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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
146/277

不和と衝撃

城の一室に閉じ込められたネイカはファッセ相手に盛大に噛みついていた。


「王子が流刑って、どういうことなのよ!?どうなってるのよファッセ!!ちゃんと分かるように説明しなさいよ!!」

「静かにしろっ」

「出来るわけないでしょ!?」

「騒げば逃げられなくなるぞ!!」

「は!?」


ネイカを部屋に押し込めたファッセは後ろ手で扉を閉めると鍵をかけた。

その真っ青な顔は脂汗に濡れている。


「ファッセ…?」

「ネイカ」

「な、なによ」

「隙を見てあの怪物を使ってでも今すぐここから逃げろ」

「え…」


ファッセは早口にまくし立てた。


「お前はあの黒魔女の侍女をしていたとしてこの先尋問を受けることになる。身分に守られていないお前など下手をすれば言質を取るために拷問されるぞ」

「拷問!?」

「ソランは本気だ。もしお前が魔物を操ることがバレたら…更に容赦なく死ぬほど酷い目に遭うぞ」

「ファッセ…」


ファッセは真剣そのものだ。

ネイカは段々と青くなってきた。


「ファッセ…まさか」

「俺は何も言っていない」

「嘘よ!!ミリが黒魔女なことも私が魔物に取り憑かれているのも知っているのはあんただけじゃない!!」

「イザベラのこともお前のことも判断し裁くのは王族であるオルフェ様だ。俺が余計な事を喋ったところで混乱しか招かんだろうが」

「じゃあどうしてこんな事に!?」


ファッセは扉の向こうをちらちらと気にしながらまた声を落とした。


「オルフェ様の従者…ケイド・フラットの小僧だ」

「…レイのこと?」

「そうだ」


ネイカの胸が嫌な音を立てた。

ファッセは忌々しそうに舌打ちをした。


「あの小僧はオルフェ様の従者ではない。正式にはセシル様専属の諜報員だ」

「セシル様?」

「オルフェ様の兄であり、今最もスアリザの王座に近いお方だ」

「え…」

「あの小僧はミントリオで俺たち五人を集め、スアリザでオルフェ様が姫殺しの真犯人として確立したと書かれた書面を出してきた」

「レイが!?嘘よ!!」

「嘘ではない」


ネイカは足元が崩れそうな感覚に襲われふらついた。

そのままベッドに腰を下ろし呆然とした。


「だって…だってそんな…」

「書面の印は間違いなくセシル様のものだった。あの小僧はパッセロまでオルフェ様が辿り着いた後、刑を執行するとその場で言い切った」

「じゃあミリが黒魔女だっていうのもレイが…?」

「いや、あれはソランが自力で調べ上げた推測だ」

「推測?」

「そうだ」


ソランは元々ルーナ国で突然現れたイザベラ姫の事を怪しんでいた。

スアリザでの黒魔術の噂などくだらないと一蹴していたが、何かあるのかもしれないと思い直し密かに調査を進めていた。

そうなるともう一人いかにも怪しい人物がすぐに浮かぶ。

アルゼラから来たという、ドラゴン連れの王子の少年従者だ。


城を出た時には確かにこの少年がうろうろしていた。

ルーナ国では魔物に取り憑いた男と派手にやり合っていたので、そこまで居たことは間違いない。

だがイザベラ姫が現れた途端煙のようにその少年は姿を消した。


少年が次に現れたのはミントリオの城。

訓練場でコールと一悶着した時、偶然にもソランはそれを目撃していた。

そしてそのミントリオで突如現れたという巨大な魔物を操った黒魔女。

これらが全て同一人物だと仮説すれば、オルフェ王子の側室イザベラ姫が陰謀を企む黒魔女だという説がピタリとはまる。


「ソランはセシル様に傾倒している貴族の一人だ。この旅の途中でオルフェ様がシウレ様殺害の犯人に仕立て上げられることは事前に知っていたようだ」

「…」

「だがそれだけでは手緩いと判断し、黒魔女のことを立証しオルフェ様を王座を不当に狙う国賊として仕立て上げた」

「でも…そんな推測だけであそこまで言い切ったって言うの!?」

「外堀なんて後から埋めればいい。例えば…お前だ」


ネイカは息を飲んだ。


「…私?」

「言っただろう?お前を拷問にかけてでもイザベラが黒魔女だったと白状させればそれだけでも証拠が一つ揃う」

「そんな…」

