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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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会いたい

気がつけば私はぐにゃぐにゃと薄暗く揺れるおかしな空間に立っていた。


「なにここ…」

「メウがつくった逃げみちだよ」

「あ…、オディ!?」


オディは私のスカートの裾にくっついていた。


「ついてきちゃったの!?」

「うん。みぃがしんぱい」

「で、でも、かなり危ないらしいよ!?」

「うん。ほらきたよ」


オディは後ろの方を指差した。

変な空間からどろりとしたものが幾つも落ちてくる。

それは人型になると滑るように迫ってきた。


「何あれ!?」

「ユラ王の追っ手だよ」

「あの油でできた人形みたいなのが!?」

「うん。みぃ、あっち!」


オディは今度は反対方向を指差した。

その先には暗い穴が空いている。


「あれがつぎの逃げみち!」

「わ、分かった!!」


私はオディを抱えると穴に向けて全力で走った。

だがその穴は間近で見ると中から半透明な黒い手が沢山出ている。


「オディ!!本当にこの中であってるの!?」

「うん!!」

「本当!?」

「うん!!」

「本当ね!?」

「うん!!」


私は目を閉じてからその穴に飛び込んだ。

身体中に何かが這う感覚にぞわりとする。


うわっ。

思った以上に気持ち悪い!!


「みぃ!!」


呼ばれてはっと顔を上げると目の前に油人形が立っていた。

しかもその手には鎌のようなものが握られている。


「はわわわ!!」


人形は勢いよく鎌を振り上げた。

そのぬるっとした動きがなんとも速い。

頭をかばってしゃがみこむ私の前にオディが立った。


「オディ!!」

「えい!!」


オディはポケットから取り出した手鏡を人形に向けた。

その手鏡は眩しく光ったかと思うと人形を蹴散らした。


「オディ…すごい!!」

「みぃはやく、こっち!!」


私は走るオディの後を追った。


「次は、どこへ行けばいいの!?」

「えーと、えーと、あった!」


さっきより大きめの穴からは、やはり黒い手が何百と出ている。


「う…。こわっ」


通り抜けた時の気持ち悪さを思うと近づきたくもないがここは踏ん張り所だ。

私はオディを背中からすくい抱き上げると穴に思い切り飛び込んだ。


「えい!!」


大量の手が私の体を通り抜けていく。

気持ち悪さに耐えているとまた別の変な空間に出た。


「オディ…、こ、これいつまで続くのかなぁ!?」

「アルゼラをぬけるまでだよ」

「それってどれくらい!?」


オディは私から降りると次の穴を探した。


「わからない」

「分からない!?」

「うん。それとアルゼラをぬけても山をこえないとだめだよ」

「山!?」


これは確かに王子に辿り着くまでに力尽きる可能性が大だ。


「オルフェ王子…」


弱気になりかけたが、王子とレイの顔が同時に浮かぶと握り拳に力が入った。

頑張れ私。

最後まで諦めることだけはしちゃ駄目だ。

私は気合いを入れ直すと次の穴を目指して走った。


それにしても迷走する私を導くオディの判断力は抜群だった。

素早く進むべき道を捉え、追っ手を退けながら最短距離を走る。

オディがいなければ私なんてとっくに捕まっていたに違いない。

隠れたり逃げたり走ったりを繰り返しながらもうどれくらい経っただろうか。

手だらけの穴に飛び込むのにもすっかり慣れた頃、急に空気が変わった。


「はぁ、はぁ…、みぃ、外にでた!!」


オディが苦しそうに胸を押さえながら空に浮かぶ星を見上げた。


「はぁ、はぁ、はぁ…そ、そと??」

「うん、アルゼラを出たんだ!メウのおかげでかなり楽にでられたね!」

「楽…!?」


これでか!?

結構危機的な道のりだったけど!?

