残されたネイカ
ネイカはやっと自由に部屋の外に出られたことに晴れやかな気分になった。
手厚い対偶を受け体もすっかり元気だ。
「はぁ、それにしても二週間も閉じ込められてたらおかしくなっちゃいそうだわ」
急遽ミントリオを発つことになったと聞いたので、ネイカはとりあえずエントランスを目指した。
辿り着くと大きな扉が開けっ放しになり、伝令の人が行き来しているのが見えた。
「外に出てもいいのかな?ミリはどこにいるんだろう」
正門まで出てみるとセスハ騎士団が整然と並んでいるのが見えた。
残る姫はイザベラ姫一人。
となれば見つからないはずはないのに何処を探してもその姿がない。
だがその代わりにコールを見つけた。
「あの…」
「あ、ネイカちゃん!!ミリは!?」
「え…」
コールはドレスどころか遠征用の丈夫な皮で作られた男物の服を着込んでいる。
腰にはもちろん剣も下げている。
だがその顔色は優れなかった。
「昨日ね、ミリいつもと違う格好で部屋から出て行ったの。目がすごく腫れてて…。それからずっと帰ってないみたいなの。それで今朝、ミリの部屋をもう一度見に行ったらこれをテーブルの下で見つけて…」
コールは一枚のメモをポケットから出した。
そこには見覚えのある字が一文だけ綴られている。
「お世話に、なりました…?」
顔を上げるとコールが半泣きでネイカの肩を掴んだ。
「どうしよう…!!私…私ミリが出て行くなんて全然考えてなくて!!私のせいだわ!!」
ネイカはわけが分からず呆然とした。
「え…だって。私そんなこと一言も聞いてない…」
コールは目元を拭った。
「私もう少しだけ探して来る!」
じっとなんてしていられなかったのだろう。
コールはすぐに走って行ってしまった。
ネイカはソランたちの中にレイがいることに気付くとそっちに歩いた。
「レイ」
レイは振り返ったがその目が何だかとても冷たい。
「あの…」
ネイカは違和感を覚えた。
レイのまとう雰囲気がいつもと明らかに違う。
「なんだ」
「え…と、ミリがいなくなったって…」
レイはふいとそっぽを向いた。
「その通りだ。ミリはもういない」
「いないって、だってミリだけ!?それってまさか追い出されちゃったの!?」
「…」
「ねぇ!!それは…エアラのせいじゃないの!?」
「ネイカ。お前もベルモンティアへ帰れ」
「え!?」
「ミントリオ王に頼めばきちんと送ってもらえるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。本気で言ってるの!?だって…」
レイはネイカを無視すると何処かへ行ってしまった。
「一体何が起きてるの??」
信じられない思いで愕然としていると、ソランが鼻を鳴らした。
「起きるのはこれからだ」
「え…」
「小娘。巻き込まれたくなければ忠告通り国へ帰るのだな」
「な、何よ…」
ネイカはファッセを見上げたがこっちも硬い顔で俯いている。
「ねぇ、どういうことなの!?」
食い下がろうとしたが、その時城からオルフェ王子が現れ全員が隊列を改めた。
ネイカは我慢できずにオルフェ王子の元へ走った。
「ちょっと、オルフェ王子!!」
王子はいつもと全く変わらぬ様子で振り返った。
ネイカは焦りを隠せぬまま詰め寄った。
「ミリは!?どこかへ行ったって本当なんですか!?」
「先に北へ向かった。サクラの姿がないところを見ると恐らく一人で最北の地を目指したのだろう」
「一人でって…無茶にもほどがあるじゃないですか!!」
「今喚いてもどうすることも出来ない」
ネイカは杖を握りしめた。
一体何がどうしてこうなったのかがさっぱりだ。
「…王子は、このままミリを放っておくの?」
「いや、ミリの跡は探すつもりだ。ドラゴン連れならば噂くらいは立つはずだからな」
「じゃあ、私もミリを探すわ!!」
王子は完全に無表情になった。
「再び会える可能性は限りなく低い。それにこの先も安全とは言い切れぬ旅だ」
「それでも私は諦めないわ」
ネイカは間髪入れずに言い切った。
王子はちらりとネイカを見ただけで隊列の先頭に行ってしまった。
「何よ…」
レイも王子もどこかおかしい。
事情は分からないがこうもあっさりミリを切り捨てられるものなのだろうか。
ネイカが不安にかられているとコールが戻ってきた。
「ね、ネイカちゃん、ダメ…。やっぱりミリの手がかりなんて…」
「ミリなら先に北へ向かったそうよ」
「え!?」
「さっきオルフェ王子が言ったもの」
ネイカはミリそっくりなコールの顔を見ているとなんだか少しだけ安心した。
「私、ミリを探すためにこのまま王子について行くわ。だから、あの…」
「なに?」
「貴女と一緒にいてもいいかしら」
「もちろんよ。私もネイカちゃんがそばにいてくれたら嬉しいわ」
コールもどことはなしにほっとした顔になる。
二人は頷き合うと列に並びに行った。
レイは王子の側に戻ると敬意を払って頭を下げた。
だがその立ち位置はいつものように王子の隣ではなく、ソランたち貴族騎士の先頭であった。