「パッセロ王を巻き込んだ以上ソラン自身に躊躇っている猶予はない。すぐにでも尋問に来るぞ」


ファッセはつかつかと窓に寄ると開いた。

冷たい空気が一気に部屋に流れ込む。


「まだ皆が騒いでる今しかチャンスはない。行け」

「ファッセ…」

「早くしろ、俺の気が変わるぞ!!」

「!!」


ネイカは真っ青になったまま震えた。

ファッセの思いつめた顔が全てが嘘ではないと物語っている。


ネイカはふらふらと立ち上がると杖を握りしめ一閃させた。

空間に切れ目が出来るとそこから熊ほどの大きさのエアラがぬるりと現れる。

ファッセは顔をしかめたがそれを見ぬふりをした。

ネイカはエアラに跨ると四階の窓から外へと飛び出した。




ーーーーーーー




同じ頃。

パッセロ王を抑えオルフェ王子を捕らえたソランとロレンツォの間でも激しく揉めていた。


「ソラン、何度も言ったが流刑など手緩い!!オルフェはこの場で処刑にすべきだ!!」

「馬鹿を言うな。勝手にセシル様の意に逆らうようなことが出来るものかっ」

「オルフェの母はこの北大陸のレメカ王国だというではないか!!流刑すればまんまと生き延びまたセシル様に牙をむくぞ!!」

「ではそのレメカ王国とはどこにある?あれはソニア王妃を娶るために王がでっち上げた国だ」

「ソラン!!」


リヤ・カリドが二人の間に割って入った。


「二人とも落ち着け!!今揉めてどうする!!」

「しかし!!」

「ロレンツォ殿、逆賊とはいえオルフェはまだ王族なのだ!!勝手に処刑などは出来んっ」

「俺はあれを王族とは認めない!!ケイド・フラットが認めたのもやはりセシル様ではないか!!」


リヤ・カリドは鼻を鳴らした。


「あんな眉唾な一族はどうでもいい。我々の正当性を通すためにわざわざ証人としてここまでセスハ騎士団も引っ張り出して来たのだ。この場で不用意に処刑などしては逆にこっちが批難を浴びかねん」

「それは…」

「今はパッセロ王とイザベラ姫にとっとと白状させるのが先だ」


ソランはすぐに同意した。


「パッセロとこれ以上揉める気はない。必要なのはオルフェに力を貸したという事実だけだ。素直に認めれば黒魔女であろうがイザベラ姫は不問にするといえば口を割るのは容易いだろう」

「しかしそれでは…」

「黒魔女など関わらないに越したことはない。どのみちこんな遠い国など利用価値もない」


ソランがきっぱり言い切るとリヤ・カリドも頷いた。

ソランはロレンツォと黙ったままのカウレイを一瞥した。


「くれぐれも余計なことはしてくれるなよ。セシル様の意に背くことは俺が許さん」


ロレンツォは忌々しげに顔を歪めた。

同等の立場のはずが今ではすっかりソランに頭を押さえつけられている気がしてならない。

ソランとリヤ・カリドが部屋を出て行くとテーブルを思い切り叩きつけた。


「セシルの犬め…」


カウレイは鋭い目でロレンツォを睨んだ。


「ロレンツォ、あまり処刑と騒ぎすぎるな」

「だがこのままでは正当にオルフェを葬れんぞっ!!」

「正当性にこだわることはない」

「なに…?」


カウレイは低く笑った。


「流刑の後オルフェが勝手に命を落としてもそれは仕方のないことだろう」

「…」

「あの方が望んでいるのはオルフェの確実な死だ。あの小僧もそう言っていたではないか」

「…」


ロレンツォは腕を組み考え込んだ。


「なるほど。暗殺などは好みではないが仕方がない」

「オルフェが森に置き去りにされたその瞬間こそが好機だ。それまではソランに従おう」

「…ちっ」


ロレンツォは至極不機嫌な舌打ちをすると足音荒く部屋を出て行った。


最北の王国パッセロは、前代未聞の事件に蜂の巣をつついたような大騒ぎに見舞われていた。

スアリザの突然の裏切りと制圧、身に覚えのない汚名にパッセロ中が怒りに沸いた。

だが何にしても王が既に抑えられている。

彼らは歯ぎしりをしながらもとりあえずは話し合いの場に着き、まずはスアリザの要求を聞かなければならなかった。


あちこちではそんな真摯に対応することはないと喧々囂々な様だったが、そうこうしているうちにまた新たな衝撃がパッセロを襲った。


その知らせは事件の渦中の人物、オルフェ王子が黒魔女疑惑をかけられているイザベラ姫と共に城から消えたというものだった。

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