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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
魔物と黒魔女
122/277

森の中とルベ

森は薄暗く、吹き抜ける風が立ち並ぶ木々を不吉にざわめかせる。

人の足跡を辿って進むものの、整備すらされていない道なき道は難所続きだった。


「ち、ちょっと待ってコール」

「ほら、ミリこっちよ。そんな岩くらい飛びおりなさいよ」


そんな岩って…。

自分の身長より高い岩なんかそうそう気軽に飛べないぞ。

それに飛んだ先に泥濘みがあるんだから着地と同時に面白コケは免れないじゃないか。


「ミリ遅い」

「うぅ…ネイカまで」

「どいて。先に行くわ」


ネイカは杖で片手が塞がっているにも関わらず器用に岩肌を滑り降りた。

しかも上手に泥濘みを避けて着地している。

一人とろくさい私は結局コールとネイカに手を借りながらなんとかひとつひとつ乗り越えて進んだ。


「あ…あそこ。まただ」


コールは不自然に光る木を見つけるとそこへ向かった。

光る木の下には何人もの負傷者が転がっている。


「近衛兵ね。これで何人目かしら」


コールは青い顔をしながら杖を持つ男に話しかけた。


「貴方もスアリザの結界師さんね?」

「い、いかにもだが。こんな危険な森で女が何をしている!?」

「エスブル様を探しているの。どっちへ行ったか教えてくれる?」

「ミントリオ王を!?」


結界師は首を横に振った。


「これ以上森の奥へは行かない方がいい。お前たちもすぐこの負傷兵の仲間になるぞ」


コールは男に笑いかけた。


「心配してくれてありがとう」

「礼など…」

「貴方ここで負傷兵が魔物に襲われないように守ってくれてるのでしょう?」


光る木は文字通り結界師が作った魔物避けの結界だ。

これで森に入って見かけたのは三つ目。

皮肉にも森の奥に進むのに一つの目印になっている。

私たちは結界師が止めるのも聞かずにその場を離れて更に進み始めた。


「一体この奥に何があるのかしら」


暗い茂みに目を凝らしていたコールは、ふと足を止めると剣を構えた。


「コール?」

「しっ。何かいる」

「ど、どこ!?」

「あの木の根元よ」


コールは慎重にその木に近付いた。

だんだんはっきり見えてきたそのシルエットはどうやら人間の形をしているようだ。

コールはそっと呼びかけた。


「…誰か、いるの?」

「え?」


その人影は驚いて少し身を乗り出した。


「…その声は、コール?」

「え?」

「やっぱり!!何してるんだよこんな所で!!」

「あ、あれ!?ルベ!?」


コールは木にもたれかかって座る青年の前にしゃがみ込んだ。


「もしかしてやられたの!?傷は!?」

「やられてない。休憩してただけだ」

「嘘言いなさいよ!!どこを魔物にやられたの?っていうか、どうしてそれなら結界から出てきたの!?ほら、早く見せて。ろくに剣も持たない貴方こそ何でこんな森に…」

「う…いてて」


コールはルベの服を引張替えした。


「脇腹ね。傷は浅いけど…」

「ごめん。兄さんのことが気になってのこのこ跡を追ったらこのざまだ」

「本当よ!って、私も人のこと全然言えないんだけど…」


私は何となく見覚えのある青年の顔をまじまじと見ながら聞いた。


「えと、誰…??」

「あぁ、エスブル様の弟のルベよ。私と同じ歳なの」

「弟…」


なるほど。

言われてみれば似ているな。

コールはルベの肩を掴んだ。


「ねぇ、今ここはどうなってるの?エスブル様はどうしてこんな森の中に?」

「それは…」


ルベはきゅっと唇をかんだ。


「ごめん、言えない。これはミントリオの王家にのみ引き継がれた秘密なんだ」

「王家にのみ?」


コールは眉をつり上げた。


「じゃあ、話してよ!!私はもうその仲間入りになるんだから!!」

「え!?じゃあ兄さん、とうとう…?」

「ええ。ちゃんと私との約束守るって言ったもの!!」