私は膝に手をつき息を整えながら周りを見回した。

といっても星明かりしかない夜は自分の手が見えないほど真っ暗闇だ。

それでもさっきまでのおかしな空間とは違いひんやりとした風が吹き、生き物の気配を感じる。


新鮮だ。

何だか空気がめちゃくちゃ新鮮だ。

私は深く深呼吸した。


「…。寒っ!!」


開放感も束の間。

その寒さは尋常ではなかった。

オディも震えながらくっついてきた。


「け、けっかいの外に出たから…。さ、さ、さ、さむい」

「オディ、私の服の中おいで!その薄着じゃ寒いよそりゃ」


オディは大人しく私の外套の中に潜り込んできた。


「みぃ、あ、あったかくして」

「あったかくって…」

「みぃは黒まじょなんでしょ?メウはできるよ」

「あ…」


そっか。

魔力…。


私は両手に意識を集中してみた。

攻撃ではなく、温かく包み込むような熱をイメージしてみる。

すると思ったより簡単に両手がほんのり光り始めた。

やがてその光が全身を包むと、震えるほどの寒さが嘘のように和らいだ。


「あったかぁい…」


オディはほっと息を吐くと私にすり寄って目を閉じた。


「なんか…魔力が強くなってる気がする」

「そうだよ」

「へ?」

「アルゼラはマリョクがたかまるんだって」

「そうなんだ…」


オディはふと私を見上げると驚いた。


「あれ?みぃじゃない!!」

「へ?」

「だれ??」

「え??」


オディは手鏡を取り出すと私に向けた。

そこに映っていたのはイザベラ姫の顔だった。


「あ…、そっか。呪いが解けるのはアルゼラにいる時だけなんだ」

「え!?じゃあやっぱりみぃなの??」

「うん。さっきまでのが本当の私なんだけど…」


オディは不思議そうに私の頬に触れた。


「みぃ、かわいそう」

「え、そう?」

「パスケルパヤならのろいのときかた知ってるかもしれないよ」

「パスケ??」

「うん。メロディ・テムにいるの」

「…」


相変わらずオディの説明は分からん。

それに今は呪いのことは後回しだ。


「ありがとうオディ。またそのうち詳しく教えてね」

「うん」


オディはごしごしと目をこすった。

ずっと私を守りながら走り通したのだ。

体力も限界なのだろう。


「少し寝てていいよ。抱っこしててあげるから」

「うん…」


オディは手鏡を私に渡した。


「みぃ、これかしてあげる」

「ん?」

「みぃの見たい人みせてくれるよ」

「え…」


オディはむにゃむにゃ言いながら私にすり寄りすやすや寝息を立て始めた。

よっぽど疲れてたんだな。

ごめんオディ。

私はオディを抱っこしたまま身の落ち着ける場所を探した。

少し行くとゴツゴツした岩場に着いたのでその陰に座り込む。


「はぁ…。つ、かれたぁ…」


私はぐったりと岩にもたれかかった。

一瞬意識が遠のきそうになったがここで私が眠れば二人揃って凍死してしまう。

オディを抱え直すとぽろりと手鏡が落ちた。


「おっと。危ない危ない。割れてないよね?」


手のひら程の鏡をチェックしていると、そこに映っていた私の顔が急にぼやけた。


「あ…これって…」


さっきのオディの言葉を思い出す。

私の見たい人って…もしかして。

食い入るように見ていると、ぼやけていた鏡の映像が定まった。


「オルフェ王子…!」


そこには思った通りオルフェ王子が映し出された。

周りは暗くて見えないがどうやら火の元で何かを考え込んでいるようだ。


王子…。

オルフェ王子だ。


私は早まる鼓動を落ち着けながらその顔を見つめた。

離れた日が、もうずっと遠く感じる。

こうして見ていると何だか胸が痛い。


黒魔女である私は王子のそばにいられない。

そう納得したから、離れた。

でもそれはもしかしたら自分勝手な判断だったのかな。

だって私は王子の言葉をちゃんと聞いていない。


…。

…ううん。

今回のことばかりじゃない。

私、今まで王子の言葉にちゃんと耳を傾けたことあった?


王子が私を本気で欲しいと言ったあの日。

あれはどこまでが本当だった?

あの時、王子は何の話をしていた?

王子は私の運命を聞いても諦めるなと言った。

笑って受け止める私にそんなことしなくてもいいと。


王子と離れて、こうやって初めて気付くことばかりだ。

今更言葉の一つ一つが胸にしみる。

あれは嘘でも何でもない。

ちゃんと私に送ってくれた王子の言葉なんだ。

私は目頭が熱くなると眠るオディを引き寄せた。


「王子…」


会いたい。

会ってどうすればいいのかなんて、分からないけれど。


「…行かなきゃ」


今はただ、一刻も早く危機を伝えないと。

私はゆっくり立ち上がりオディを抱え直した。

そして手にした手鏡を握りしめ、この先にそびえているであろう超えるべき山に向けて歩き始めた。

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