした。


「え??や、やっぱりそうなの??益々意味わからないんだけど…あの…」

「この旅の本来の目的は恐らく俺をスアリザから遠ざけ二度と国に帰らぬようにすることだ」

「いや、することだって…」

「ミントリオで側室を一斉に解放することになった時は向こうも冷や汗をかいたことだろうな。何とか俺をパッセロまで引っ張りだすのにあれこれ細工したはずだ」


コールはどこか楽しげに言う王子を訝しげに見上げた。


「随分余裕なのね」

「いや、そうでもない。俺を島流しにしたがっているのは兄のセシルだが、それとは別に俺の暗殺を狙っている誰かがいるはずだ」

「え!?」

「今俺を一番血眼になって探しているのはその暗殺者だろうな」

「王子…」


コールはなんだか隣にいる人が急に怖くなった。

常人の感覚ならとても落ち着いて話せることではない。


「貴方は…貴方はいったい…」


風下から強い風が吹き上げる。

そこに混じった匂いに二人ははっとした。


「火薬!!」

「近い…」


気付いた時には間近で一斉に火の手が上がった。


「いたぞ!!こっちだ!!」

「取り囲め!!」

「魔物に気を付けろ!!」


見えたのはパッセロ兵だ。


「スアリザ第三王子オルフェ!!我が国の王女を巻き込み連れ去った罪は重いぞ!!」

「その首を寄越せ!!さっさとスアリザに突き返してやる!!」


不当にスアリザに制圧されたパッセロ兵たちの怒りは全てオルフェ王子本人に向いている。

この場で説明なんてしても誰も聞く耳など持たないだろう。

咄嗟に判断したのはコールだった。


「逃げるわよ!!」


一声叫ぶと先に藪の中へと飛び込む。

オルフェ王子もそれに倣った。


「コール!!」

「だってしょうがないじゃない!!今捕まったら貴方は確実に殺されるわよ!!」


今はとにかく逃げ切るしかない。

二人は触りの荒い葉が雑然と広がる藪を傷だらけになりながら走った。

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