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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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鏡のお告げ

私は大人しくオディに連れられて歩いたが、地下への階段を五つ降りたあたりで不安になった。


「オディ、まだ降りるの?」

「うん、こっち!みんな喜んでくれるよ」

「みんな??」


オディは細くてやたら長い通路に出ると小走りで進んだ。


「あ、待って」


仕方なく後を追っていると途中で体に違和感を覚えた。

どこかぴりっとしたものを全身に感じる。

これは…

何となくあの洞窟を彷彿とさせられるぞ。


「…オディ!や、やっぱり戻ろうよ」

「もう着いたよ」

「え!?」


オディは通路の途中の何でもない壁の前に立っているだけだ。


「着いたって…」

「こうするの」


オディが右手を壁にぺたりとつけると、壁の一部が淡く光りあっという間に消えた。

その先に見えたのはまさかの外の風景。

私は感覚が付いていかずに混乱した。


「え…あれ??だって結構地下に来たはずじゃ…」

「うん。ここだけツツにつながってるんだよ」


オディの説明は明確だがさっぱり分からん。

突然開かれた外に出ると、ちゃんと空も太陽もあった。

降り積もる雪景色の向こうには小川まである。

どう見ても地上だ。


…そうか。

ここは全く別の場所に繋がる入り口だと解釈すればいいのか?

オディは元気に雪の中へ走り出すと大きな声を出した。


「みんな!!黒まじょさんをつれてきたよ!!でもみぃはこわくないよ!!」


オディの声は雪に吸い込まれて消えた。

だがその数秒後に私の目の前の雪が吹き出した。

雪の中から四人の人が現れた。


「オディ、黒魔女って本当なの!?」

「バカだな。黒魔女が恐くないはずないだろ!?偽物じゃねぇのか!?」

「黒魔女…」

「ほほ。これも導きかえ」


一人は大蛇を首に巻いたメタリックな色の髪の女。

一人は山のように大きく体毛の濃い、まさに熊みたいな男。

一人はフードをかぶった顔の右半分が真っ黒な少女。

そして最後の一人は腰が曲がり、古くて丸い鏡を持った老婆だ。


私は思わず後ずさった。

何だこのアルゼラを代表するかのような濃い方たちは…。

すっかり逃げ腰になっていると、老婆が一歩前に出た。


「おじょうさん。あんた何しにここへきたかね?」


何しに来たんだろう。

私が一番知りたい。

老婆はぎょろぎょろと動く目玉で私を見た。


「ふむ、これは良くないな」

「へ?」

「あんたの周りに不吉な影がざわめいておるぞ」


不吉な影。

何だかインチキ占い師にでもつかまったみたいだぞ。

老婆は鏡を撫で始めた。


「あんた、想い人がおるようじゃの」

「えっ」


勝手に浮かびかけたものを反射的に首を振って打ち消す。


「い、いませんいません!!」

「嘘をつきなさんな。婆にはちゃあんと見える。その男に死相が出ておることもな」

「え!?」


今…何て言った!?

老婆は何度も鏡を撫でながら確信を持って頷いた。


「それも病や寿命ではなくどうやら人の手にかかるようじゃ」

「そ、そんなはずありません!!」


私はぶんぶん首を横に振った。


だって、だって!!

王子には沢山の護衛がいるはずだし、パッセロでコールを送り届けたらさっさとスアリザに戻るはずだよね!?

それに何よりあの最強のレイがそばにいるんだから!!


老婆は撫で続けていた古い鏡を私に向けた。

そこに映った姿に一瞬どきりとする。

いつの間にかすっかりイザベラ姫が映ることに慣れていたようで、本当の自分が映るほうがしっくりこない。

表情の乏しい青白い顔に私は思わず目を逸らしてしまった。


「しっかり見ててごらん。この鏡はね、あんたの周りで騒いでいるものから見える元凶を探し出してくれる」

「元凶…」


私はもう一度鏡をちらりと見た。

するとそこには私ではなくどこかの荒野が映っていた。

場面はゆっくりと移動し、やがて荒野を通り抜ける一団が見えてきた。


「あ…セスハ騎士団!?」


私は鏡を掴んで見入った。

そこにいたのは間違いなくセスハ騎士団だ。

魔物を退けながら北へと進んでいる。

鏡は集団に近づき、先頭付近まで迫った。

騎士団、団長、結界師、貴族騎士、それから…。

思わず息を飲んだが、鏡はその手前まで迫ると急にぷつりと映像を消した。


「あ、あれ!?」


私は鏡を揺すったがどう目を凝らしても見えるのは私の顔だけだ。

老婆は低い声で言った。


「最後に見えたものは何じゃ?」

「え?」


最後に見えたもの…。


「それが元凶のはずじゃ」

「えっ…!?」


私は勢いよく首を振った。


「いや、それは…それだけはありえません!!」

「鏡は嘘をつかんよ」

「違います!!絶対に!!」


頑なに言う私に、蛇を巻いた女が言った。


「ばっちゃんの鏡に間違いはないよ」

「でも!!」

「何をむきになってるの?そんなに意外な人が映った?」


私はきゅっと拳を握ると、私を見つめる人たちを見回した。


…誰か。

誰か違うと言って。


願い虚しく誰も口を開こうとはしない。

私の足は勝手に震えだした。


だって。

だって最後に映ったのは…


「そんな…」


最後に一瞬だけ映っていたのは、氷より冷たい目をしたレイだった。

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