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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
アルゼラへ
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アルゼラのお城

クレレントは家に着くなり遠慮なく根掘り葉掘り聞いてきた。

私は初めこそ躊躇いはあったが、何だかこの人に隠し事をしても無駄な気がして結局聞かれるがままに答えていた。


「なるほどね。黒魔女なのに変わってるなとは思ったけど、人間に育てられたのか」


クレレントは角砂糖を四つも入れたコーヒーをスプーンで混ぜて飲んだ。

私は疑問を口にした。


「あの。その辺私よく分からないんですけど、黒魔女って本来どうやって育つんですかね」

「大体は悪魔が育てるんだよ」

「その…具体的には…?」


クレレントはじっと私を見つめた。


「悪魔は自分に弱りを感じると人の形をした現し身を生み落とし、それに人の子の中から黒魔女の素質のある赤子を探させる」

「はい…」

「現し身は奪った赤子を悪魔好みに育て上げられるのさ」

「悪魔好み…?」


悪魔好み…。

何だかおかしな想像をしそうになったが、クレレントは真面目な顔で続けた。


「そう。つまり悪魔にとって都合のいいようにね。無感動、無感情で悪魔に一切逆らわないように育てられるのよ」

「えっ」

「だから黒魔女っていうのは人に興味がなく冷酷無比な者が殆どね」


なるほど。

それで巷で聞く黒魔女の噂は良くないものが多いのか。


「ミリちゃんの話からすると、生みの母親はきっといち早く貴女が悪魔に魅入られたことに気付いて攫われる前に逃げ出したのね」

「素朴な疑問なんですけど、それって気づけるものなんですか?」


クレレントは難しい顔になった。


「…気付ける人もいる。ううん、聞こえる人もいる、というのが正しいかな。それにそれなりに知識も持ち合わせていないと無理ね」

「知識」

「そう。やっぱりそういうことを詳しく知っていないと…」


言いながらクレレントは急に立ち上がった。


「そうだ!!ミリちゃんお城へ行く!?」

「へ!?」

「ミリちゃんのお母さんって、多分アルゼラの人なんじゃないかな?悪魔の声が聞こえてそれなりに知識がある人なんて城の他にそうそういないよ!!」

「ええ!?」


そ、そういえば本当の母親のことなんて考えたこともなかったな。

でもまさかアルゼラの人だなんてこと、あるか!?

愕然とする私をよそにクレレントは既に玄関扉を開いている。


「行こうミリちゃん!善は急げよ!」

「え、いや…でも…」

「ほら!日が暮れたらややこしいのもいっぱい出てくるしさ!」


ややこしいの…?

よく分からないがここがアルゼラだというのならば何が出るか分かったもんじゃない。

私は大人しくクレレントについて外に出た。


「城までは一気に行くから私の手を離さないでね」

「えっ」

「はい、息止めて」


せっかちなクレレントは私の返事も待たずに右手を振り上げた。

半分沈んだ太陽がその手を照らした瞬間、私の体はとぷんと地面の中に沈んだ。


眼に映るのは真っ暗な空間と無数の光。

星空に似てはいるが、その暗闇は絵の具で黒く塗りつぶしたかのような温かくも重いものだった。

ネイカの蒼い空間とはまた違うなと思いながら眺めていると、体が何処かへと引っ張られた。


「…っぷは!!」


下に地面の感触がしたと同時に私は盛大にむせた。


「げほっ!!げっほげほ!!」

「ミリちゃん大丈夫!?」

「げほっ、ごほっ、ずびばせ…がはっ」


前もこんなんだったな。

進歩ないぞ、私。

クレレントが私の背をさすっていると、何処からともなくオディが走ってきた。


「ママ!みぃ!」

「あれ?城で何してんのよオディ。森は?」

「いってきたよ。でもきげんがわるくてダメだったの」

「ユイオンの?おかしいね。何か聞こえた?」

「うん。もりから出たいんだって」

「森から…」


クレレントは考える顔になった。


「…分かった。調査隊に森を調べるよう依頼してくる。ミリちゃん、悪いんだけどオディと先にお城見学でもして待っててくれる?」

「は、はぁ…」


クレレントは私の返事を聞く前にもう走り出していた。

私はオディと二人になると辺りを見回した。


高い天井もだだっ広く作られているホール全体も、全て氷で作ったかのように透明か白色をしている。

ホール内では私たちと同じように突然現れた人たちが忙しく行き来していた。


「みぃ、いこう?」

「う、うん…」


私はオディに手を引かれて氷のホールを出た。


「うわぁ…」


そこは今まで見たどのお城とも違っていた。

美しさに劣りはないが、とにかく全てが磨き上げられた氷で出来ている。

それなのにここもやっぱり全然寒くない。

私は改めてこの不思議なアルゼラのお城を見ながら歩いた。


すれ違う女の人達は皆半透明に近いレースを何重にも折り重ねたドレスを身にまとっている。

それも今まで見てきたドレスとは全く違うほっそりとした上品なデザインだ。

肌は揃って雪のように白く髪の色素も薄い。

さながら雪の妖精のような出で立ちだ。


反対に男性は皆揃って濃紺のかっちりとしたジャケットを着ている。

城に入るほどの貴族にしてはシンプルだが、私は案外こっちの方が好みだ。

その他にもメイドや騎士、何だかよく分からない職業の人もいたが皆揃って白か黒寄りの服だった。


こんな時だが、やはり私の創作意欲は刺激された。

何だか無性に帽子が作りたい。

今ならアルゼラの特徴を折り入れた綺麗系の帽子が浮かぶ気がするのにな。

一人妄想に耽っていると、絵が下手くそだと顔をしかめられたことを思い出した。


「…ネイカ」


ぽつりと名を呼ぶと余計に次々とネイカの顔が浮かんだ。

オディは急に元気をなくした私に気づくと心配そうに覗き込んできた。


「みぃ?どうしたの?」

「あ…。ううん。何でもないよ」


私は無理矢理笑顔を作るとまた歩き出した。

オディはまだ私を見上げていたが、何かを思いつくと笑顔で手を引いた。


「そうだ。みぃ、いい所につれていってあげるよ!」

「いいところ?」

「うん!ほんとはかってに入れないけど、みぃは黒まじょだからいいよ」

「へ?」


意味が分からず首を傾げたが、オディは私の手を引いたままお城の地下へと階段を降り始めた。

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