「いつかコールを見受けるってやつ?なんでまた急に…」

「私が練習試合に全勝したから」

「練習試合!?そ、そんなことで!?」

「そんなことはいいから早く吐きなさいよ!!」


ルベはがっくりと力なくうな垂れた。


「…やっぱり言わない」

「な、何でよ!?」

「君に見る目がないから」

「はぁ!?」

「それに僕はもう魔物の傷を負わされてるし。あぁ、早く戻って浄化してもらわないと」

「あんた、さっきやられてないとか大見栄切ってたでしょ!?」


静かにやりとりを見ていたネイカは痺れを切らせると青年に杖の先を向けた。


「ねぇ貴方、飲み水くらい持ってるわよね?」

「な、何だ君は!!無礼だぞ!?」

「ミリ、その人の腰の水筒開けて」


私はネイカが何かをするつもりだとピンときた。


「分かった」

「え、ちょっ、やめろ…って、あれ!?」


青年は私の顔を見て抵抗する手を止めた。


「コール??黒髪のコールだ…」


私はその隙に青年の水筒の蓋を開いた。

ネイカはその先に杖を当てると目を閉じた。


「な、何…??」


コールもネイカが何かをしようとしていることに気付き息を飲んだ。

青年は訝しげに私たち三人を見上げた。

次の瞬間水筒の飲み口から水が勝手に躍り出た。

それは黒いミニウツボに変わると青年の傷口に思い切り噛み付いた。


「うわあぁ!?」

「ミリ…!?」


青年とコールが叫び声を上げたが、私はじっとネイカを見ていた。


「ま、魔物だ!!噛まれた!!思い切り噛まれたぞ!?うわあぁ!!」


ウツボは水に戻ると地面に落ちた。

目を開いたネイカはうるさそうに傷口をつんつんと杖でつついた。


「騒がないでよ。これはサービスだからね。ほら、もう傷口の穢れはないでしょう?」

「え…」


コールとルベは揃って脇腹の傷口を見た。

さっきまでどす黒い色をしていた傷口はただの赤色に戻っている。


「え…、え!?何をしたんだ!?」

「凄い…本当に浄化されてる!!」


コールは目を輝かせてネイカの手を取った。


「凄いわ!!ネイカちゃんの力は本当に凄いのね!!いちいちびっくりしちゃってごめんね!?」

「な、何よ…触んないで」

「あ、ごめん!!」


すっかり興奮するコールに、ネイカは嫌そうに手を引っ込めた。


「変な人…」


ぼそりと言うも、あまりにも素直に賞賛された為かネイカは複雑な顔だ。

コールとは違い、ルベはそう簡単にはこの状況を受け入れられなかった。

まだ青い顔をしたままずりずりとお尻で後ずさりしている。


「ま、魔物…魔物を操った!!この子魔女だ!!」


ネイカを指差し叫んだが、その手をコールがぴしりとはたいた。


「あら、ルベったらその態度は失礼じゃない?」

「だってコール!!今の見ただろう!?」

「見たわ。あなたはネイカちゃんに魔物の傷を浄化して貰ったの。よかったわね」

「コール!!」


ルベは信じられないと両手を広げた。


「コールどうしちゃったんだよ!?」

「うるさいわね。治してもらったことに文句あるなら一人でここでずっと喚いてなさいよ。そのうちまた魔物が新しい傷こさえてくれるわよ。

ミリ、ネイカちゃん、もう放っといて行きましょ」

「あ、こ、コール!!」


コールは私とネイカを促して本当にさっさと歩き始めた。

ルベは慌てて立ち上がると後ろをついてきた。


「コール、そっちに行っちゃダメだ!!」

「この先にエスブル様がいるんでしょ?」

「いるのは兄様たちだけじゃない!!」

「え?」


ルベははっと口を閉じたがコールにひと睨みされると小さくなった。


「わ、分かった。話すよ。でも話を聞いたら君は引き返すと約束してほしい」

「それは…」

「お願いだ」


コールは少し考えた。


「それは話の内容次第だわ。到底無理なことがあるんだったら素直に戻る」

「コール…」

「これ以上譲歩はできないわよ」

「う…」


ルベは困った様子で森の奥を覗き込み、私たち三人を順に見てから声を落として話し始めた。

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