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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔物と黒魔女
126/277

覚悟

「や、やった!!凄いわ!!」


コールはレイがすべての黒蛇を撃退したのを見て思わず歓声を上げた。

だがエスブルは首を横に振った。


「駄目だ。何度黒蛇を撃退してもそれじゃあ終わらない」

「どうすればいいの?あの剣に刺さってる本体の首を切るとか?」

「それだけはしてはいけない」

「え…?」


エスブルは険しい顔になった。

コールはさっき聞いた仮説を思い出した。


「そっか。バジリスクがいないと結界がなくなるからね」

「なに…?コール!!どうして君が…!?」

「ルベに聞いたの」

「ルベ…あいつ!!」


本当はルベが直接教えたわけではないが、コールは余計なことは端折った。


「エスブル様、どうすればいい!?」

「それは…」


エスブルはバジリスクを縫い付ける木を見上げた。


「本来なら俺たちがしなければならないのはバジリスクを再び鎮静化させるための結界を立て直すことだ」

「鎮静化させる結界?」

「あぁ。どうやら今回の騒ぎの原因となったのはその結界の破損のせいらしい」


コールも木を見上げた。

だがどこにもその壊れたという結界は見当たらない。


「どうすればその結界を立て直せるの!?」

「君には無理だ。俺がやる」

「それこそ無茶言わないでよ!!私が代わりに…!!」


エスブルは少しだけ笑みを浮かべるとコールの頬にそっと触れた。


「コール」

「は、はい」

「君に出会えたことは俺の人生で最も幸運なことだったよ」

「…エスブル様?」


エスブルはそのままコールの頬に口付けると

力を込めて抱きしめた。


「よし、やっと腹を括った。コール、俺はあの蛇の裏側へ行く。手を貸してくれるか」

「分かった」


コールはエスブルの懐に潜り込むと肩を貸すように立ち上がった。

二人は寄り添いながら歩こうとしたが、その前に傷を負ったはずの大鷲団の男たちが何人も立ちふさがった。


「エスブル王!!い、いけません!!」

「エスブル様!!」


コールは驚いてエスブルを見上げた。

エスブルは穏やかな笑みを浮かべている。


「俺がこうして早く決断していればもっと被害は少なかったな。…すまない」

「エスブル王!!あ、貴方はまだこの国に必要な方です!!」

「そうです!!まだ他の方法があるかもしれません!!」


男たちは口々に懇願した。

コールはその口調に只ならぬものを感じた。


「エスブル様…?」

「コール、行ってくれ」

「でも…」

「気にするな。これは王としての務めだ」


大鷲団の男たちはそれでも退こうとはしなかった。

エスブルは無表情になると泉を顎でしゃくった。


「このままではあの剣がバジリスクを抑えていられるのも時間の問題だ。あいつが自由になればもう誰も助からない。そうだろう?」

「エスブル王…」

「大鷲団、これは俺の最後の命令だ。俺の邪魔をしようとする黒蛇は残らず叩き伏せろ」


男たちは顔を歪ませながらも敬礼の姿勢をとった。

エスブルはその横を通り過ぎようとしたが、今度はコールが動かなかった。


「コール?」

「エスブル様…」


コールは泣きそうな顔で見上げた。


「どういう、ことですか?」

「行けばわかる」

「だってエスブル様…これじゃまるで死にに行くみたいだわ…!!」


エスブルはふっと笑った。


「そう簡単に死にはしないさ」

「…本当に?」

「ああ」

「…」

「行こう、コール」


コールはまだ動けなかったが、エスブルが歩き出しては進むしかない。

コールはエスブルの決意の固さを感じ取ると、何も言えずにただ寄り添い一歩ずつ歩いた。



一度全て泉に戻った黒蛇たちは、再び頭を取り戻すと勢いよく水から現れた。

それらは一斉にバジリスクを攻撃するサクラ目掛けて襲いかかった。


「サクラ!!」


私は思わず叫んだが、頭のいいサクラは羽を広げるとちゃんと空に逃げた。


「よ、よかった…」


とりあえずほっとしたが、黒蛇たちは標的をすぐにオルフェ王子とレイに切り替えまた襲い始めた。


「ネイカ!!行こう!!」


私はネイカの手を取ったがそれはすぐに振り払われた。


「ネイカ!?」

「む、無理よ!!あんなのに敵うわけないじゃない!!」

「でもやってみないとこのままじゃ…!!」

「知らない知らない!!どうせ何をしても私なんて魔女だ魔物だって蔑まれて終わりよ!!それならやるだけ馬鹿みたいじゃない!!」

「ネイカ…」


私は泣きそうになりながら睨んでくるネイカを見つめた。

そうか。

ネイカは今までそんなに傷ついてきたんだな。

…よし。


「分かった」

「え…」

「その役は私が引き受ける」

「は…?」


ネイカは意味がわからず眉を寄せた。

私はうんうんと頷いた。


「私が魔力を使ってるふりをする。別に蔑まれようが石を投げられようが罵声を食らおうが気にしないし」

「…」

「それに私は本当に黒魔女なんだから、今更魔女!!とか言われてもはいそうですよって感じだし」

「…」


私は胸を張って主張したが、ネイカは的を外しまくった説得に脱力した。


「べ、べつに私だってそれが怖いわけじゃないわよ。言うならば損得の話で…」

「損得?」


私はきょとんとなったがすぐに明るい笑顔を浮かべた。


「なぁんだ!!それなら問題ないじゃない!!上手く大蛇を森の奥へ逃がせたらみんな得なんだから!!」

「みんなとく…」

「そう!!」

「みんなとく…」


私は大真面目に言ったつもりだったのだが、ネイカは今度こそ頭を抱えこんでしまった。

後で指摘されたが、この時は皆の得の為に自分たちが大損となる役割をしようとしていることになんて微塵も気付いていなかった。


「とにかく早くオルフェ王子の所に…」


言いかけた時、藪の方から騒がしい声がした。

そしてそこからどやどやと魔物を振り切った近衛兵やファッセたちまで流れ込んできた。


「エスブル王!!」

「エスブル様!!どこですか!!」

「やや!?これは大鷲団!?皆やられたのか!?」

「魔物はどこだ!!」


近衛兵たちは荒々しく叫びながら花畑を踏み荒らし進んだ。


「な、なんだあの大蛇は!?」

「エスブル様はまさかあれを退治しに!?」

「あそこにスアリザのオルフェ王子がいるぞ!!」

「黒蛇に襲われている!!援護しろ!!」

「蛇を退治して町に平和を取り戻すんだ!!」


戦いの勢いそのままに揃って泉に走り出す。


まずいな。

なんかややこしい事態になってきたぞ。


私はソランたちに見つからないように小さくなって少し離れた。


「ミリ…」

「こっち。私たちは側面から近づこう」

「どうしてもやるの?」

「うん。多分うまくいくよ。私も頑張って力貸すから!」


ネイカは少しいつもの調子を取り戻すと呆れて言った。


「ミリのへなちょこな力を貰ってもね」

「う…そ、そうだけど!!」

「分かったわ。でも成功する保証はないからね」

「うん。大丈夫!!」

「…」


ネイカは諦めたようにため息をつくと杖を一回しして握り直した。

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