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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔物と黒魔女
125/277

バジリスクの血

私はレイに続いて藪の中に突っ込んだ。

体にびしびしと葉や枝や何だか分からないものが当たりまくる。

それを掻き分けていると急に景色が変わった。


「っとと、抜けた!」


まず目に飛び込んで来たのは清らかな泉。

そしてそれを取り囲む色とりどりの花畑だ。

私の後ろから飛び出してきたコールは剣を構え辺りを見回した。


「あ…!!」


泉の周りには揃いの鎧を着た男たちが花畑に倒れ込んでいた。

まだ辛うじて立つ者も数人いたが、コールはその中にエスブルの姿を見つけると一目散に駆け出した。


「エスブル様!!」


エスブルは倒れこそしていないが、足を負傷したのか血を流しながら片膝をついていた。


「エスブル様!!エスブル様!!」


コールは勢いのままエスブルに飛びついた。


「エスブル様!!怪我したの!?」

「コール!?」


エスブルは驚きに目を見張った。


「コール!!無事だったのか!!」

「えぇ!!心配掛けてごめんなさい!!」

「全くだ!!」


エスブルはコールを力一杯抱きしめたがその手をすぐに離した。


「コール、ここに来てはだめだ。今すぐ城へ帰れ」

「一人で帰るなんて嫌よ!!それにエスブル様のこれ…魔物の傷じゃない!!」

「そうだ。あいつはもう我々では手に負えない。オルフェ王子があれを抑えている間にお前は逃げろ!!」

「オルフェ王子…?」


コールは泉を振り返った。

水は特に荒れることもなく凪いでいる。

その先にエスブルとは真対側の泉の淵で一人で立つオルフェ王子を見つけた。


「あんな所で何を?」


泉に向けて剣を構える王子に首を傾げていると、凪いでいた泉の水面がぼこぼこと不吉な泡を噴き出し始めた。

コールがエスブル王を見つけたのと同時に、私もオルフェ王子を見つけていた。


「オルフェ王子!!」


レイの後を追いかけて行こうとしたが、後ろからくいと肘を引かれた。


「ミリ…き、気持ち悪い…」

「ネイカ!?」

「ここの水…教会の泉と同じ気持ち悪さを感じるわ。ううん、もっと酷い感じ」

「水!?」


私は泉に目を凝らした。


「…べつに何にもなさそうだけど」


ぐるっと見回し最後に真ん中の巨木に目がいく。

初めは分からなかったが、よく見ればそこに木と同化した巨大な蛇がいることに気付いた。


「ひぇ!?へへへ、蛇!?あれがバジリスク!?大きすぎない!?」


びびっているとその蛇が真っ赤な目を開いた。

バチリと目が合うと私の肌が一気に泡立った。


や、やばいやばい。

あれはやばい!!

今までの魔物となんか全然違うぞ!!

遠目ながらも足がすくんでいると泉から一斉に飛沫が跳ね上がった。


「うわ!!な、何!?」

「蛇だわ!!何匹いるの!?」


泉から出て来たのは数十匹の黒い体をした大蛇だった。

バジリスクほどではないが充分大きい。

それにどれも禍々しいほどに目を赤く光らせていた。


「はわわわ!!」

「皆きっとあれにやられたんだわ!!」


オルフェ王子は騒ぎもせず静かに剣を構えている。

だがどう考えてもあんなのにたった一人で勝てるはずがない。


「オルフェ王子!!」


私の頭は真っ白になった。

どくどくと嫌な鼓動が耳元でこだまする。

もし、もしオルフェ王子がやられたら…。

いなくなる?

オルフェ王子が?

私は今まで考えたこともなかった可能性に気付くと小さく震えた。

レイはオルフェ王子の隣に辿り着くとすぐに剣を構えた。


「オルフェ様!!」

「レイか!!」

「はい!!」


黒蛇は不気味に唸ると一斉に二人に襲いかかった。

オルフェ王子は自分を狙う蛇は確実に退け、レイは自分から打って出ると三匹の蛇を一気に切り払った。

だが蛇はまた次々と泉から姿を現してくる。


「あの黒い蛇は全てバジリスクの尾だ!!何度切っても水の中ですぐに再生して出てくる!!」


王子が言うとレイは即反応した。

跳躍態勢に入ったがすぐに舌打ちが漏れる。

さすがのレイでもあの本体までは跳びきれない。


「くそ…!!」


石でも投げつけてやろうかと睨んでいると、空から何かが急降下して来た。


「サクラ…!?」


サクラはバジリスク目掛けて鋭い爪を繰り出した。

大きな牙を避け何度も何度も襲いかかる。


「そうか。お前がオルフェ様を守っていたのか…!!」


レイは黒蛇の動きが鈍ったのを機に一気に全首をぶった切った。

頭のなくなった黒蛇は泉の中に引き込まれ、バジリスクから地鳴りのような唸りが響いた。

それは背中が凍りつきそうなほど恐ろしい振動だった。


「血だわ…」

「え?」


ネイカは水面に黒く揺らいだ液体に嫌悪感を抱いた。


「うっ…」

「ネイカ!?」

「私の中のエアラが、あの血に反応してる。何だか逃げたくて堪らない衝動に駆られるわ」

「逃げたくて堪らない…?」


逃げたくて堪らなくなる、バジリスクの血…。

魔物が、魔物だけが感じるもの…?

私の中で不意に何かが繋がった。

ばっと振り返りバジリスクを縫い止める剣に目を凝らす。


「そ、そっか!!それが結界なんだ!!」

「え…?」

「あの突き刺さった剣からは、昔からずっとバジリスクの血が少しずつ流れ続けてたんじゃないかな!?」


そしてそれが泉に溶け込み、魔物を寄せ付けない効果を発揮していとしたら…?

そうなれば表の教会はハリボテなんかじゃなく、あそこまでここの水を引く役割を持った設備なのかもしれない。

ネイカは口元を押さえながら吐き捨てるように言った。


「ルベが言い渋るわけね」

「へ?」

「そんなこと町の人々が知ればパニックが起こるわ」

「な、なんで??」

「当たり前じゃない。聖なる結界だと信じていたものの正体が穢らわしい魔物の血だったのよ?下手をすれば長年嘘をついていた王家にやり場のない怒りと批難が殺到する騒ぎになるわ」


…いや、待て。

流石にそれは勝手だろ。

今までそれで国が守られてきたのは事実だし。

のうのうと安全に暮らしてきたくせに、文句なんて出るものなのか?


「あのバジリスク、何とか抑えられないかな」

「ミリ…?」

「斬り殺すんじゃなくてさ。なんとか怒りを鎮めてもっと森の奥へにげてもらうとか」

「馬鹿言わないでよ!!大体魔物に意思なんてものはないのよ!?本能的に危機を感じなきゃうまく逃げてなんてくれないわ!!」


本能…。

じゃあもしバジリスクが本能的に勝てないと思えるようなものが現れたら?

私は頭をフル回転させた後にネイカの両肩をがしりと掴んだ。


「ネイカ!!」

「な、なに…」

「お願い!!私にネイカの力を貸してちょうだい!!」


ネイカは嫌な予感に杖を握りしめて後ずさった。

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